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42話 王子様へのプレゼント。

日が傾き始め、お忍びデートも終盤へ。

ラインハルトは街の中心部から少し離れた、これまたオススメの宝飾店へとリリーを案内した。


「ここは母上もお気に入りの店なんだ。きっとリリーの気に入るものもあると思ってね」


決して大きくはない店だが、外装や外灯からもセンスの良さとこだわりを感じる。

知る人ぞ知る、通好みの店という感じだ。

兄が教えてくれた本屋と似たものを感じ、王妃がお気に入りなのもわかる気がした。


素敵なお店ね。

ここならハルト様に贈るプレゼントが見つかるかもしれないわ。


リリーは期待に胸が膨らんだ。


中に入ると、リリーの期待通り、奇抜ではないが目を惹くデザインのアイテムが並んでいる。

宝石を主に扱っているようだが、小さな石を嵌め込んだ小物も多く、リリーはそちらに興味を引かれた。


「美しい細工だわ。ハルト様、ゆっくり見てもいいですか?」

「もちろん。僕も見たいものがあるから、ごゆっくり」


ラインハルトも気になる物があると離れていったので、今がプレゼントを探すチャンスとばかりに、リリーは品物を吟味し始めた。


んー、何がいいかしら。

普段使って貰える物か、身に付けられる物がいいのだけれど……。


あちらこちらの棚に目をやっては悩んでいたリリーだったが、ふと一つの物に目が止まった。


金色の懐中時計……。

鈍い光り具合がかえって上品に見えて、手にも馴染みそう。


中を開くと、文字盤の中心にエメラルドの石が刻まれていた。


私の瞳の色だわ。

この懐中時計を贈ったら、時刻を見る度に私を思い出してくれるかしら?


リリーはラインハルトへのプレゼントをこの懐中時計に決め、店員に話しかけようとしたところで再び視線が止まった。

またまた気になる、今度は木製の小物入れが目に入ったのである。


綺麗な木目ね。

手触りも滑らかで、職人の技を感じるわ。

あら、金具にアメジストがあしらわれていて、ハルト様の瞳の色にそっくり。

あ、エメラルドのものもあるのね。

だったら、お互い相手の瞳の色を持つのはどうかしら?


すぐさまリリーは、懐中時計と小物入れ二つを購入した。

こんなにお買い物をするのは生まれて初めてのことだったが、贈り物を自分で選ぶことの楽しさをリリーは感じていた。


「リリー、何か買ったのかい?」


ホクホクしているリリーの元に、どこかへ行っていたラインハルトがちょうど戻ってきた。


「はい! 後で見せますね。ハルト様はどちらへ行かれていたのですか? 店内にはいらっしゃらなかったような」

「ああ、ちょっと知り合いを見かけてね。挨拶していたんだよ」


ラインハルトは、アーサーとジェシーが尾けてきていることにずっと気が付いていたが、あえて気付かないフリをしていた。

せっかくのリリーとの初デートを、ダブルデートにはしたくない。

しかしあまりにも目障りなので、追っ払ってきたのである。


ラインハルトから二人に声をかけると、アーサーは狼狽えていたが、ジェシーは堂々と「奇遇ですわね」と見え見えの嘘をつきながらニッコリと笑ってみせた。

やはりジェシーは侮れない。

リリーの為には、悔しいけれどジェシーのような令嬢が傍に居てくれるのは、正直ありがたかった。

買ったものを大事そうに自分で抱えて離さないリリーを見つめ、ラインハルトに『リリーを絶対守る』という気持ちが、一層強く湧き起こっていたのだった。



帰りの馬車の中で、リリーはラインハルトにさきほど買った贈り物を差し出した。


「ハルト様、これを開けてみて下さい。いつもいただいてばかりなので、お礼の贈り物です」


綺麗に包装された小箱を手渡す。

中身はエメラルドがあしらわれた小物入れである。

自分も同時に、アメジストが付いている方を開けてみせた。


「リリー、この石……」

「はい。ハルト様の方はエメラルドが飾られていて、私の方はアメジストなんです。お互いを感じられるかと思って、ついお揃いで買ってしまいました」

「嬉しいよ。リリーの瞳の色なんて、絶対大切に使うよ!」

「私も嬉しいです。あとこちらも、良かったら使って欲しくて」


リリーは包装された懐中時計を渡した。


「ああ、いい色だね」


ラインハルトは開封後、まず懐中時計の色を誉め、中を開けて更に表情が柔らかくなった。


「この時計もリリーの色だ! 持ち歩けば、いつでもリリーを感じられるね」


リリーは安心した。

これでもかとエメラルド攻撃をしてしまったが、身につけてくれるらしい。

喜んでもらえたなら何よりだ。


「でもこれ、結構いい値段なんじゃ?」


心配するラインハルトに、リリーは説明した。


「それは大丈夫です。私、領地で酪農のお手伝いをして、少しばかりのお給金をいただいていたのです。今まで使う機会が無かったのですが、ハルト様には私から贈り物をしたかったので、足りて良かったです」


嬉しそうにリリーは話すが、自分で稼ぐ令嬢なんて普通は居ない。

しかも、せっかく貯めたお金を躊躇なくラインハルトに使ってしまったという。


「リリー、そんな貴重なお金を僕の為に……」

「ハルト様にだから使いたかったのです」


後悔なんて微塵も感じさせない様子に、遠慮をするよりたくさん使う方がリリーの気持ちに寄り添えると考えたラインハルトは、早速懐に時計をしまった。


「肌身離さず身に付けるからね」


リリーは、彼が想いを全部受け止めてくれたのを感じ、満ち足りた気分だった。


こうして、お忍びデートは二人の記憶に残る幸せなものとなった。

後日、ラインハルトは上機嫌でデートを陰で支えてくれた者達を自ら労って回ったが、その腰には見せびらかすように懐中時計が下がっていたとか。


自然体で街を楽しむリリーに、皆が好意的な印象を残すことになった一日だった。

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