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11.一姫の茶話会を忘れてはいない


 うつむき気味の視線と合わせるために、姫はバルコニーに膝を着いた。


「ごめんなさい、ミリアム。私、そんなつもりではなかったの。いつもつもりを外してばかりいるわけじゃないのよ。いつもはもっと、ちゃんとしているし、これからはもっと努力するから」


 一言一言が明瞭であり、性格なのだろう、早口だった。先の接触のときにも感じたことだったが、矢継ぎ早に出てくる言葉、そして態度にこの齢にして人を惹きつけるオーラを持っている。


 いつしか両手をとられていた。身長は同じくらい、言も達者で断固と強気。しかしその手はまだ丸く、幼さを感じさせるものだった。


 小さい、ピンク色に輝く爪。


「あのね、私あなたを歓迎するためにいろいろと考えたことがあるの。それで許してくださいと言うつもりはないけれど。そう! どんなものなのかと言えばね、」


「シェリー」


 遮ったのは当然のこと、フレディだった。


「込み入った話は後にしようか。部屋に戻って着替えをしないと、茶話会が終わってしまう」


「出るのね」


「約束していると聞いたよ。ルイスか君か、どちらが間違っているの?」


 勢いよろしく手が挙がる。


「私。約束しました。絶対に」


「そう、約束したなら。ルイスが納得する遅刻の作法はわかるよね」


「えぇ。この間もそうしたの」


「正しいとは言えない学習方法だけれど、確実さでは上だろうな。でもこれを最後にして欲しいな。僕は淑女として相応しい行動を望んでいるんだ」


 にっこりと、シェリーは微笑んだ。


「努力するわ。そうしたらフレディが喜ぶのなら」


「ルイスとも話してみるよ。帰る前に」


「ありがとう! フレディ」


「話すだけだけどね。ほら、早く行かないと」


「全然違うわ。ルイスもフレディに弱いもの。行ってきまぁす!」


 閉じた扉の周囲の壁が、しばらく衝撃に揺れていた。登場も派手なら、退場も負けず騒々しい。


 形にされて直後ばらばらにされた感のある努力するという言葉――。フェルカーは「淑女」と言い、大いに笑った。


「弱いのは君だという話だな。ルシル姫の茶話会なんぞ、いい修行の機会だろうに」


「場が来ればそつなくこなしますよ。大丈夫ですから、シェリーは」


 ごまかす為でもないのだろうが、彼は立ち上がりポットに手を伸ばした。腰を浮かせかけたミリアムを、軽く手で制す。


「忍耐も覚えさせんと後々苦労することになるのだがね。お、私の分にはプラスのスパイスを忘れずにな」


 上着のポケットから褐色の小壜が現れ、テーブルの上の一式に軽い音と共に加わった。フレディはそれを見ると眉を寄せ、


「先生こそルイスの招待を受けるといいですよ。正しい紅茶の楽しみ方を教えてもらったらいいんです」


「この飲み方が私には正式なのだよ。カタイこと言うな」


 先生の手に押し出されたそれに、弟子は渋々手を伸ばす。正しい紅茶の味はともかく、師の酒の量を減らしたいというのが心情であった。


 体を労わるべき年齢に達していることを、大人なのだから認めて欲しいものなのだ。


 そんな調子で師には問題が多かった。しかしながら師に言わせれば、弟子にもまた頑固な問題があった。


 互いにそれを考え、この場は納める。長期戦に突入するには、相応しい場というものがある。今は目の前に、もっと重要なものが在った。


「それにしても」


 声は重なった。二人の視線が一度に向いたので、ミリアムは身を引こうと――して背もたれに肩をぶつけた。


 先ほどシェリーに話しかけられた時に、引けるだけ引いていたのだ。復活の機会もなくそのままでいたことを、自身わかってはいなかった。


 目の前でめくるめく展開した、突風のような出来事の咀嚼に苦しんでいたのだ。必死に考えていたので、ふいを突かれた気持ちになる。


 何も整理できていない。できれば自分のことはもう少し放っておいて欲しかった。と、言ったところで、現実はそうはいかない。


 フェルカーの肯きに応え、フレディが質問を放った。


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