7話 王子様にはミルクスープを。
次の8話が別視点になる為、短めです。
「恋愛小説はどんなものがお好きなの?」
リリーの何に関心を持ったのかはわからないが、本屋で出会った上品な婦人はなおもリリーに話しかけてくる。
酪農の話題に続いて、今度は恋愛小説の好みを訊かれた。
「定番ですが、やっぱり王子様が出てくるお話が好きです」
手当たり次第に読んではみたが、リリーもやはり年頃の女の子。
王子様には憧れるし、王子様と結ばれる小説に心惹かれた。
もちろん現実の王子様とどうこうしたいとなどという願望は無く、あくまで『小説の中の王子様』ではあるが。
すると答えを聞いた女性の眉が上がり、面白がるようなーーそれでいて、どこかリリーを試すような口調で尋ねてきた。
「なぜ王子様がいいのかしら? あなたは王子様と何がしてみたい?」
どうしてそんなことを訊かれるのかしら?
王子様としてみたいことなんて、特に考えたことはなかったけれど……。
変な質問だと不思議に思いつつ、リリーは心に浮かんだことを正直に話すことにした。
「小説に出てくる王子様は、格好良くて何事にも公平で、愛情深い素敵な方が多いからです。してみたいことというか、王子様ってきっと大変だし、疲れると思うので、ミルクスープを作ってあげたいです」
「ミルクスープ?」
怪訝そうに繰り返す女性に、リリーは説明した。
「はい。私の得意料理なんです。温まるし、栄養が採れて胃に優しいスープなので。……あ、でも王子様はそんな庶民の味は口にされないですよね。えっと、私の王子様が現れたら作ってあげたいって思っただけで……って、私何を言っているのかしら……」
だんだんしどろもどろになりながら赤い顔で俯いたリリーに、婦人は両手で手を叩き、弾んだ声をあげた。
「素敵ね! ええ、それはとてもいいと思うわ!」
その後に続いた、「うちの子、胃が少し弱いしね」という言葉は、真っ赤になって動揺しているリリーの耳には入らなかった。
女性との会話が思いがけず弾んでいると、アイラが遠慮がちに二人の会話に割って入った。
「歓談中にお邪魔をして申し訳ございません、しかしもうあまり時間が……」
そうだったわ。
初めて町に出るから、今日は早めに帰るとお母様と約束したんだったわ。
冷静さを取り戻したリリーは、慌ててアイラから女性に視線を戻した。
「すみません。もう帰らないと。あの、お話楽しかったです。ありがとうございました」
「こちらこそ楽しかったわ。そうそう、酪農関係の書籍は左奥の棚よ」
ペコリと頭を下げたリリーに婦人も挨拶を返すと、親切にも本棚の位置を教えてくれた。
もう一度礼を言ってその場を離れるリリーの背中に、温かみのある声がかかった。
「またお会いしましょうね」
リリーが振り返ると、艶然と微笑む婦人がこちらに軽く手を振っている。
王都は広いのに、また偶然会えるものかしら?
疑問に感じながら、リリーは会釈をしたのだった。