7.魔法使いは将軍を兼ねる
本当はもっと早かったんだけどね。
応えて手を振りながら、フレディはそう思っていた。どこに隠れていたのかと思えば、外回廊の裏廊下。
ヨルム七世の命により造られたその秘密通路は、単純なかくれんぼに使うような規模ではなく、城以上の広大さを持つダンジョンへと繋がるものなのだ。
探検道具を揃えなくては、足を踏み入れるのは危険。よほど本気でルイスをかわしたかったとみえる。
「お帰りなさい!」
階段の最後の五段ほどを蹴り飛ばし、シェリーは飛び込んできた。予想行動なので怯みはせずに、彼は姫君を抱き止める。顔は隠れてしまったため、金色の髪に訊ねる形になった。
「いい子にしていた?」
「もちろんよ。ちゃーんといい子にしていたわ、私」
「本当にそう?」
「フレディだって驚いちゃうくらい。本当よ」
みんなに訊いてくれたっていいわ、と本気のように言う。しかし、あくまでも『ように』である証拠に、急いで話題は換えられた。
「それでね、私ね私ね、今日はフレディにひとつゲームを用意しましたー」
弾んで弾んで言いながらフレディから身を離したシェリーは、つと顔を曇らせる。
「どうして難しい顔をしているの?」
「そう見える?」
「見えるわ、わかるの。どうしたの? 困っているの?」
とっておきゲームの解説も棚に載せられたようで、その思いやりは嬉しいが、だからと言って計画を中止するわけにはいかない。
一人ならば敢えなくくじけていたかもしれない。他の人間を巻き込んでおいてよかった――と思ったところで、その人物が現れた。
鳴り物入りでとはよく言ったもので、派手な式服を着込んだ上に、手には銅鑼などを持っている。自分は戦場を知らないが、現場でそれはないだろうということくらいはわかるつもりだ。
肩に金の房を揺らし、およそ実務に適さない衣装の将軍は表情だけは深刻に、そして銅鑼の響き音に負けないようにと大きな声を張り上げた。
「やぁやぁ、シェリル姫はこちらでしたか」
「先生っ? どうしたの? そのお洋服はなに?」
「少々思いがけない出来事が起きましてね。久々に私も出陣だ。姫様たちはおとなしくしていなされよ」
「思いがけないって、なに? フレディが困っているのと関係あるの?」
「まだ説明していないのかね。困るな、教育係君」
シェリーがこちらを向いたのを良いことに、粋なウィンクなどをとばして寄越す。自分を叱ることは特に必要とも思えないが、とフレディは、また向こうを向いたシェリーの背後から苦い笑いを送って見せた。
年の功、見えていないかのように反応を見せず、フェルカーはもっともらしく嘘を始める。
「なんと賊の侵入なのだよ。まさかこの城にこのような日が来るとは、まったく世も末だ。お蔭様でこの老いぼれが重たい腰をあげねばならんのだから酷な話だな」
「ぞく……って?」
「まだ正体は知れん。もっともどんな奴にせよ、この私を引きずり出すような真似をしおったからには目にモノを見せてくれまするわ」
高笑いと共に歩き去るフェルカーの後を、銅鑼の余韻がついていった。自分が願い出たこととはいえ、ありがたいことは迷惑なほどだ。
見当外れに火は飛んで、思いもしない人間相手にゼロから事情を説明しなくてはならなくなるに違いない。やれやれ。
しかしターゲットにも効果は出ていた。『ぞく』の意はわからずとも『侵入』からの推測は容易だろう。一分足らず、シェリーの表情は極端な変化を見せた。
叫ぶ。
「一緒に来て!」




