表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/55

29話 強引なのは王家の男の証らしい(ラインハルト視点)。

ラインハルトは王宮に戻るなり馬車から飛び降りると、国王の執務室へと繋がる廊下を駆け出した。

一刻も早く、父である国王にリリーとの婚約の書類を作成してもらわなければならないからだ。


途中、顔見知りの秘書官とすれ違い、慌てて立ち止まると、念の為に国王の居場所を尋ねた。


「陛下なら先ほど執務を終えられ、今はサロンで王妃様とお茶を楽しまれているかと……」


遅かったか!!


チッと舌打ちをすると、秘書官に礼を告げ、今度はサロンへ向かって走り出す。

いつも愛想も態度も良いラインハルトの、余裕のない様子に驚いた秘書官は、しばらくその場で小さくなるラインハルトの背中を見送っていた。



「父上!!」


サロンの扉をノックもせず、駆けてきた勢いそのままに体当たりのように開くと、両親が紅茶の入ったカップを片手に固まった。


「ラインハルト? そんなに慌ててどうした?」

「リリーちゃんを送ってきたのでしょう? 遅かったわね。侯爵家でお茶でもご馳走になってきたの?」


息を切らせるラインハルトに、驚き目を瞬く国王と、呑気に問いかける王妃。


「いえ、送っただけです。リリーに婚約を申し込んでいたら遅くなりました」


ブフォッ


国王が派手に紅茶を噴いた。

それを王妃が見事な反射神経でさっと避ける。


「はぁ!? お前、もう婚約を申し込んだのか? 普通もっとこう、準備とか順序とかあるだろう! 私にあらかじめ予告とか」

「まぁまぁ、あなた。いいではないですか。で? どうだったの?」


焦る国王をなだめ、王妃が好奇心を抑えられないのか、ワクワクした様子で訊いてきた。


「それはもちろん、了承してくれましたよ」


晴れ晴れとした顔で答えるラインハルトに、父として不安を感じた国王は恐る恐る問いただした。


「お前、まさか強引な手を使ってはいないだろうな? 力ずくとか、断れない状況に持っていっ……」

「父上?」


ラインハルトが冷ややかに父の言葉を遮った。


「父上や兄上達が僕に何か言える立場だとは思えませんが?」


冷静なラインハルトの台詞と、王妃の『お前が言うか』というジトッとした視線に耐えきれずに、国王は不自然に明後日の方角を見やった。

王家の男性はその血筋なのか、先祖代々執着と束縛が強い。

この女性だと思ったら絶対逃がさず、どんな手を使っても妃にしているのだ。


国王も過去の自分に、多少強引なやり方だった自覚があるらしく、かつてのターゲットだった王妃の前では口を噤むしかなかった。


「オリバーとノアも、この娘だって相手を決めたら行動が早かったけど、ラインハルトもやっぱりこの人の血をしっかり受け継いでるのねぇ。今までは全然女の子に興味が無さそうで、おっとりしてると思ってたのに。リリーちゃんと出会った途端に別人みたいになっちゃって」


確かにラインハルトの兄達、王太子と第二王子もなかなかの囲い込み方だったと貴族の中では有名である。


「僕も自分で驚いていますよ。かつては父上と兄上を特殊な人達だと思っていたら、まさか自分にもそういう一面があったとは……」

「おいおい、家族を特殊扱いするな。むしろ今までの反動か、お前が一番危ないからな! 行動は慎めよ?」


父の忠告もしれーっと聞き流すラインハルトに、母が思い出したかのようにアシストした。


「そういえば嵐のようにやってきたけれど、婚約のことを私達に伝えるだけでいいの?」

「そうでした! 母上はさすがですね。父上、今すぐ婚約の書類を作り、明日の朝一番で侯爵家に届けてください!」


ブフォッ


国王が、新しく淹れ直された紅茶を再び噴いた。

もちろん王妃は華麗に身を翻している。


「今から!? 今日の執務が今終わったところなのに? 明日用意すればいいだろう。一日や二日変わったところで……」

「ダメです! その間にリリーの気持ちが変わったら、どう責任を取ってくれるんですか!!」

「いやいや、そんな短時間で気持ちが変わるかもしれないなんて、お前は一体どういう承諾のさせ方をしたんだ!」

「どういうもこういうもありませんよ。一刻も早く契約を結ばないと!」

「余裕の無さが怖いから! 相手は侯爵家だぞ!?」


父子が揉め始めた中、紅茶を一口飲むと、母が鶴の一声を発した。


「あなた、今すぐ執務室へと戻るのです。本当にリリーちゃんが心変わりをしたら、この子が何をしでかすかわからないもの」


ウッと唸ると、国王は諦めたように席を立った。


「結局一口も飲めなかったな……」


悲し気に項垂れながらのそのそと部屋を出て行く父。

結局噴き出すだけで、紅茶を全く飲めなかったらしい。


国王が去ると、王妃はラインハルトに椅子を勧めた。

侍女が淹れてくれた紅茶を一気に飲み干したラインハルトは、照れたように言った。


「どうやら、緊張していたみたいです」


そんな息子に、王妃は母親らしい慈愛に満ちた微笑みを向けた。


「当然よ。一世一代の告白だったんでしょう? 私もリリーちゃんの反応が見たかったわ」

「ふふっ、最高にトンチンカンで可愛かったですよ。『影武者なんですね!?』とか言い出すし」

「ええっ? ラインハルト、あなたどんな告白をしたらそんな捉え方されるのよ?」

「いや、僕も悪かったところはあるとは思いますけど、リリーもなかなかぶっ飛んだ発想を……」



忙しくなった父を差し置いて、母と息子はリリーの反応を振り返り、サロンには笑い声が響いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ