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34話 幼馴染みがお義姉さんになるみたいです。

今回、リリーはお休みです。

アーサーが隣家を訪ねると、すぐに顔馴染みの執事が現れた。

彼とは子供の時からの付き合いだ。


「アーサー様、オーウェン様ならあいにく学院へ行かれていて、おりませんが……」


怪訝そうな顔をしているが、それも当然である。

本来なら、アーサーも一緒に学院に居るはずの時刻なのだから。


「今日はジェシーに用があってね。突然連絡も無く訪ねて悪いんだが」


執事は納得すると、すぐにジェシーを呼んでくれた。



「アーサーお兄様? 一体どうなさったの?」


すぐにジェシーが顔を出したが、執事と同じく何故アーサーがここに居るのか不思議そうにしている。

話があると告げると、応接室へ案内された。


ハーブティーが目の前に置かれると、ジェシーが先に口を開いた。


「もしかして、朝の馬車の音と関係があるのかしら?」

「さすがジェシー、勘がいいな。リリーなんて、あの爆音に気付かず寝ていたよ」

「あの音で? ある意味さすがだわ、リリー」


ジェシーが信じられないとばかりに目を見開いた後、二人で思わず笑ってしまった。

彼らは田舎暮らしで培われたのか、リリーのそういう妙に悠然としたところを愛しているのだ。


「それで? 何があったのか、私が訊いてもいいのかしら?」

「もちろん。結論だけ言うと、ラインハルト様とリリーの婚約についてだった」

「はあああ!? 婚約? リリー、腹黒王子と婚約したの!?」


声を荒げ、テーブルに手をついて身を乗り出すジェシー。

カップが悲鳴を上げ、ハーブティーが波打っている。


「驚くよね。僕も昨日聞いて驚いたし、今朝書類が届いて更に驚いた」


ジェシーが呆れたように溜め息を吐くと、もたれかかるようにゆっくりとソファーに身を沈めた。


「ふぅん、そういうこと。昨日、おじさまが陞爵したタイミングで婚約の打診をして、翌日にはさっさと契約を済ませようって魂胆ね。あの腹黒王子の考えそうなことだわ」


あまりに見事に言い当てていて、アーサーは感心してしまった。

自分の妹より、ジェシーは思考が大人びている。


「本当にジェシーは賢いよね。まさにそのとおりだよ。今日中に提出って言われて、おかげで父上と僕は寝不足さ」


その恨みもあって、アーサーはジェシーの『腹黒王子』の呼び方を咎める気など全く起きない。


「それは大変でしたわね。そんな時に私にまで説明に来てくださって、ありがとう」

「いや、他にも話があるんだ」

「他にも?」


さすがのジェシーも、アーサーの本当の目的まではわからないようだ。

キョトンとした目でこちらを見ている。

アーサーはジェシーの目を見つめ返すと、緊張ぎみに告げた。


「ジェシー、突然言われても困るとは思うが、僕と結婚してくれないか?」

「え?」


ジェシーは驚き過ぎて、言葉が続かないらしい。

目をパチクリさせていたが、ようやく合点がいったのか、頷き始めた。


「なるほどね、話が読めたわ。アーサーお兄様、これから殺到するお見合い話に億劫になったんでしょう? それに、やっぱり味方になる女性がリリーの近くに居たほうが、これから色々と安心出来るものね」

「うっ……それだけではないけど、確かにその通りなんだ。でも改めて客観的に聞くと、打算的でひどい話だな。やっぱりなかったことに……」

「アーサーお兄様と結婚するわ!!」

「はっ!?」

「私、まだリリーの婚約なんて認めていないもの。身内になれば、破談にさせるチャンスもあるかもしれないし」


いやいや、確かにお互いにメリットはあるかもしれないが、果たしてそれだけで結婚していいものなのか?

自分から言い出したにも関わらず、アーサーは葛藤していた。


というか、どれだけリリーとラインハルト様の婚約が嫌なんだよ。

むしろ、リリーのことが好き過ぎると言うべきか……。


しかし、ジェシーはアーサーを説得するように続けた。


「アーサーお兄様、私達の結婚が例え利害がからんでいなくとも、もともと私達は相性がいいと思うの。私、アーサーお兄様のこと好きよ。愛していく自信があるわ。お兄様は?」


アーサーは自分に問いかけた。

ジェシーを愛する自信があるのかどうかをーー。

しかし、あっさりとその答えは出た。


「僕にもあるよ。ジェシーを愛して、守っていく自信が」


アーサーははっきりと言い切った。

自分でも不思議なほど自然に夫婦となった二人を想像できたのである。


今までも妹のように愛していたけど、夫婦も家族愛と考えたら当然か。

なるほどな、問題はなかったみたいだ。


「あら、じゃあ相思相愛じゃない」


ジェシーが可愛らしく笑ったので、アーサーも笑った。


「早速、夜にでも父に伝えるよ。あ、あと出来ればもう一つ頼みたいんだ」

「乗りかかった船というやつね。運命共同体の私に、何でも言ってちょうだい」

「王子とリリーが学院に入学するんだ。嫌じゃなければジェ……」

「行くわ!!」


まだアーサーが言い終わらない内に、食い気味にジェシーが承諾していた。

本当にジェシーは察しがいい。


「イチャイチャ学生生活なんて、私が阻止してみせるわ!」



その頃、王宮でリリーのお披露目の為のドレスを発注していたラインハルトは、クシャミをしていた。


「ん? リリーが僕のウワサでもしてるのかな?」


幸せ一杯のラインハルトは、この先ジェシーに邪魔される未来をまだ知らなかった。


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