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4.姫2~シェリル・セシリア


 納屋の屋根裏、旧厨房のスープ鍋、鳥小屋、庭園の道具小屋、他、小屋と名のつくものならどれでも。


 名などなくてもどこにだって。シェリル・セシリア、つまりはシェリーのかくれんぼの才は生来のものであり、自分が責任を問われるものではない。


 フレディはそんな考えを胸中でぐるぐると回しながら、片端から開けて回っていた。ルイスからは逃げていても、自分の姿には飛び出して来ようものなのに、我慢をして潜んでいる気配を感じることもない。


 ルイスの手先だと悟られたかな。


 そんなことを思いながら開けた扉の中で、けれど彼は追うものを見つけた。


 かつては厨房が使用していた食料庫であった建物だった。先年、壁の破損が原因で使われなくなり、その際、食料の保存であれば城内で事足りるということが発覚したため、以来修理もされずに放置されている場所であった。


 レンガ造りではあるが相当に古く、雨風の浸入により室内も荒み始めている。取り残されたワインの木箱がいくつも、半ば朽ちた状態で散乱していた。


 王女たるものが居て良い場所ではない。しかし隅、木箱の陰から、金の髪がこぼれて覗いていることが現実。黄金の髪に湖の瞳、シェリル・セシリアはそれをどちらも母親から譲り受けており、三人の子供の中で誰より王妃に良く似ていた。


 残念なことに注釈が着く。『お姿は』と。王妃はシェリーの頃も今同様、おっとりと穏やかな性質の子供であったそうなのだ。


 王妃の姉を母に持つフレディは知らず否定的に首を振り、同じ色の瞳を厳しさ一色に塗りつぶすと室内に足を踏み入れた。


「シェリー、見つけたよ」


 積もった埃を舞い上がらせないように、静かに歩を進めて行く。自身の足跡の他に、三筋の跡が残っていた。


 三筋。一度、ここを出て行ったのか。それとも?


「ルイスを怒らせたら本当に怖いってことは、先月身に染みたはずだろう。出てきなさい」


 返事は返らない。動きもないことを不審に思い、次の一歩は大きく出した。常のシェリーならば、こちらがひっくり返るほどの勢いでとびついてくる大歓迎を見せている頃なので。


「シェ……」


 木箱に手をかけたまま、フレディは止まった。目を疑う。


 娘は箱とレンガの壁の間に、小さく蹲っていた。そんな態度も含め、伝わってくる空気が明らかにシェリーではない。金の髪を改めて見る。けれどしかし。


「君は……」


「――っあのっ、私、私は、」


 それ以上は無理だった。思い切って上げられた顔は、また元にと戻ってしまう。まるで光を恐れる生き物ででもあるように、再び頑なに縮こまってしまった。

 

 足跡の謎は解けた。この娘のものが一、あとの二つはシェリーの往復なのだ。


 フレディは些少であれども満足し、ふ、と息をついた。もう一つの大きな謎の答えなら、記憶の中に持っていた。彼は娘にと向き直ると、


「ミリアム・ジルアード?」


「はい。はい、そうです」


 肯定の返事をありがたい気持ちで受け止める。そう、そうであって然るべきだ。同時に存在する混乱の数には限度を持っていてもらいたい。


「驚いたな。それはシェリーの服だね」


「すみません、私あの、」


「謝らなくていいよ。悪いのは君ではないことを知っているから」


 すっかり脅えてしまっている娘に、彼は笑いかける。初対面の誰かに受け入れていただくためには、まずは笑顔、それに優しい言葉。その洗練された容姿を以ってして、フレディはあまり失敗を知らなかった。まずは怖がられる外見ではない。


「とりあえず、ここを出ようか」


 立ち上がるためにと差し出した手を、しかしミリアムは握らなかった。まったく反応を変えずに、震える声で続ける。


「でも私、ここを出ないように言われているんです。ですから」


「あぁ、気にしなくていいよ。その約束はもう終わったから」


「終わ……?」


「おいで。僕の待遇の方がずっといいよ」


 フレディはにっこりと微笑み、今度は有無を言わせずミリアムの手を取った。光の中に導き出せば、やはりシェリーと同じようにその髪は輝きを放つ。


 シェリーよりもいくらか細いかな――。彼は思い、そしてそんなことを思った自分をおもしろく思った。よほど髪が好きらしい。



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