煌めきの中で生きる
山に護られるように囲まれたその大きな街は、日本を背負うほどに大きく賑わい、歴史を紡いでいた。
龍が天空を舞い、輝く光を与えられたその盆地には、数々の神も存在し、そこに生きる人々は、神と共に生きた。
その日々は加護と感謝で、お互いに成り立ち、商業は昇る先が見えないほどに栄えていた。
賑わいは増す一方で、勢いは止まることを知らなかった。
その土地には、山から流れる美しい川と、土地を守るための、境界となるような流れの強い川が2本ながれている。
川もまた、それぞれの役割をもってその街を潤していた。
古くは沢山の水車が回り、ガシャンガシャンという音が、あちらこちらから飛びかっていた。
そこには確かに、最先端の産業が活きていた。
古くは奈良、平安時代までさか登る歴史高いその街の生産は、人々に高い技術がある事にプライドを持たせた。
そのプライドは、生きる活力になり、街もそれに応えるように賑わいをあらわしていた。
人々は絶対王者のプライドを持ち、生きていた。
「かぁちゃん腹減ったよぉ」
丸坊主に、ヨレて白さを奪われたランニング。
日焼けした肌。
開けっぱなしの勝手口からは、美味しいそうな夕飯を作るいい匂いがする。
そんな勝手口に立ち、料理を作っている母親に向けてよしおは声をかけた。
「夕飯はまだだよ。わかるだろう、まだ父ちゃん帰ってきてないんだから」
「もう俺、腹減って死にそうだよ」
しょぼくれた姿でトボトボとひきかえす。
家の門を通ると右に勝手口、正面には楕円形の玄関がある。玄関は人が座れるようになっており、冬には真ん中に縦型のストーブが置けるようになっている。この玄関、子供が上に上がるには多少の高さがある。
左は家の廊下に沿って塀がある。
そこにはに塀に沿って植木が表にも裏側にも並んでいる。
塀は一階部分が隠れる高さがある。
(プワープゥ〜プワープゥ〜)
「よしお!豆腐屋さんが来たから豆腐かってきて。」
豆腐屋のラッパの音が聞こえてきた。
よしおの母は、忙しくエプロンで手を拭くと財布を持ってきた。
「よしお!ほれ鍋もって、それと財布もって」
トボトボとぐるぐる回っていたよしおは、だるそうに鍋と財布をうけとり、豆腐屋の来る道まで行き、そこで豆腐屋の来る方向を何度も覗くように振り向きながらまっていた。
(プワープゥ〜プワープゥ〜)
リヤカーを片手で引きながら、ラッパを吹くおじさんが見えてきた。
「豆腐屋のおじさぁーん」
よしおは気付くように、両手で鍋を高くあげた。
「はい、ありがとう。一丁10円ね」
おじさんに鍋を差し出すと鍋の中に入れてくれた。
10円を払い、よしおは鍋を抱え家に戻った。
勝手口から母に鍋を渡す。
「がま口は?!」鍋を片手に抱えながら、片手を伸ばした。
「あるよぉここに。」
ズボンの右ポケットからはみ出し気味のがま口財布を差し出した。
母のエプロンのポケットに鈴の音と共に、財布は入った。
「父ちゃんまだかなぁ」
勝手口から隣の玄関の敷居にしゃがみ込み、そばにあった石で地面に何かを描いた。
お寺の鐘が18時を告げる。
よしおの腹も鳴る。
玄関の引き戸にもたれ、半ばうとうとし始めたと思ったら眠ってしまった。
母さんは居間におかずを並べている。
「よしお。よしお。起きなさい」
母の声で目を覚ましたよしおは、父に担がれるように抱かれていた。
「よしお!待たせたな。飯にしよう」
「うん!!」
父さんが帰ってきたこと、担がれていたことの嬉しさで、よしおはいっぱいだった。
「晴信と喜久子はどうした?」
父が奥で上着をハンガーにかけながら、言った。
「晴信は泰雄君の家で勉強しながら、そのまま泊まるそうです。喜久子は上にいますよ」
「父さん、早くご飯食べようよぉ〜。」
よしおは父の腕を引っ張り、居間に連れて行こうとしている。
「お姉ちゃん呼ばんとだろ。そうじゃないと夕飯にはならんぞ。上行ってお姉ちゃん呼んできなさい。まっているから」
よしおはえーっという顔をして、階段をハイハイのようにして颯爽と走るように登ると、登り切った先で顔だけ出して姉を呼んだ。
2、3度呼ぶと、
「もう、うるさいなぁ。1回呼べばわかるわよ」
「なんだよ。呼びにきてやったのに。はやく下いこう。ご飯ご飯」
2人は階段を降り、食卓についた。
父がいただきますと箸を取り食べ始めると、ようやく、よしおは食べることができた。
よしおの父は大工職人として、この街の活性を助けていた。