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28話 既成事実とは?

ハルト様が離れてくれません……。


帰りの馬車の中、依然としてリリーはラインハルトに抱きつかれたままであった。

頭はなでなでされているし、頬はすりすりされている。


私ってば、自分で思っているよりもハルト様に好かれているのかしら?

でも理由が全く思い当たらないわ。


好き放題されるがままで、段々『なるようにな~れ』という投げやりな気持ちになっていたがーー。


「ああ、もうリリーを離したくない。やっぱり城に連れて帰っちゃおうかな。婚約者になるんだし。どうせなら、既成事実でも作っておきたいところだけど」


ラインハルトが不穏なことを呟いている。


既成事実?


リリーは慌ててラインハルトから距離を取ると、口を両手で押さえた。


「既成事実なんてダメです!!」


思わず強い口調で言ってしまったが、口を押えているせいで実際は「ふがっ、ふががが」みたいな意味不明な言葉になっていた。

そんなリリーを目を丸くしながら見ると、ラインハルトは再び笑い出した。


「あははは!! それって、口付け防止なのかな? もしかして既成事実が口付けだと思ったの?」


ラインハルトは愉快で堪らないと言わんばかりに笑っているが、リリーには意味がわからない。


今度は何がおかしかったのかしら?

口付けは結婚式で夫婦になる証として行われるものだから、てっきり既成事実は口付けのことかと思ったのだけれど。

小説でも最後は口付けしてハッピーエンドだし。


しかし、ラインハルトの様子を見ると、リリーはどうやら間違えていたらしい。

口付けされると思って過剰に反応してしまい、申し訳ない気持ちになってしまう。


「ごめんなさい、ハルト様。私、勘違いをしてしまって。恥ずかしい……」


リリーが赤くなった頬を押さえて俯くと、ラインハルトがさらっと言い放った。


「いや、勘違いでもないよ。口付けももちろんしたいし、というか、するつもりだし。それにもっと先のことも考えていただけだから」


え?

するの!?

それに、もっと先って?

もっと先って何なの!?


いよいよ沸騰しそうなほど熱く茹ったリリーの頬を撫でているラインハルトの瞳は、いつもの優しい王子様の瞳ではない気がした。

なんだか身の危険を感じてしまう。


「さて、いつまでもこうしていたいけど、さすがに帰してあげないとかな。とっくに屋敷に着いているしね」


リリーが意識を馬車に戻すと、確かに動いていない。

思えば大分前から止まっていた気もする。

閉まっているカーテンを少し開けて外を見ると、遠くに心配そうにこちらを窺う家族の姿が見えた。


大変!

王家の馬車が屋敷の前で止まったままだなんて、何があったのかと気が気でないに違いないわ。

ああ、お父様が飛び出そうとするたびに、お兄様に引っ張られてる……。

早く降りないと。


「うーん、侯爵に挨拶はしたいけど、とりあえず書類が先かな」


一緒に外を見ながらラインハルトがブツブツと独り言を言っている。


書類?

なんの?


「リリー、僕はこれから急いで戻って、父上と話さないといけないんだ。今日はこれで失礼するよ」

「あ、はい。送ってくださってありがとうございました」

「いや、僕がリリーと話したかったから」


そこまで言うと、ラインハルトは急に距離を詰め、リリーの耳に唇を近付けるようにして囁いた。


「リリー、いいかい? 僕と別れたら、侯爵に僕との婚約の話を受けたって言うんだよ? 約束してくれる?」


ラインハルトの声が直接注がれ、リリーはコクコクと頷くことしかできない。


「うん、大丈夫そうだね。では扉を開けてもらうとするか」


二人の距離を戻し、「開けて」とラインハルトが一声掛けると、ゆっくりと馬車の扉が開かれ、御者が頭を下げているのが見えた。


もしかして、ずっと待っててくれたのかしら?

申し訳ないし、ハルト様との会話を聞かれてたなら恥ずかしすぎる!!


ショックでヨロヨロと馬車から降りると、手を貸してくれているラインハルトから声がかかった。


「では、リリー。またね」


いつもの笑顔に戻ったラインハルトに、リリーも安心して笑顔で応える。


「ありがとうございました。お気を付けて」


馬車が立ち去るのをずっと見ているリリーを、馬車の中からラインハルトも見つめていた。


「早く帰って、父上に婚約の書類を作ってもらわないと。明日の朝一で侯爵家に届けないとね。リリーの気持ちが変わる前に……。逃がさないよ、リリー」


リリーが降りて寂しくなった馬車に、ラインハルトの呟きが響いていた。

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