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魔法使いじゃない男の真価

「そのために君は封印されたんだ。その上、君の考え無しの庇護者のせいで、君は受ける必要のない攻撃を受け続けている。私は君がそろそろ本気で怒るべきだと思いますよ」


 アルバートはジュードを見返した。

 面識があるだけと思っていた相手、それも彼自身尊敬していた先輩が、自分をここまで評価していたのかと驚くばかりなのである。


 しかし、ジュードはアルバートを見てはいなかった。

 彼の視線はアルバートを通り過ぎた先に向けられており、その上魔法を纏い始めているのだ。ジュードの魔力の色らしき銀色の光が、ジュードの輪郭をなぞり彼を輝かせている。


 月の妖精。


 その仇名の通りにジュードは幻想的にまで美しい、とアルバートは見惚れた。


 こんな素晴らしき人に賞賛めいた言葉ばかりを受けているとは。

 いいや、レイナ様からの夢でさえ見たことの無い告白を受けた。

 俺はもう死んでいるのかもしれないな。


「せんぱい、俺は――」

「走れるか? 私の盾がどれだけ使えるかわからない」


 あ、そうか。


 アルバートはハッとした。

 ジュードがなぜ魔法を放出して輝いているのか、その理由に。

 アルバートは五年前の戦役を思い出しながら周囲を見渡す。

 そして自分達に向けられた殺気があると気が付いた。


 気が付くしかない。

 殺気を感じた路地方向から光が三つ、アルバート達目掛けて放たれたのだ。


 くるくる回りながら飛ぶ三枚羽の風車のような形をしたそれは、光属性の攻撃魔法の光の刃(ライトステラ)である。触れた瞬間に対象の肉を切り裂くが、焼き切られた傷口は二度と塞ぐことはできない。聖女の霊的手術の技術を応用した、聖女達が繰り出す攻撃魔法だ。リンゴン王国と違ってエルガイアは国家規模で聖女を育成するので、エルガイアの攻撃魔法と言えばこれである。


 けれど、その光の刃はアルバートには至らなかった。

 アルバート達の目前で堅い何かにぶつかり、そのまま四散して消えたのだ。


「これこそ嘆かわしい戦争の落し子ですね。聖女の秘術が我が国の薄汚れた殺し屋達にも使えるように広まってしまった」


「せんぱい。そんな風に嘆くあなただから、あなたの盾は荘厳で美しいのですね」


 ジュードの魔力によって練り上げられた防御壁は、半径三メートルの半円状にしてアルバートとジュードを取り巻いている。銀の糸で編み上げられたレースのようだと、アルバートはジュードの盾に見惚れるばかりだ。そしていつものようにして、その防御壁の仕組みを知るべくアルバートは右手を当てる。


「きれいでも、五分がせいぜい。敵の攻撃の威力が増せば、どこまで耐えられるかわからない心もとない盾です。攻撃魔法が持てなかった自分が、今更ながらに不甲斐無いと情けないです」


「先輩の盾は芸術的に美しいのに。でも攻撃力をご希望だったなら、カウンター攻撃を付加しましょうか? あと、盾の出現後は魔素を勝手に取り込んで補強持続するタイプにしたら、MP残量考えなくてもいいかもです。ただ、盾を出す時のMP使用料は少し増えますけど」


「――私の魔法を改造できるのか?」


「今の時点で完璧に近い組成式ですから、もしかして美しく無くなっちゃうかも、ですが。……あ、これがきれいじゃ無くなったら嫌だなあ。あ、でも、魔素吸収して顕現時間伸ばすぐらいは見た目が変化しないはずなので、やっちゃいますね」


 アルバートはジュードの魔法の組成式の一つ、盾の構築維持のためにジュードの魔力を吸収し続ける回路式を探し当て、そこにアルバートお気に入りの回路式を書き込んだ。

 その瞬間、ビン、と盾は新たに出現したかのようにして新たに光を発つ。


「……ハハ。自分がしてきたレベル上げがバカバカしくなりますね。君が少し弄っただけで、この盾を保つ負荷がぐっと消えた、とは。ハハハ。いいですよ。さあ、やってください。私の盾に君が提案したカウンター攻撃の付加もお願いします。第二弾が来ますよ」


「この盾が醜くなったらすいません!!」


 アルバートが左手を盾に叩きつけた瞬間、ジュードが予測したとおりにさらなる三つの光の刃(ライトステラ)放たれた。

 それらは空気を切り裂いて向かって来きたが、ジュードの盾に当たって四散するどころかバシンと跳ね返った。


「うわああああ」


 薄暗い路地方向から悲鳴が上がる。

 アルバートとジュードは顔を見合わせ、二人同時に似たような表情を作る。

 その瞬間、生徒間のくだらない決闘騒ぎを諫めた時に互いが顔に浮かべた表情と同じだと、アルバートは学園時代を思い出す。


「先輩は良い先輩です」


「急にどうしました?」


「先輩と会話は数えるぐらいでしたけど、俺は何かあった時はこうして先輩に頼っていたなあって思い出しました」


「今日一番うれしいセリフだな。だが、私こそ君に頼っているよ。さあ、魔法が通じないと気が付いた刺客はどう動くかな?」


 アルバートは再び路地方向へと視線を向ける。

 路地から刺客らしき男達が一人出て来たところだった。

 男は懐から小銃を取り出し、アルバートはジュードの盾になるように体を動かし、その男へと向かい合った。


「出てきたのは、銃弾にライトステラのように自動追尾機能は無いからか。アルバート、私も銃を持っている。私が撃ったら、君は逃げなさい」


「安心してください。銃の対処ならば慣れています」


「狙うのは足と腹だ。頭なんざ狙ってもどうせ外れる。死にたく無きゃとりあえずそこを撃て」


 五年前の戦役にて、ダスタがアルバートに銃を渡した時のセリフである。

 アルバートは、敵が自分の頭を外してくれるといいな、そう考えながら指で鉄砲を作って敵に向けた。


「ばあん。あなたに魔弾を撃ち込みました。死にたく無かったら武器を捨てて投降してください」


 果たして、男は銃で撃ち返すことも無く、素直に両手を上げて跪いた。

 ジュードはすかさず拘束魔法を男に掛けたが、男を拘束した後にアルバートにとても良い声で囁く事を忘れなかった。


「見事なはったりだ」


「いいえ。カウンターするときに魔法から殺傷能力が消え、代わりに従属のスペル入りの魔法となるような効果を付けたんです。従属効果を発動させるのに、ばあん、と言わなきゃなのが恥ずかしい限りですが」


「――それは、カウンター受けた敵は無力化できていないから、ばあん、と私が絶対に言わなきゃということか?」


「先輩は敵でも殺すのが嫌かなって思って」


「今は君を殺してやりたい気持ちだよ。カウンター効果の修正を要求する」

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