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田舎育ち令嬢、都会で愛される  作者: 櫻野くるみ


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10話 キラキラな王子様。

「またお会いできたわね」


確かにあの時、本屋で『またお会いしましょう』とは言われたけれど!!

まさか王妃様だったなんて……。


王宮でこんな形で再会するとは夢にも思っていなかったリリーは、動揺を隠せなかった。


まずいわ。

失礼のないようにと思っていたけれど、すでにやらかしてしまっている場合はどうしたらいいのかしら。

あの時は、確か恋愛小説の話と、酪農の話をしたのよね。

……うん、完全に話題の選択を誤っていたわ。


どんどん青ざめていくリリーの横で、父のウィリアムにもリリーの焦りが伝染したらしい。


「リリー? どうかした? もしかして、王妃様とお会いしたことがあるのかい?」


オロオロする父に、なんて答えたらいいのかリリーがあたふたしていると、王妃が楽しそうに種明かしを始めた。


「この前、町で偶然お会いして、お喋りをしたのよ。とても楽しい時間だったわ。ね、リリーちゃん?」

「は、はい……」

「そうでしたか! それはそれは」


王妃の言葉に、ウィリアムは納得したようで、嬉しそうにうんうん頷いている。


いえお父様、そんな単純なお話ではなく、私、不敬罪かもしれません……。

でもご挨拶はきちんとしなければ!


「王妃様、先日は大変失礼いたしました。スペンサー伯爵家長女、リリー・スペンサーと申します」


カーテシーをしながら、今更ではあるが自己紹介をしてみる。


「あら、そんな堅苦しい挨拶なんて必要ないわよ。私、もうリリーちゃんって呼んでしまっているし。ここは非公式の場ですし、この前のように自由にお話ししてちょうだい」


え……王妃様お相手に、王子様と恋愛をする小説の話をするのですか?

それは少し……いや、かなり微妙な……。


「私、またリリーちゃんに会えるのを楽しみにしていたのよ。あ、これ見てちょうだい。とても興味深かったわ」


視線をテーブルの上に移せば、そこにあった本はーー。


『初めての酪農』

『王子様との秘密の恋愛』


ひいぃ、王妃様、まさかあの時買われたのですか?

そして読まれたのですか?


「面白くて思わず買い足しちゃったわ」


なんと次に見せられたのは、『楽しい酪農 中級編』と、『続 王子様との秘密の恋愛』……。


レベルアップしちゃってますよ。

しかも、『続』って!!

続編出てたの知りませんでした。私にも貸してください……って、そうじゃなかったわ。


隣の父からは呆れたような、ジトっとした視線を感じたが、そっと顔を背けておく。


そして、とりあえず不敬罪は免れたみたいで良かった。王妃様って、お茶目な方だったのねーーなどと安心していたら、王妃がまたしても爆弾発言をした。


「私、本場の酪農が見てみたいわ。今度、領地を案内してくださる?」


お、王妃様がスペンサー領に??


これにはウィリアムが動揺し、なんとか王妃を思い止まらせようと必死になって言葉を紡ぎ始めた。


「いえいえ、あそこは牛以外何もないところですから。面白いところでもないですし、王妃様にはふさわしくないかと……」


もちろん父が本心で言っている訳ではないとわかっていたリリーだったが、領地を貶めるような物言いには腹が立ち、つい言い返してしまった。


「お父様! 確かに何もないところかもしれないですが、全てがあるところだと私は思っています!!」


そうリリーが言い切ったところで、別の声が会話に入ってきた。


「母上、お茶会ですか? 僕も加わってもいいですか?」


振り返ると、金髪がキラキラと輝く、眩いほど美しい風貌の男の子が立っていた。


まあっ、まるで王子様みたいだわ!

私と年は近そうだけれど、こんなに美しい男性がいるなんて。

しかも、いま母上って……?


そこだけが輝いているかのように、キラキラとした光を発している。

なんなら後光が差している気さえする。


リリーは現実離れした光景に、ただ見つめていることしか出来なかったが、ウィリアムは見知っているらしく、親しげに挨拶を始めた。


「これは、ラインハルト殿下。ご紹介します。私の娘のリリーです。リリー、ラインハルト殿下だ。第三王子でいらっしゃる」


本物の王子様!

まさか小説より本物の方が素敵だなんて。


リリーは伯爵令嬢でありながら自覚が足りない為、王子様はあくまで小説の中に出てくる憧れの登場人物であり、現実と照らし合わせて考えたことなどなかったのである。

実際の王子を初めて目の前にしたリリーは、感動と動揺と緊張で、気を失う寸前だった。


「リリーです。はじめまして」


簡単な挨拶が精一杯で、つい父の服の裾を握ってしまった。

そんなリリーを、同年代の男の子相手に人見知りをして、父を頼っていると勘違いしたらしい。

ウィリアムが嬉しそうにリリーの頭を撫でた。


一方、王妃は王妃で、自分の目の前で『王子と王子に憧れる娘の出会い』を演出することが出来てご満悦だった。


「僕はラインハルト。リリーって呼んでもいいかな?」


必死でコクコクと頷くリリー。


リリー以外が皆ニコニコと二人を見守る中、リリーは真っ赤な顔で俯くことしか出来なかった。


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