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王女は魔法使いじゃない男に罪悪感を抱いていた

「――やっぱり俺には解んないな。イグニッションの位置。でも光の明るさや色合いは変えられます。色合いはどうします?」


 レイナの出したリュミエールという照明魔法に手を突っ込み、まるで魔法でなく単なる照明器具だという風にアルバートは魔法を弄っている。そして平然と、オレンジ色に近い照明魔法のはずのそれを、色が変えられるけどどうします、なんて当たり前のように聞いてきたのだ。


 レイナは、お前は何を言っている、と内心脅えたが、ごくりと唾を飲んで自分を抑えた。それから平然とした様子を繕ってから答える。


「目に痛いほどの光にできるか?」


「MP使用量が変わりますが」


「できるんだ!!」


「え?」


「い、いいよ。めくらましが出来れば逃亡時間が稼げるだろ?」


「ですね」


 レイナの目にもアルバートが魔法組成を書き換えているたところが見えたが、自分の魔法なのにその組成の意味が分からないのが不甲斐無い。しかし、アルバートが作った魔法組成――古では魔法陣と言われていたものが、彼女が最初に発動した魔法のものよりも美しいと思った。

 そして、その図案を脳に描いてしまった。


 ピカッ。

「うわあああ。目がああ、目があああ」


 作業しているアルバートの真ん前に、もう一つのリュミエールが出現したのだ。

 それも、アルバートが現在調整中の煌々と輝く白色タイプと同じものである。

 アルバートは両目を押さえて床に転がってしまった。

 レイナは慌てて転がるアルバートの体を揺する。


「大丈夫か? すまん。だが、詠唱もしていないのに出るとは、一体」


「ああ。俺のせいです。俺が編成した組成図が魔法陣の役目をしたのでしょう。見ただけで発動できるなんて、レイナ様のイグニッションは繊細なんですね」


 レイナはなぜか照れていた。

 大柄で壊しても壊れない女。

 王妃に似た小柄な姉達やその取り巻き達には、レイナはみっともないぐらいに大きく見えるらしいのだ。レイナは彼女達に聞こえよがしに、何度も何度も体格や外見への当て擦りを囁かれて来ている。

 そんな彼女だからか、繊細、という形容詞がこそばゆかった。


「そ、そうかな」


 彼女は勝手に出てしまった光を消す。けれど、消してすぐに再び脳裏に先程の魔法陣が浮かび上がる。

 ピカッ。


「わお。すごいな。私の頭の中にさっきの記憶がある限り、光は勝手に出るな」


「そうですか。それは危険だ。攻撃魔法だったら大変だ。脳裏に刻むのは簡単に発動できるようになるけどリスクの方が大きいですね」


 アルバートは寝転がったままだが光へと右手を伸ばし、指先で何かをなぞる。

 するとレイナの頭の中で点滅していた魔法陣が、脳裏からすっと消えた。


「消えた。これはえと、私の脳裏に、刻んだ、から? ってお前は。この私をモルモットにしたのか」


「弄って良いって言いました。今までと違う魔法にするには弄るしかないじゃないですか」


「確かにな。だが弄られるのは私の魔法であって、私の体だとは思わなかった」


「俺が弄ったのは、あなたの、からだ、だった。ああ!!から、からだを」


 アルバートの顔は真っ赤だ。

 レイナはアルバートを笑い飛ばしながら、アルバートは不思議な魔法使いだ、と改めて思った。


 彼はどんな魔法も発動できない。

 その代わりのようにして、彼はどんな魔法も固定したりリセットしたり、それどころか書き換える事まで出来る、というスキルを持っているのだ。


 その上、魔法使いの頭の中までそのスキルの指を捻じ込める、という恐ろしいことができる事実をたった今知ったのである。


「お前、やばいな」


「違います。レイナ様の体をどうとか考えて無いです。その目で見下される視線がちょっと嬉しいとか思う時もありますけど」


 その日のその後、アルバートが塹壕堀をさせられたのは言うまでもない。



「アルバート・リーヴェス。彼から博士号を取り上げる国は無能です」


「私もそう思う」


 レイナはダスタに相槌を打ちながら、アルバートを潰したのは自分だと考えた。

 レイナがアルバートを重用したばっかりに、彼はレイナに向けられるはずの悪意を向けられたのである。


 そんな事が起きないように、アルバートと二度と会うことがないように気を付けたし、自分との関わりだって全部絶ったというのに、と。


「でも確かに。魔法のマの字もわからない幼児でも魔法が使える様になったら危険ですものね。彼の研究全て封印の上破棄は、仕方が無いんでしょうかね」


「――そうだな。魔法を使えることがステイタスの王侯貴族に対して、国民誰もが魔法投石が出来るようになるんだ。あの臆病な鼠には怖くて仕方がなかっただろう。――ありがとう、ダスタ」


「俺が何か?」


「お前の一言のお陰で、私がアルバートに対して無駄な罪悪感を抱く事は無いと思い直せた。私がいようといまいとあいつは勝手に潰されていたな。その通りだ」


「ハハハ。せっかくですから罪悪感を抱いてやって下さいよ。無関心の方が男は傷つきますって!!」


 レイナは本心を隠してダスタに笑って返した。

 罪悪感なく、これでアルバートに顔を合わせられる。

 これに気が付けただけで、レイナは天にも昇る気持ちなのだ

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