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31話 王家の本気は凄いのです。

突如リリーの婚約話が持ち上がった翌朝ーー。


リリーの父ウィリアムは、けたたましい馬車の走音で目が覚めた。

昨晩はリリーの婚約や今後のスペンサー侯爵家について、息子のアーサーと夜更けまで相談していた為、あまり寝た気がしない。

それにもかかわらず、外の馬車の音はどんどん大きくなり、スペンサー家の屋敷の前で突然止んだ。


『こんな朝っぱらから何事だ?』


ウィリアムがベッドから体を起こし、まだ眠気の残る重い頭を振りながら扉の向こうの様子を窺っていると、執事の慌ただしい足音と、急かすようなノックの音が響いた。


「何があった?」


低い声でウィリアムが尋ねると、切羽詰まった声が返ってきた。


「旦那様、大変です! 王家の使いがお見えです!!」


王家の使い?

こんな朝早くに??


窓の外に視線をやってみるが、どうみても日が昇るか昇らないかという時刻である。


「すぐに用意する。応接室でお待ちいただくように」


嫌な予感しかしないと思いつつ、ウィリアムは怠い体を動かして支度を始めた。



応接室に入り、使いの者と挨拶を済ませると、いきなり大量の書類らしきものを手渡された。

ズシッと重い。


「こちらに記入をし、本日の登城の際にお持ち下さいとのことです」


はぁぁ?

今日提出?

今からこれ全部に目を通せと??


ウィリアムは慌てて中身をパラパラと確認し、嫌な予感は的中するものだと実感した。

全て、リリーの婚約関連のものだったからである。


婚約に関する契約書だけでもさすがの王家、普通の貴族とは違ってかなりの量だが、リリー御披露目の夜会、王子妃教育の日程表、学院の入学手続き書類など、とんでもなく広範囲にわたって用意されていた。


昨日、前触れもなく婚約を迫っておいて、昨日の今日でこれは……。


「いくらなんでも早急に進め過ぎでは?」


王家に雁字搦めにされるリリーを案じ、父として思わず苦言を呈してしまった。

文句の一つも言いたくなって当然だろう。


これについては、さすがに使いの者もウィリアムを哀れに思ったらしい。


「お察しします。確かに異例のことですね」


などと、最初は同情したように頷いていた。

ーーが、思い出したように咳払いをすると、威厳のある声で告げた。


「陛下からのお言葉を申し上げます。『婚約は双方共通の意思だと捉えている。ラインハルトも適齢期であり、早々に進める必要があると考える。進捗が滞るとラインハルトが怖……じゃなかった、今後の予定に影響を与える為、速やかな対処を望む』とのことです」


おいおい、そこまで一言一句、素直に伝える奴がいるか?

威厳も何もあったものではないな。

やはり、第三王子と王妃が裏で国王を操っているに違いない。

確かにあのお二人には底知れぬ怖さがあるのは理解出来るが……。


ウィリアムがジトッとした目で使いの男を見ると、ゆっくり視線を逸らされてしまった。

この憤りをどうしてくれようかと思っていたその時。


コンコン


ノックの音と共に、アーサーが入ってきた。

やはりあの騒音が気になったのだろう。

アーサーは使いの男に頭を下げると、広げられた書類の束に目をやり、その目を見開いた。


「父上、これはどういうことですか。話が進みすぎています。リリーの意見も訊かずに勝手なことを!!」

「そうだよな、そう思うよな。私だってそう思うよ。しかしな……」


使いの男はそっぽを向いて、聞いていないふりをしている。


「今日の登城までに記入しないといけないんだ。お前も手伝ってくれ」

「はぁぁ? 今日の登城? もう時間が無いですよ!!」


不平を言いつつも、素直に書類に手を付け始めるアーサー。

結局、王家に逆らうことなど出来やしないのだから、早く片付けるにこしたことはないのである。


使いの者達が立ち去った後、アーサーがぼやいた。


「よくもまあ、これだけ一晩で準備しましたよね。王家の本気を感じますよ」

「確かにな。迷惑な話ではあるが」


父子が愚痴をもらしつつ奮闘している頃、リリーはまだ夢の中であった。



その時刻、王宮では。


「父上、昨日お願いしたスペンサー家への書類はどうなりましたか?」


国王が早朝から息子に詰め寄られていた。


「夜明け前に使いに持たせたぞ。聞いて驚け? 御披露目の夜会も企画済みな上、お前と一緒に通えるように学院の手続きも混ぜといてやったぞ」

「さすがは父上! こうしてはいられません。リリーにお披露目用のドレスを用意しなければ!! 母上ー、相談があるのですがー」


王妃を探しながら去っていく後ろ姿を見送りながら、国王はホッと息を吐いた。

なんとか乗り切ったようだ。


子供の婚約話に振り回された二人の父親は、この後お互い寝不足のまま対面したのであった。



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