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13話 王宮で木登り。

リリーはお城の庭園に向かって歩いている。

この国の第三王子、ラインハルトと二人でーー。


なんでこんなことになっているのかしら?

私はお父様におやつを届けに来ただけだったのに……。


緊張のあまり上手く足が進まないまま、リリーはラインハルトの後ろを懸命に付いていく。

すると、ご機嫌な様子のラインハルトがこちらを振り返った。


「リリーの好きな花は何かな? 今ちょうど盛りのバラがあるんだけど、今日のリリーのワンピースと同じ色なんだ。リリーとバラが並んだら、きっと素敵な光景だろうな」


そんな!

バラなんて恐れ多い!!


「わ、私は田舎育ちなので、野花や木に咲く花が好きです。うっかり踏んでしまっても丈夫ですし」


あら?

王子様相手に、お花を踏んづける話をしてしまったわ。

野蛮な娘だと呆れられているかも……。


チラッと王子を伺うと、少し目を丸くしていたが、すぐに笑い出した。


「あはは! 確かに手をかけた華やかなバラより、可憐で地にしっかりと根付いた野花のほうがリリーらしくて美しいね」


ラインハルトは朗らかに笑いながら、リリーを見つめる。

曇りのないその微笑みに、リリーは内心で感動していた。


すごいわ!

何を言っても甘い言葉で返ってくるなんて、小説の中の王子様と同じじゃない。

王子様って本当にみんなに優しいものなのね。


必ずしもそんなことは無いのだが、リリーが勝手に勘違いをしていたその時だった。

庭園の方角から、まだ小さな子供の泣き声が聴こえた。


「うゎーん、マイクがぁー。うぇーん」


すぐさまリリーとラインハルトが声の元へと駆け寄ると、そこには三歳くらいの男の子と、護衛らしき男性や、侍女達が輪になって集まっていた。


「ハリー、どうした?」


ラインハルトが声をかけた途端、男児は涙を流しながら王子の膝に抱きつき、まだたどたどしい口調で話し出す。


「ハルトお兄ちゃま、マイクがぁ……」


小さな手で指差した先にリリーが目を向けると、高い木の枝の上で子猫が鳴いている。

どうやら、子猫が下りられなくなってしまったみたいだ。


ラインハルトが話を聞くと、護衛の男性が木に登ろうとしたが高すぎて無理だった為、踏み台を取りにいこうとしたら、猫が今にも落ちそうで目が離せないとのことだった。

王子も枝の高さを確認し、助ける方法を考え、護衛に指示を出そうとしていたのだがーー。

隣でピョンピョン跳ね、腕を回している令嬢が視界に入ってきた。


「リリー? 君は何をしているのかな?」

「あ、私がちょっと登ってみようかと」


けろりと言ってのけるリリー。


「いやいやいや、伯爵令嬢が何を言っているの。危ないじゃないか」

「私、このくらいならいけると思うんですよね。今日のワンピース、動きやすくて良かったです」

「全然良くないよ! リリーは女の子なんだから!」

「でも、悠長なことは言っていられなさそうですし」


リリーが木を見上げると、さっきよりも子猫の体勢が危なっかしい。


「マイク……」


ハリーの涙に濡れた声を聴き、リリーは木に手をかけながら笑顔で彼に振り向いた。


「ハリー君、ちょっと待っててね。いま、マイクを連れてくるからね」


リリーの言葉に涙を引っ込めたハリーは、大きく頷くと応援するかのように拳を握った。


さて、木登りは領地にいた頃ぶりね。

王宮の木に登ったなんてバレたら、みんなに怒られちゃうわ。

後で口止めをお願いしなくちゃ。


なんて考えながら、リリーは器用に登り始めた。



「お姉ちゃん、頑張って!」


可愛い声援の中、リリーはスルスルと木に登っていく。

ラインハルトの心配そうな視線を背中に感じながらーー。


「すごいな……」


護衛の騎士から、思わずといった感嘆の声が上がった。

まさか自分が登れないほど高い木に、小柄な令嬢が臆することなくどんどん登っていくのだから、感心するしかない。

リリーは特に躊躇することもなく、子猫の手前まで辿り着いた。


「ミィー」


頼りなく鳴く子猫に、怖くないわよと囁きながらリリーが手のひらをゆっくり差し出せば、恐る恐るといった感じで子猫がその手に身体を乗せた。

『おおーーっ』という控えめな歓声と、はしゃぐ子供の声がリリーまで届いてくる。


良かった、ポケットの付いているワンピースを着てきて。


「ちょっとだけ我慢してね」


子猫を胴体だけポケットに入れて、潰さないように気を付けながら今度は下りていく。


「リリー、気を付けて! あと少し!」


下から王子の声が聴こえた時、安全に降りることだけを考え、それまで張りつめていたリリーの意識が一瞬逸れた。


ん?

もしかして下から見上げたら、スカートの中が丸見えだったり……する?

ひゃあ、王子様の前で私はなんてことを!


その余計な考え事がいけなかったのだろう。

リリーはズルッと足を滑らせた。


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