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44話 リリーに絡む命知らずな令嬢達。

社交界デビューを果たした令嬢達による国王への拝謁が一段落し、夜会は一度歓談と食事を楽しむ時間となった。

その後、第三王子の婚約発表ーーつまり、リリーのお披露目タイムへと移ることになっている。


国王ら王族の周辺は、ご機嫌伺いの貴族で溢れ、リリーがラインハルトと二人でゆっくりと顔を合わせる機会はまだなかった。


やっぱりハルト様は王子様なのよね。

当たり前なのだろうけど、堂々とした振る舞いが板に付いているし、笑顔を絶やさずに応対していてさすがだわ。


実際は、せっかく可愛く着飾ったリリーと自由に会話も出来ず、ラインハルトは苛立っていた。

今までは仕事と割り切ってうまく振る舞えていたのに、見えるところにリリーが居るのに近付けないことが思いのほか辛く、気を抜くとどす黒いオーラが溢れてしまう。

度々、兄達に肘でつつかれては、王子様スマイルを慌てて張り付けることを繰り返していた。


そんなラインハルトの葛藤に気付くこともなく、リリーは兄やジェシー兄妹と共に、果実のジュースを飲みながら会話に花を咲かせていた。

そんなリリーの目に、料理ブースの脇に置かれた珍しいお菓子が映った。


「ジェシー、あそこにある色とりどりなお菓子って何かしら?  ちょっと見てくるわね」

「待って、リリー。一人じゃ危ないから、私も行くわ」


初の夜会で一人にさせるのが心配なジェシーは、すぐに自分も付き添うと言ったが、リリーは「すぐそこだから平気」と、小走りに行ってしまった。


「僕達の目の届く場所だから大丈夫だろう」

「そうそう。さっきの陛下との挨拶の場面を見て、リリーに何か仕掛けてくるような馬鹿はさすがにいないだろうし」


アーサーとオーウェンが、呑気に笑い合う。


確かに、王族からあれだけ大切にされているリリーに、何かする貴族なんているはずないわよね。


ジェシーが離れていくリリーを目で追いながら、そう思った時だった。


「あなたがずっと田舎に籠っていたっていうリリーさんかしら? 確かに色が黒くて、せっかくの白のドレスが台無しね。よく顔を出せたものだわ。ねえ、みなさま」

「ええ、本当に」

「その通りですわ」


ジェシーの視線の先に、リリーを貶め、嘲笑う令嬢が現れた。

取り巻きなのか、二人の令嬢を引き連れている。


え?

なにあの人達……。

リリーに絡むなんて、正気なの?


ジェシーは目を丸くし、オーウェンはブハッとお酒を噴いた。


「お兄様、馬鹿が居たみたいですわよ」

「嘘だろ!? あいつら、家ごと終わるな」


すぐさまリリーの元へ駆け付けようとした三人だったが、ラインハルトの「待て」の視線を感じて思い止まった。

何か考えがあるらしい。



一方、お菓子を一人で取りに来たリリーは戸惑っていた。

目の前には話しかけてきた令嬢と、彼女に従うように二人の令嬢が立っている。

綺麗なドレスを着こなした美しい娘達だが、なんだか威圧的で目付きが怖い。


「はい、私がリリーです。あなた方は?」


貴族の顔をほとんど知らないリリーは、申し訳なさそうに名前を訊いてみた。

もしかしたら会うのは初めてでも、家族の知り合いかもしれない。


「まあ、ミシェル様をご存知ないなんて! さすが田舎者は違いますわね」

「ミシェル様はナムール伯爵家のご令嬢でしてよ? 無知にも程がありますわ!」


背後から取り巻きらしき二人の女性が口々に叫ぶ。

どうやら話しかけてきたミシェルというのは有名な令嬢のようだ。


「あーーーっ!! あれって、ミシェルじゃない! あの取り巻きも覚えてるわ。お兄様、ほら、昔私を虐めてた中心人物の……」

「ああ、覚えているよ。あの娘も成長しないな。しかも、今やリリーは格上の侯爵令嬢なのに」


呆れたようにオーウェンがため息を吐いた。

確かにあれから十年ほど経ったが、彼女達は相変わらず同じことを繰り返しているらしい。


「あなた、本当に何も知らないのね。常識がないから、平気で自分の父親の爵位を上げるように頼んだり出来るのよ」


ミシェルが憎しみを込めた瞳でリリーを睨む。


「あの、何のことでしょう?」


意味がわからずにリリーは尋ねたが、ミシェルはその態度に益々腹を立てたようだ。


「惚けないで下さる? あなたがラインハルト様にお願いして、特別に父親を侯爵にしてもらったのでしょう? そうでなかったら、あんな仕事も出来ないポンコツが侯爵になるなんておかしいじゃない。ラインハルト様もなけなしの色仕掛けで落としたのかしら? 田舎者で美しくもないあなたの武器なんて、女であることくらいですものね」


会場の温度が一気に下がった。

一番の冷気の出所はもちろんラインハルトだが、リリーの家族、ジェシーの家族、王族達からも漏れ出している。


これは不味い……不味すぎる……。

王族の婚約者にケンカを売るなんて、あの娘の親達は何をしているんだ!

早く三人を止めろ!!


夜会の参加者は心の中で叫んでいたが、ただ空気のように静かに佇むことしか出来なかった。


「私はおっしゃる通り、田舎育ちですし、美しくもありません」


リリーが真っ直ぐにミシェルの瞳を見ながら話し始めた。


「でも、父の陞爵は父のたゆまぬ努力によるものです。父は働き者ですし、実績もあると聞いています。私は父を尊敬しています。父に対する言葉だけは訂正していただきたいです。国王様も、私情でそんなことはなさいません!」


凛と言い放つ姿は美しく、ラインハルトはリリーに出会った日の事を思い出していた。


『確かに何もないところかもしれないですが、全てがあるところだと私は思っています!!』


領地の事をそう話していた。

北に位置するスペンサー領を田舎だと馬鹿にする人間も多い中で、全てがある場所だと言いきれるリリーに、ラインハルトは惹かれたのである。


ラインハルトだけでなく、父親世代の貴族の男性も、リリーの言葉に感銘を受けていた。

父の功績を誰より信じる娘……。

コネに違いないと、妬みから陰で悪口を言っていた者は過去の自分を恥じていた。


リリーの父ウィリアムも、自分自身陞爵は娘の婚約の為の手段に過ぎないと諦めていた為、リリーの己を庇う発言が嬉しく、男泣きしていた。

国王は、若干の後ろめたさを感じつつ、リリーに信頼を寄せられていることを嬉しく思っていた。


こうして、あっという間にリリーは会場中の人々を味方につけていたのだった。


固唾を飲んで皆がリリーを見守る中、ようやくラインハルトが動き出した。


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