5話 リリーは最高!(ジェシー視点)
リリーの幼馴染み、ジェシー視点です。
短めです。
今日もいい天気ね。
自室の窓から空を眺めて、ジェシーは少しだけ微笑んだ。
しかし、屋敷から外に出ることもなくなった彼女には、天気などあまり関係のないことだった。
今日も自分の部屋で小説を読んで過ごすだけ。
いつもと同じ一日がまた繰り返される……。
あの時まではそう思っていた。
外から明るく懐かしい、大好きな声が聴こえてくるまではーー。
いつものように自分の部屋の窓際の椅子に腰掛け、ジェシーは小説を開いた。
今読んでいるのは流行りの冒険小説である。
主人公は子供時代、とある事情で少女なのに少年として育てられた。
好きな剣術を学び、信頼できる仲間に出会い、いつしか女性の格好に戻った彼女は、女騎士として皆と共に魔族を倒す冒険に出るのだ。
ジェシーは主人公がうらやましかった。
最終的に男も女も関係なく、好きなように自由に生き、仲間に囲まれる彼女が。
一人孤独な日常の中で、ふと幼馴染みの少女を思い出す。
身体が弱く、寝ていることも多かったが、いつもジェシーの話をキラキラした瞳で聞いていた。
彼女を楽しませたい、笑わせたい、あの時のジェシーにはそれが全てだった。
リリー、今どうしてる?
元気になったとアーサーお兄様は言っていたけれど。
あなたにとても会いたいわ。
でも会いたくない気持ちもあるわね。
こんな風に屋敷に閉じ籠っている私なんて、リリーには見せたくないわ……。
手紙も途中から出さなくなってしまった。
こんな薄情な自分のことなんて、リリーはもう忘れているに違いないーー。
ジェシーが小さく溜息を吐いたその時、窓の外に門の方から近付いてくる人影を見つけた。
馬車に乗らずに歩いてくる方なんて珍しいわね。
あら、あれはお兄さまとアーサーお兄様?
……一緒にいる女性は誰かしら?
なんだか珍しく気になり、久しぶりにベランダへと出てみた。
すると、兄のオーウェンがこちらを指差しながら女性に何か話すそぶりをしている。
何事かとジェシーが首を傾げた直後だった。
「ジェシー!!」
女性が私を見て令嬢にあるまじき大声で叫んだ。
手にしていたバスケットをアーサーに押し付け、両手を挙げてぶんぶん振りながらピョンピョン跳ねている。
あの女性はもしかして……。
「リリー!?」
記憶と違うあまりの元気の良さにベランダから身を乗り出して驚いていると、リリーを挟むように立っていたオーウェンとアーサーが身体を折って笑っている。
確かに今のは伯爵令嬢とは思えない大声だったわね。
しかも、あの子ったらあんなに落ち着きなく飛び跳ねて。
まるで子供みたいじゃないの。
……ふふっ、なんだか私までおかしくなってきたじゃない。
笑いが止まらないわ。
あははっ、まだ跳んでる。
笑うのなんていつぶりかしら……。
「リリー、今行くわ!」
ジェシーも大きな声で叫び返すと、急いで部屋を飛び出した。
廊下を走り抜けるジェシーを使用人達が驚いた顔で見送っているが、そのポカンとした顔までもが愉快に感じられた。
あぁ、やっぱりリリーは最高ね!
さっきまで会いたくないなどと思っていたのが嘘のようだ。
玄関から飛び出したジェシーはリリーに飛び付いた。
「おかえりなさい、リリー!」