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王女様は魔法使いじゃない男に悪巧みを持ちかける

 アルバートはレイナ王女の天幕に連れ込まれたが、彼女を警護しているはずの騎士達が微動だにしないで彼女に好きにさせていることが気になった。彼女の評判を守らなくて良いのか。そんな疑問と怒りだ。

 当時のアルバートは、レイナの騎士達にどうして自分が怒りを抱いたのか理由もわからなかったが。


「うわ。嫌そうな顔だな。学園では生徒会長の私にいたぶられ、戦地ではやっぱり私が指揮官様だ。これは腐れ縁と見て、君は諦めるべきだ」


「ははは」


 アルバートは笑って誤魔化す。

 男を天幕に引き入れたレイナの評判を気にした自分が馬鹿らしい。

 最初から彼など誰にも男に見られていなかった、と気が付いた忌々しさを笑って流したかったのである。


「なんだ、その気の抜けた笑い方は」


「いえ。すいません。俺の代りにアイレット・カーマインでもいれば、あなたの力になったでしょうに」


 二年のアイレット・カーマインは真赤な髪に青い炎のように煌く瞳をした美男子であるが、外見通りにえげつないぐらいに強力な炎系魔法を使役できる。

 彼の歩くところ女子の黄色い悲鳴と消し炭だらけと言われる。

 だが、陰気系キャラのアルバートにも気さくに声をかけてくれるという、男子にも人気なイケ先輩だ。


 アルバートは彼が眩しすぎて苦手だが。


「そうかな。アイレットぐらいなら、私の騎士が一人増えたぐらいだな。どんな凄い炎魔法持ちでもな、学生でしかない。場数を踏んだ騎士には敵わんさ」


「いえ。騎士の一人ぐらいの実力って凄いじゃないですか。俺はなんも出来ませんからね。わかってます?」


「ははは。お前に戦力は期待してはおらん。お前は私達のサポートに徹してくれれば良い」


「――土嚢積みですか? 塹壕掘りですか?」


 レイナは、卑屈だ、と言ってアルバートを大笑いした後、アルバートの首根っこを掴んで自分に引き寄せた。


「あの?」


「お前の研究。私の騎士に実装させてみないか?」


「ええと」


「いいか。多勢に無勢だ。そこはわかっているな。だあが、我が第三騎士団はな、剣技だけで言えばエルガイアの脅威になれるだろう。そこに魔法を実装してみろ。最高の魔法騎士団となれる。少数だから、のんびり後方で魔法詠唱なんかできない状況だがな」


「――確かに、前衛後衛なんかしても簡単に蹴散らかされる人数ですね」


「だからお前だ。お前の何だっけ? 魔法を使えない奴でも魔法をぶっ放せるようになる研究? その実証実験ができるな?」


「やめてください。人体実験です。違法です」


「おいおい? ここは戦場だ。人の理が外れた場所だぞ。やってみないか? お前のしたかった実学研究ができるんだぞ?」


「――俺が魔法組成を見て弄っても良いって人がいるならば」


「え? 魔法書に書いてある奴を編成すればいいだろ?」


「魔法書に書かれている魔法組成は、魔法を発動できない人間には単なる情報にしかならないんです。魔法力がある人間は、その情報に自分の発動スペル(イグニッション)を無意識に書き加えているんです」


「ああ、それでイグニなんとかとかお前の論文にあったのか」


「はい。神の加護や魔法の元素という考え方よりも、魔法発動できるイグニッション添付能力を持っているか持っていないか、それこそが魔法を発動できるできないが決まるんだと思っています。だから俺は、魔法書さえあれば誰でも魔法が使えるようになれるイグニッションを確定させ、誰でも瞬間的に使えるように魔法情報の簡略省略化の組成編成ができるように」

「くどくどしい。私の魔法を見せよう。弄っていいぞ」


「分かりました。お願いします」


 アルバートは首を振った、もの思いから覚めるために。

 思い出すたびに彼は思うのだ。

 あれが人生のピークだったな、と。


 散々に研究をしまくれた上に、大好きだった先輩がいつも一緒。

 空腹に喘ぎながら生き残るためにボロボロの体を引き摺って頑張った、あの最悪の前線状況であるのに、生き残った彼には最高の記憶として残ったのである。


「二十年以上生きて、前線基地での一年だけが幸せだったなんて、最悪だな」

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