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1.お城へGO


                 ☆序☆


 お城だわ……。


 娘は思った。しっとりと水に濡れた高い石塀と、その向こうに、ミドルランズクリフの波をまともに被っても揺らぐことなどなさそうな、陸地そのもののような建物を見上げて。



    ☆


 二時の汽車で駅に降り立ち、なじみの店の知り合いたちには顔を見せながらも、三時になる前には城門をぬけていた。取り出した時計の蓋を開き、時刻にうなずく顔は満足そうだ。


 名をフレデリック・ハートロー、城を住居とする青年である。もっとも現在、居住地は学校の寮に移されているが。最高の教育のために送り出され、一週おきの週末に帰宅(帰城?)する生活を、もう二年ほど続けている。


 グレーの旅行用コートに身を包み、すらりと背を伸ばした姿からは、城門を抜けるに相応のなにやらがにじみ出ていた。


 小屋の中の門番にちょいと帽子を上げて見せれば、相手からは敬礼が返される。領主の近衛。名目とはいえ立場を言うなら、上官であるというわけだ。

 

 とはいうが、この土地は、歴史の中にも戦の文字を持たない神話の国なのである。故に、当然近衛は限りなく飾り物に近い存在にして、名目という言葉を再び使うことでかろうじて、防御のためとの定義を打ち出せる程度の代物なのであった。


 誰が聖地に手を出すものか。返礼が必ず返ることは、神話に語られ余りある。


 この時間でも、太陽の光は茂れる葉の間からあふれてこぼれ注いでいる。季節は夏を目指す春の侯。


 同じことをしていた二週間前の同じ時間を思えば、変化は鮮やかに浮かび上がる。驚嘆するばかりだ、自然の営みにも、詩人の目にも。


 フレディは捕らえようとするかのように傾いで道を塞ぐフレイヤや、あずまやを覆ってしまうほどのスクルドの成長振りにあきれながら、学校で学んだばかりの夏詩(なつうた)を思い出していた。彼らの言では、生きているのはこの季節ばかり。


 素晴らしさを否定はしないが、重ねて語られたことで多少なりとも食傷気味。素直な気持ちで賞賛を受け入れることは、人生の同じ季節(ころ)に差しかかった青年には難しいかもしれない。


 振り返る夏ほど美しい。そんな気持ちには、彼はまだとても届かない。


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