表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/55

49話 取り巻きはあっさり落ちました。

「さてと。ここで念の為、二つの男爵家が何故爵位を剥奪され、王都を追われたのか説明をしておきましょう。今更の話ではありますが、いまだに理解が出来ていない、頭の残念な方がいらっしゃるようなので」


ラインハルトがナムール伯爵に、馬鹿にしたような視線を送りながらも、わざと丁寧な口調で挑発するように告げる。

今まで公的な場では、表向きは笑顔の好青年を貫いてきた第三王子のラインハルト。

いつもと明らかに違う態度と発言に、動揺を隠せない貴族も中にはいるようだった。

この場にジェシーが居たら、「よっ、腹黒王子!」などと喜んで囃し立てていたかもしれない。


王子に負けじと伯爵もラインハルトを見据え、堂々と言い返す。


「ほう、私が納得出来るような理由を、是非とも伺いたいものですな。そんな理由はないに違いないが。ハッ」


この期に及んで、まだ強気な態度を崩さないとは……。

ある意味尊敬するが、あの悪態の数々や連れてこられた証人の様子を見る限り、伯爵に明るい未来がないことだけは確かだった。


「さっさと終わらせたいので、結論を先に述べましょうか。二名の男爵は領地で税を不当に取り立て、国に納めることなく自らの懐に入れていました。つまり横領です。調べはついていて、証拠の帳簿もこちらで押さえてある上、本人達も罪を認めています」


ラインハルトの言葉に、伯爵の背後にいる取り巻き二人がガタガタと震えだした。

言葉にならない呻き声が漏れているところを見るに、身に覚えがあるのだろう。

やがて一人が観念したようにラインハルトの前に進み出て、膝を突いた。


「申し訳ございません。私も男爵同様、横領を行いました。しかし、全てはナムール伯爵の指示だったのです!!」


すると残されたもう一人の取り巻きも、慌てたように並んで膝を突くと頭を下げた。


「私もです。伯爵の怒りを買うのを恐れ、言われるがままに罪を犯しました。申し訳ございません!!」


二人の娘である取り巻き令嬢達も、薄々父の悪事に気付いていたのか、大人しくそれぞれの父親の隣で頭を垂れた。

あっさりと二人が自白し、裏付けを取るようにラインハルトが証人に話しかける。


「今の発言に偽りはないか?」

「ございません。私は領民から農作物や金を集め、旦那様にお渡ししておりました。我が領は他の土地より税も高く、民が困窮していることを知りながら私は……。でも旦那様も私も被害者なのです! 伯爵様から国に納める税を少なくする方法を教えられ、その浮いた一部を伯爵様に献上するように脅されていたのです」

「うちの旦那様も同じです。多分、処罰された二人の男爵も同じ目にあっていたと思われます」


悲痛な表情で、伯爵の非道を訴える証人達。

伯爵の腰巾着だった取り巻き四人は、横暴だと思いつつも断れず、それぞれが辛い立場にはあったようだ。

しかし、自分達もそのおこぼれで贅沢をし、今まで伯爵の威を借りて好き勝手してきたのである。

娘達も平民を見下したり、リリーに悪口を言っていたことを考えると、とても同情は出来ない。


「黙れ黙れ!! 何を勝手なことを。私は指示なんてしていないし、何も受け取っていない。王子ともあろうお方が、伯爵の私の言葉より下民の言い分をお聞きになるのですか? ははっ、あなたは何もわかっていない」


ナムール伯爵が肩をすくめ、ラインハルトを憐れむように笑う。


「ん? それはどういう意味だろうか」

「ふっ、わかりやすく言いましょう。世の中、私達のような高貴な者の言うことが全てなのですよ。証人なんて意味が無い」

「そうですわ。そもそも領民なんて領主の為に居るのですから、言われるがまま、死なない程度に税を払っていればいいのだわ」


伯爵の価値観を肯定するようにミシェルが加わり、二人は悪びれるそぶりすら見せない。

親子のあまりの醜悪さに空気が重くなっていたその時ーー。


「俺はお前たちを許さない! 高い税を取られ、どれだけの者が生活に困っているか! 食べるものにも困り、体を壊し、死んでいく者もいるんだぞ? なのに自分達だけ贅沢な生活をしやがって。何度も嘆願してきた俺の顔も覚えてないだと!?」


今にも伯爵に掴みかかりそうな勢いでもがく男を、騎士が羽交い締めにして止めているが、その顔は彼に同情しているのがわかる。

証人三名の内、一名はナムール伯爵領から王都へ、領地の現状を直訴しにやってきていた善良な領民だったのだ。


「おお、下賤の者がうるさく吠えていますな。自分に発言権があるとでも思っているのか。はっはっはっ、面白い。なあ、ミシェル」

「おほほ、本当ですわね、お父様。卑しいこと」


必死な民の声すら耳に入らない伯爵親子に、周囲はもはや恐怖を感じていた。


「あなた達には人の心がないようですね。罪を認めたそこの二名はもういいでしょう。捕らえて下さい。娘も一緒に」


取り巻き二組の親子と証人達は、ラインハルトの命令で会場から連れ出された。

令嬢二人は泣き崩れ、自分で歩けないほどに憔悴している。

横領していた二人も、男爵達と同様に爵位を剥奪されることは明らかだった。


残すは彼らのボス、ナムール伯爵とその娘ミシェルである。

ラインハルトは再び馬鹿な貴族が現れないよう、徹底的にナムール親子を潰そうと心に決めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ