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50話 全ては王子様の思い通り。

やっとリリーが復活します。

2話に分けようと思っていましたが、リリーの不在に耐え切れずに1話にしてしまったので長いです。

伯爵令嬢のミシェルは、幼い頃から他の令嬢に囲まれ、チヤホヤされながら育った。

父のナムール伯爵が、受け継いだ資産を使って困窮する貴族を支援という形で支配下に置いた為に、その娘達も必然的にミシェルに逆らうことが出来なかったのである。


物心のついた時にはいつも自分が一番だったミシェルに、今まで思い通りにならないことなど一つも無かった。

気に入らない令嬢がいれば、社交場に顔を出さなくなるまで虐め抜いたことも数えきれない。

ジェシーもその被害者の一人だった。


今、ミシェルの周囲に令嬢の姿は無い。

全員父が捕まり、二度と王都でその姿を見ることはないだろう。

残念ながら、ミシェルはまだその事実に気付いてはいないがーー。


取り巻きがいなくなったミシェルが、父親に尋ねた。


「お父様、彼女達はいつ戻ってきますの? もし時間がかかるなら色々不便なので、お友達を補充しませんと」


彼女にとって、友達とは簡単に替えが利くものらしい。

友達の家を再建すると言っていたのも、使い勝手の良かった令嬢を、ずっと傍に置いておきたかっただけのようだ。


「おおっ、確かにそうだ。私にももう少し骨のある友人が必要だな。……ところで、他の若い娘はどこに行ったのだ?」


リリーが隣室へ移動した後に入ってきた伯爵は、彼女達の行き先を知らない為、キョロキョロしている。


「さきほど、あの忌々しい田舎者の元伯爵令嬢と一緒に、隣の部屋へ行きましたわ」


うーわぁー……。


リリーの兄、アーサーは呆れていた。


あんなに分かりやすく怒っているラインハルト王子の前で、更にリリーを侮辱するとかないだろ。

『忌々しい』『田舎者』『元伯爵令嬢』って、トリプル悪口だし。

うちが侯爵を賜ったこと、そんなに認めたくないんだな。


アーサーが白い目で見ている前で、ミシェルがもっと酷いことを言い出した。


「私も隣室のお茶会に参加して、お友達を見繕ってくることにしますわ。ジェシーだったかしら? あの娘、私のお友達にしてあげてもいいわ」


なんだって?

お前のせいでジェシーがどれだけ傷付いたと!!


アーサーが非難の声をあげようとしたが、先にラインハルトがキレていた。


「あのさー、さっきから何言ってんの? お前みたいな性悪に友達とか出来るわけないし、今から没落するお前に近付く馬鹿がいるとでも思ってんの?」

「……え? あの、ラインハルト様?」


急に口調が悪くなったラインハルトに、ミシェルは聞き間違いだと思ったらしい。

いつも上品に微笑む、キラキラの王子様とは思えない発言なのだからそれも当然だった。

アーサーですら耳を疑ったくらいだ。


「田舎者、田舎育ちとリリーのことを馬鹿にするが、その田舎で暮らす人々が国を支えていることにどうして気付かない? 貴族でありながら、何故民を大切に思わない? お前達が何よりも下賤で忌々しい存在だ」


キッパリと言い切ったラインハルトに貴族達も驚いていたが、静まり返った会場に次第に拍手と歓声が湧きあがった。

アーサーも大きく手を叩きながら上座に目をやると、国王、王妃も満足げに微笑んでいる。


ミシェルは最初目を丸くしていたが、大勢の前で憧れの王子に叱責されたことがショックだったのだろう。

顔を真っ赤にして俯いた。

ナムール伯爵は人前で娘を罵倒され、嫌悪感をあらわにしてラインハルトを睨んでいる。


ここでラインハルトが国王に向き直った。


「父上、後はお任せします。この方々は権力第一で、お金と力にしか興味がないようなので、『陛下』が適任かと」


息子の言葉に頷くと、国王は壇上からゆっくり降りてきた。

いよいよクライマックスかと、貴族が息を潜めたがーー。


「おおっ、陛下。私は前から思っていたのですが、あなたは息子に甘すぎるのでは? こちらが臣下とはいえ、ラインハルト王子の私と娘に対する態度は目に余ります! これでは可愛い娘を嫁がせるのが心配ですよ。ああ、私は陛下の忠臣としてあえて苦言を申し上げているのですよ?」


税をちょろまかしていながら、忠臣などと恥ずかしげもなく言えるメンタル……。


ラインハルトが鼻で笑っていると、国王が片方の眉だけ器用に上げて面白そうに言った。


「ラインハルト、私はお前に甘いらしいぞ? 確かにさきほどの口調は褒められたものではないが、なかなか愉快だったな」


その言葉を受け、ラインハルトは国王に並び立つと、貴族を見回しながら言った。


「大切な婚約者に心ない言葉を浴びせられ、我を忘れました。どうかさきほどの事はお忘れ下さいますよう」


いつもの礼儀正しい態度と、満面のキラキラ王子様スマイル。

聴衆は一瞬で心を掴まれていた。


「大切な者を悪く言われたら当然のことです!」

「私は荒れた口調の王子も素敵だと思いましたわ」


あっという間に、ラインハルトをそこまで怒らせたナムール伯爵がひたすら悪いという雰囲気が出来上がり、愛するリリーを守ろうとした王子への支持が爆上がりした。

アーサーとウィリアムは、『やっぱりあの王子は一筋縄ではいかない』と感心するしかなかった。


国王がナムール伯爵を正面に見据える。


「ナムール伯爵、そなたは私の臣下だと申したな?」

「はい、もちろんでございます。私はあなた様の、忠実なるしもべでございます」


伯爵は恭しく頭を下げたつもりらしいが、嘘臭いほど仰々しい礼の為、発言も口先だけのものだとすぐにわかってしまう。

この男は国王に取り入り、自らの権力を増幅させることにしか興味がないのだ。


「ふむ。では伯爵、そなたを捕らえる。理由はもう十分だろう? 私の言葉に従え」

「……は? いや、何を仰るのですか。そんな横暴がまかり通るとでも?」


明らかに動揺しながらも、国王に異を唱える伯爵。


「もちろんだ。何と言っても私は国王だからな。そなたが大好きな権力を持っている。そなたを捕らえることなど容易いことだ」


わざと不適な笑みで国王は伯爵を追い詰めていく。


「いや、しかし……そこは私と国王の仲ではありませんか。そんな血迷ったことは仰らず、これからもお互い手を携え」

「そなたの手を借りることなどない。今までも、これからも。むしろ邪魔」


国王は伯爵の言葉を遮ると、縋る伯爵に吐き捨てるように告げる。

すると、伯爵の態度が急変した。


「力があれば何をしてもいいというのか!! この外道が!!」


かろうじて残っていた紳士の仮面が剥がれ、国王を罵り始めた伯爵。

それを見て国王は楽しそうに笑い出した。


「本性を現したか。外道はお前だ、ナムール。金と権力を笠に着て、爵位の低いものや領民を苦しめ、邪魔なものを排除しようとは」

「それの何が悪い! 私は伯爵だ!! 敬われ、尊ばれるべき存在だ!! 娘を王子の妃にし、王家に連なるべき人間なのだ!!」


静かに見守っていた貴族達は、伯爵を哀れに感じ始めていた。

この男には爵位と資産しか誇れるものがなく、娘すら更なる権力を得る為の道具でしかないのである。


「話しても無駄だな。お前には貴族であるが故の義務すら理解していない。連れていけ」


国王が兵に命じた時だった。


「偉そうに指図するな!!」


どうやって夜会に持ち込んだのか、ナイフの鞘を抜いた伯爵が国王に斬りかかった。


ようやく抜いたかー。

馬鹿なのに案外気が長いから、飽きちゃってたんだよね。


この瞬間をずーっと待っていたラインハルトは、サッと伯爵を足払いして床に倒すと、ナイフを取り上げた。


「はい、これで死罪決定。娘共々とりあえず牢屋ねー」


兵が二人を連れていくが、周囲はポカンとした表情をしている。

状況についていけていないのだ。


あれ? 終わり?

なんだか長々と色々あった挙句、陛下の命まで狙われた割には妙にあっさりとしているような。


そんな空気の中。


「父上、お疲れ様でした。いい演技してましたよ」

「ラインハルト、万が一私にナイフが当たっていたらどうするつもりだったんだ。痛いじゃないか」


情けない顔で国王がラインハルトに訴えている。

痛いで済むのか謎である。


「大丈夫ですよ、あれ偽物ですもん。僕がすり替えといたんで」


ラインハルトが懐から本物のナイフを取り出す。


え?

いつの間に!?

しかも、どこまでが王子の想定内だったんだ!?


皆に疑問を抱かせたまま、ラインハルトは満面の笑みを浮かべる。


「あー、やっとリリーを迎えに行ける。父上、このままお披露目でいいですよね? あ、少し休憩を挟みましょうか。とにかく、僕は隣に行ってきまーす」


嵐のようにラインハルトが去り、残された者は呆気にとられて立ち竦んでいた。


「あいつはあんな性格だったか?」


国王が王妃に確認していた。



その後、ラインハルトにエスコートされたリリーが会場へと戻ってきた。

同行していた令嬢達は皆頬が上気し、笑顔とおしゃべりが絶えず、隣室でのお茶会がいかに楽しかったかを物語っていた。


反対に、会場で一部始終を見させられていた貴族はどっと疲れていた。

晴れ晴れとした笑顔のラインハルトが、少し憎く見えるほどに。


リリーは、お茶会が楽しかったことをラインハルトに興奮しながら語った。

ラインハルトはリリーの笑顔を守れたことに満足しながら、ジェシーにそっと目配せをする。

万事上手くいったことを理解したジェシーも、そっと会釈を返した。


こうして、リリーに害をなす者は排除され、お披露目はつつがなく執り行われたのだった。

終始甘ったるい笑顔で嬉しそうにリリーをエスコートするラインハルトに、皆が胸焼けを起こし、絶対二人の邪魔だけはしないと心に誓った。


終わってみれば、全てがラインハルトの手のひらの上で転がされていたと、静かに見届けた王妃は苦笑するしかなかった。


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