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54話 あっという間に試験終了。

それでは王子妃試験を頑張って乗り切りましょう。

胸を張って、ハルト様のお嫁さんになれるように!


フンっと気合を入れたリリーは、早速試験にバーキン領を使わせてもらえないか相談をするべく、セイラのクラスを訪ねた。


「……というわけで、なんだか話が大きくなってしまって申し訳ないのですが、良かったらお父様のバーキン子爵にも私から説明致しますので、ご協力いただければと……」


口をあんぐりと開けて驚いていたセイラは、理解するなり飛び跳ねて喜び、リリーの手をギュッと握った。


「ありがとうございます、リリー様!! 両親も喜びますわ。すぐに手紙を書いて帰ってきてもらうので、父に直接話していただけますか? 私では『お前は夢でも見ているのか』と言われてしまいますもの」


そんな大袈裟だわ。

まだ成功した訳でもないし、むしろこちらがお願いしている側なのに。


セイラのはしゃぎっぷりに苦笑していたリリーだったが、彼女は両親への手紙も高いテンションのまま書きあげたらしい。

子爵夫妻は矢のような速さで王都に舞い戻ってきた。

リリーは恐縮しながら、子爵にバーキン領をモデルとして発展させたい旨を一生懸命伝えた。


「こんな小娘に大切な領地について口を出されるなんて不快だとは思いますが、ぜひお力を貸していただけないでしょうか」


真摯な態度で頭を下げたリリーだったが、夫妻は輪をかけて腰が低かった。


「こんなありがたいお話はありません。最大限にご協力させていただきますので、こちらこそよろしくお願い致します!!」


セイラは『良くやった!』と父に褒められ、はにかんでいる。

久しぶりに家族が揃ったことも嬉しかったに違いない。

リリーも子爵夫人からセイラと色違いのハンカチをプレゼントされ、無事にバーキン領の使用許可を得ることが出来たのだった。


やることは山ほどある。

続いて、リリーは『王子様との秘密の恋愛』の著者にも鐘を作る許可をもらいに行った。

相手は王都の郊外に住む貴族令息で、本来は覆面作家として活動しているのだが、妹の令嬢が連絡係となってくれた為、比較的簡単に会うことができてしまった。


「まさか、僕の小説の読者にリリー様がいらっしゃるとはねー。しかも本当に王子様と婚約しちゃうなんて、小説を地で行ってるよね。ん? 『恋人の鐘』、作ってくれるの? もちろんいいよ! あ、でも少し取材させてもらおうかな?」


何故かラインハルトとの馴れ初めを訊かれ、気付けば王宮の木に登ったことまで暴露させられていた。


あら?

私はなんでこんな話をしているのかしら?

でも聞き上手というか、つい乗せられてしまって変なことまで……。


「ーーふむふむ、なるほどね! これはいいネタを貰ったな。次回作に使わせてもらってもいいかな? いいよね? ありがとう! あ、鐘は出来たら僕も見に行くよ。楽しみだなぁ」


こうして、恋人の鐘もスムーズに(?)許可を貰えた。



リリーが公式にプロジェクトを立ち上げた直後から、発展計画の噂は人から人へと伝わり、腕に覚えのある庭師が勝手にバーキン領に集まり出した。

大きな仕事に携わり、名を上げるチャンスだと、目を爛々とさせている。

この機に一旗あげたい飲食店も、自発的にバーキン領に移転したり、支店を出し始めた。

人が押し寄せ、にわかに活気付いてきた街の人々は、宿を拡張したり、土産物を開発したりと積極的に動き始め……。


リリーによるバーキン領の発展計画は、予想外に凄まじい勢いで進んでいった。

もはや、リリー抜きでどんどん進んでいる。


なんだか私が口を出すまでもなく、全てが勝手に出来上がっているような。

有難いけれど、私の試験なのにこれでいいのかしら?


バーキン子爵が水を得た魚のように生き生きと指示を出し、領民が一致団結している。

元々方向性さえ示せば民からの信頼も厚く、領地のことも誰よりも把握している領主なのだ。

歯車さえ合えば面白いほどに上手く回り始め、リリーは報告書に目を通すたびに驚きの連続だった。


『恋人の鐘』の公園は、なんとセイラが中心となって進めていた。

すっかりリリーのファンになってしまったセイラは、リリーに喜んで貰いたい一心で熱心に取り組んでいる。

引っ込み思案は治ってしまったらしい。


バーキン親子の影で、王家の人々もプロジェクト成功に向けて暗躍していた。

リリーは気付いていないが、すでに家族同然のリリーに恥をかかせる訳にはいかないと、国王自らがトラブルの芽をこっそり摘んでいるほどだ。

特にラインハルトは、リリーが試験に受からないと結婚が出来ない為、ある意味リリー以上に必死になっている。


結果、蓋を開けてみればバーキン領は短期間で見違えるような変貌を遂げていたのであった。


「リリー様、お疲れさまでした!」

「さすがスペシャリストですね!!」


最終確認にバーキン領を訪れたリリーを皆が労ってくれるが、内心は非常に複雑な思いだった。


いえいえ、私、途中からただ居るだけでしたよね?

私がお願いする前に、全部やってくれてましたよね?


役に立たなかったことを心苦しく思い、リリーが手伝ってくれた領民に丁寧に挨拶をして廻っていると、ラインハルトがひょっこり現れた。


「ハルト様!? なぜバーキン領に?」


驚くリリーの腰にちゃっかり腕を回しながら、王子はしれっと答える。


「僕も見に来ちゃった。リリーと永遠に結ばれる為の、鐘の確認にね」


『鐘など鳴らさなくても、永遠にリリー様を離す気もないくせに……』と周囲は思ったが、賢明にも黙って手を動かす。

この王子を怒らせては命が危ないことなど、嫌なほどわかっているのだ。


公園のオープンセレモニーは、二日後に迫っていた。



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