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32話 変わる日常と、変わらないリリー。

日が昇ってからそれなりの時間が経過した頃、ようやくリリーは目を覚ました。

伸びをしつつ、辺りの明るさから完全に寝過ごしたことを悟った。


随分と寝坊してしまいました。

昨日は胸がドキドキして、なかなか寝られなかったんだもの……。


そうなのだ。

ラインハルトとの馬車の中でのアレコレを思い出し、ベッドの中で遅い時刻まで一人ジタバタしていたのである。

しかも、ラインハルトと次に会えた時に、「好きです」と伝える場面を頭の中で想像していたら、羞恥があっという間に許容量を超え、気付けばそのまま気を失うようにして寝ていたのだった。


身支度を済ませ、侍女のアイラと部屋を出ると、何故か屋敷の雰囲気がいつもより慌ただしい気がする。


「ねえ、アイラ。なんだか落ち着かない雰囲気ね。皆バタバタしているし。何かあったのかしら?」


何かあったも何も、全てリリーの婚約のせいで大変な状況に陥っているのだが、本人は全く気付いていない。

今この屋敷でこんなにのんびりしているのはリリーくらいなのだが。


「朝早くから、王宮の使いの方が見えたのです」

「まあ! 何か王宮で大変な事が起こったのかしら? ハルト様が無事だといいのだけれど」


『いえいえ、全てそのラインハルト様とお嬢様が原因ですよ』とも言えず、「きっと旦那様からお話がありますよ」とだけアイラは伝えた。

侍女に過ぎない自分が余計なことを言うべきではないと、賢明にも判断したからである。

リリーが食堂へ入ると、いつもならとっくに出かけているはずの父と兄の姿があった。


「お父様、お兄様、おはようございます。寝坊してごめんなさい。お父様もお兄様も、今日はゆっくりなのですね。もしかして、お仕事と学院がお休みなのですか?」

「おはよう、リリー。いや、今から登城するところだ。急ぎの案件があったんだが、今書類が出来上がったところでね。食事がてら、最後の点検をアーサーとしていたんだよ」

「リリー、おはよう。僕は今日は学院を休んだんだ。父上の手伝いがあったし、ちょっと面倒なことになりそうだからね。さっきオーウェンが訪ねてきたから、学院には彼から伝えてもらうことにしたよ」


そう、今から一時間ほど前に、隣家に住むアーサーの幼馴染み、オーウェンが我が家へやってきた。

明け方の馬車の音は隣にもバッチリ聞こえたらしく、心配した彼はアーサーを迎えがてら、様子を見に来てくれたのである。

ちなみに、アーサーが学院の寮を引き払ったタイミングで、オーウェンも同じく自宅から通うことにした為、朝は共に登校することも多いのだ。


書類と格闘するアーサーから、リリーの婚約の話を聞いたオーウェンは、話の進み具合の早さに驚き呆れていた。

だが、彼が何より心配したのは親友アーサーのことだった。

リリーの婚約によって、王家と繋がりが出来るスペンサー侯爵家の嫡男であるアーサーは、いまだ婚約者も恋人もいない。

こんなチャンスを独身の令嬢が居る家が見逃すはずもなく、第三王子との婚約が公になれば、アーサーに結婚話がひっきりなしに舞い込むことは想像に難くない。

察しの良い貴族は、ウィリアムの陞爵と朝方の王家の暴走馬車から、すでにリリーとの婚約に気付いているかもしれない。

そうなれば、学院でのアーサーももはやいつも通りに過ごしては居られず、一騒動起きるのは目に見えていた。


ひとしきりアーサーの身を案じたオーウェンは、学院への休みの伝言を引き受けた後、アーサーに提案した。


「いい案がないこともないけどね。うちの妹と婚約でもすれば? 気心しれてるし、色々な意味でいいパートナーになると思うけど?」


彼はそう意味深に言い残し、部屋から出ていった。


さて、どうしたものか……。


アーサーはオーウェンの提案について、それからずっと思案していた。



「王宮からの使いはどんな要件だったのですか? 私、寝ていて全然気付かなかったです」


あの騒音で!?

よく寝ていられたものだ。


ウィリアムとアーサーは、騒動の中心人物でありながらそのことにも気付かず、のほほんと朝食を摂り始めたリリーに呆気に取られていたが、これから一番大変なのはリリーなのである。

とりあえず使いの目的をリリーに伝えなければならないが、ウィリアムは早急に登城しなければならない。

きっと国王が待ちわびていることだろう。


「私は登城せねばならない。詳しい事はアーサーが教えてくれる。リリー、落ち着いてアーサーの話をよく聞くんだよ?」

「ちょっ、父上!? 逃げる気ですか! こんな大切な話は家長である父上から……」

「いや、急がなければいけないしな。では代わりにお前が国王に謁見してくれるか?」

「無理に決まっているでしょう!」

「では、リリーのことは頼んだぞ」

「父上ー!!」


なんだかよくわからないが、リリーの前で父子の必死な会話が繰り広げられていた。


何を揉めているのでしょう?

でも二人とも顔色が悪いわ。

寝不足かしら?


モグモグとパンを食べながら、リリーだけが日常と変わらず呑気だった。



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