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君と過ごした1ヶ月

作者: わらうクジラ

固い土の感触がする。小さく呻き声を漏らす。

「……ここ……は……?」

漏れ出た声はかすれていて自分の声ではないみたいだ。

 『ここは?』と言う問いには誰も答えない。記憶があやふやで、靴もはいていない。

 草が伸び放題の土地だ。

「あそ……こにいけば……いいのかな……?」

遠くに霞んで見える街のシルエットを見る。

 あるく度に足が痛む。

「どうしたんだよ?」

そう、声が聞こえた。

「こんなところに……」

話しかけてきたのは男性。男性の手には袋。袋にはコンビニのマーク。

 取り上げるように袋を取り、貪り食った。

「腹減りすぎだろ。靴もねぇのかよ」

ほら、と差し出されたのはきっと後で食べようとしていたのだろうケーキとジュースだった。

 全部食べると、男性が、

「どうしたんだよ、君は。自殺か?」

「わか……んない……。なんでかここにいた……」

「ふーん。ま、いーや」

ほれ、と手を差し出される。それを掴む。どうせ行く当てなんてなんてないんだ。

 掴んだ手は大きく、暖かかった。

「おまえ、俺の友達設定な? んー、そうだな。幼稚園からの同級生。俺は中野 (とおる)。君は?」

「……わから……ない……」

「じゃ、矢野……矢野 ひ……(ひなた)! 陽な!」

「ひな……た……」

暖かい名前だ。気に入った。こんなにすぐに気に入る辺り、単純なのだろうか。


 勝手に食べたものには何にも言わなかった。優しさだ。

 彼の家で何日か過ごしていた。居候させて貰っているのだから、掃除、洗濯、料理……片っ端からやった。

 彼は帰ってくると何時も疲れ顔で、ご飯を食べると死んだように眠る。

 朝も早いのか、起きるといない。でも、置き手紙はある。今日は、『夕食ハンバーグがいい』だった。

 ハンバーグのたねを作って掃除をする。たまに思う。なんであそこに倒れていたのか。外傷はなかったよう……な……?

 自分のお昼を用意しに、買い物に行く。玉ねぎ、ニンジン、ブロッコリー、リンゴ、お茶、コーラ……。要るものを買い物かごにどんどんぶちこむ。

 部屋に戻ってリンゴをかじる。コーラを流し込む。そういえば今日は「半日だ」などと言っていたっけ。

 ガチャ、とドアが開き、彼が帰ってきた。

「おまえ、体に悪いぞ。これじゃ、大きくならないぞ。マナイタ」

彼が私の小さい胸を見て言う。セクハラだ。

「うっさい。……で? お昼は?」

「ハンバーグのたね作ってんだろ? 焼いてよ」

文句を言いたい気持ちを隠してフライパンを出し、たねをやく。

 頭の上にビックリマークが立った。かるーい意趣返しだ。

 ハンバーグの中にチーズを入れて焼く。

「チーズハンバーグか。うまそうだな」

彼はリビングに行きテレビをかける。チーズを入れる振りをして、アレを入れる。


 彼の前にハンバーグとご飯を置く。ハンバーグを一口かじる。激辛ハンバーグを。

「うまいな。これ」

鷹の爪を3本丸々入れてアタリの激辛青トオガラシを2本ほど入れたのに!?

「で……でしょ!?」

「おまえいつの間に俺が辛いの好きって知っていたの?」

そういえば、彼は辛いの好きっていつか言ってたっけ?

「は……はじめてご飯作ったとき、『からいので』とかいってたな~、て」

自分で言っていて思い出す。意趣返しになってない!!

「なあ、俺の彼女になんね?」

「……は?」

なかなか、ぬけた返事になってしまった。

「いや、彼女でもなんでもないのに同居は不味いだろ。小さいけど」

また、私の胸を見ている。取り敢えずビンタ。

「イテェ!」

「ま、いいけどさ」

顔が熱い。真っ赤になっている気がして、外を見る。

「じゃ、デート行くか」

また、ぬけた返事になってしまった。

 電車に揺られながら、荷物をもつ。買いすぎたか。

 まず、お皿などの日用品。洗剤。辛い調味料。服。

 調味料のお店に行ったときなんて、はしゃいで、はしゃいで。レジャーランドにつれていった子供みたいだった(こどもいないケド……)。

 やっとの思いでついた家はなんとも言えない達成感に満ちていた。

「おまえのさ。タレの唐揚げ。あれ辛くしてよ。今度さ」

二つ返事で了解した。


 それからも何度もデートを繰り返した。デパート、レジャーランド、水族館、動物園。

 行く毎に仲が深まっていく。()()()合って、1ヶ月たった。今日は日勤。夜ご飯の用意を使用と台所に立つ。

 気の抜けたいつか開けた古いコーラで喉を癒す。

 自分のお昼は何時もリンゴやらなんやらだが、今日は野菜炒めを作る。いつか言っていた辛い唐揚げと。

 出来ていただきます、しようとしたとき、スマホが騒ぎだした。

 彼のスマホからだ。

「あっ、同居人ですか。彼、事故に─────」

は……? 言葉が入ってこない。何を言っているんだろう。詐欺か?

「後で、第二病院に来てもらって─────」

タクシーを呼ぼうか迷ったが、来るのが遅くなるので断念した。走った。ここまで走ったのは初めてだ。

 つく頃には息はあがって、喉がヒューヒューなって、心臓がどくどくなって、足がもげそうになるくらい痛かった。

「た……中野です……」

受付でそういって病室に向かう。

 『中野』プレートの上には『集中治療室』の文字。

 何時間たったのだろうか。医者がでてきた。

「中野さん。こちらへ」

そこには肺も心臓も動くのを止めた彼が寝ていた。

 膝がおれて、涙が吹き出る。

「なんでっ……? ねぇ、なんで? 言ってた辛い唐揚げ作ったよ。食べてよ。大変だったんだよ。徹が食べないと意味ないじゃん。ねぇ、ねぇ!」

この涙の止めかたは知らない。せっかく落ち着いた喉がまたなって。涙腺は壊れて。鼻水が垂れて。嗚咽を漏らして。

 彼は知らない間に息を止めていた。


 彼の事が忘れられない。記憶の片隅をずっと占領している。通夜も三回忌も終わったのに。

 死んだように眠って、死んでるように起きて、カップラーメンと炭酸を飲んで、また眠る。

 1日を乗り越えても1日がやってくる。それの繰り返し。毎回同じ景色。それでも季節はめぐる。いつの間にか雪が積もって、溶けて、桜咲いて、葉が茂って、紅葉して、雪が降る。

 ある日、SNSを開くと、『記憶消します』の文字。どうせ生きていたって意味もない。殺してくれるなら、殺してほしい。

 怪しい建物の前に居る。蔓でおおわれていて、いかにも魔女って感じ。でてきた老婆も魔女だ。靴を脱いで中にはいる。

「記憶から消したい? じゃ、ワタシの出番だねぇ。このクスリ。飲みな」

ひったくるように飲み干す。

「ばっ!」

目眩がしてきた。気絶する。

____________

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

________

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

____

 ̄ ̄ ̄ ̄

固い土の感触がする。小さく呻き声を漏らした。


おまけ


引き出しの中からこんなのがでてきた。


“陽へ


あの日、食べ物をもって君のところへ行ったよね。分かっているかもしれないけど、君の食べ物だったんだ。だって、君のところへ行ってすぐ戻っただろ?

 『陽』も元々の君の名前、『光莉(ひかり)』をもとにして考えたからね。そういえば隣には『渡辺 華』ちゃん。僕のお兄ちゃん『慶太』なんだ。

 あったあとの飲み会。たのしかったなぁ。君はゲームが下手くそなくせに難しいゲームを初めて、開始30秒でゲームオーバー。

 まあ、いいや。気になってるよね。君と僕の関係性。なんだと思う? 当ててみてよ。

 あとさ。下の文も読んどいて。


きのうの夕飯は美味しかった。き

ょうみたいなごはんをまた頼むよ

(うし)の肉のステーキも好き。

ダンスの練習もガンバ。応援して

いるよ。


 分かりやすいかな? ()()()()()()()()()()()。”










 どうでしたか。短編第二作と言うことで、考えていたのですが、『夜に命を捨てる』の世界観が自分で言うのもなんですが、好きで第二作を書ければな、と思っていたのでよかったです。ループする小説になりました。2回目を読むと意味が分かると思います。

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