怖がり彼氏のホラーな夜、眠れないから傍にいて
興味を持って下さったありがとうございます。少しでも読んで下さった方の心に残れば嬉しいです。
怖がりだけど怖い話に興味がある人って、こんな感じですよね。
草木も眠る丑三つ時。
自室に戻ったはずの敏志が、真っ青な顔をしながら千枝子の寝室にやって来た。
敏志は千枝子のルームメイトの一人である。
他にも二人ルームメイトがいるが、その日、二人はそれぞれ泊まりで出掛けており、二人きりの夜だった。
幽霊話などが大好きな千枝子は、敏志が興味なさげに振る舞うのを無視して、たまたまテレビでやっていた心霊特集を見ていた。
敏志はその間、ずっとスマホでゲームをしていた様な気がする。
嫌だと思っていながらも、同じ部屋にいるとどうしても耳に入ってしまうのか、心霊特集が始まり時間が経つにつれ、敏志は何気なく千枝子の近くに移動して来ていた。
鬱陶しく思いながらも、テレビに夢中になり二時間。
テレビが終わり、適当な時間を過ごした千枝子が、そろそろ寝ようかと自室に戻り、布団に入ると、敏志が部屋にやって来たのだ。
「…何なの?こんな時間に」
自分の枕と布団を抱えている敏志を白い目で見つめると、敏志は愛想笑いを千枝子に向ける。
「いやほら、さっきテレビで怖い話やってたじゃん?お前が怖くて一人で寝られねーんじゃねぇかと思ってさ」
「……」
「いや、別に俺は怖い訳じゃないんだけど?こんな時に傍にいてやるのも、男である俺の役目だし?」
「一人で寝ろ」
動揺しながらまくし立てる敏志に冷たい視線を向けると、千枝子は布団に潜り込む。
すると、敏志は慌てて部屋の中に入り、千枝子の布団の隣に自分の布団を敷き始めた。
「敏志…」
「遠慮すんなよ、一緒に寝てやるから。あ、電気消すなよ?別に怖い訳じゃなくて、何かあった時に暗いと困るだろ?」
「怖いなら怖いと素直に…」
「こここ…怖いわけじゃねーって言ってんだろ!!」
「どもりすぎだろ」
同性のルームメイトがいたなら、逃げ込む場所はそっちの部屋だったのだろうが、今夜は一人しかいない為、恥を忍んで千枝子の部屋へやって来たのだろう。
全く情けない話だが、生まれたての小鹿の様に震える敏志を見ると、無下には追い返せない。
諦めて再び布団に潜り込むと、敏志を無視して目を閉じる。
明るいと眠りにくいが、消せばおそらく敏志がうるさいだろう。
そう思って電気を点けたままにしてやったのだが、その意に反し、敏志は明るいままでも怖いのか、落ち着かなそうに何度も寝返りを打っている。
「千枝子、なんか寒くねーか?」
「……」
「なぁ、トイレ行きたいだろ?」
「……」
「…起きてる?」
「……」
「起きてんだろ?なぁ、オイってば」
「…さい」
「やっぱ起きてんじゃねーか」
「…るさいって言ってんの!!何時だと思ってんのよ!眠いのよ!!寝かせてよ!外に叩き出すわよ!!」
我慢の限界を迎え、ぶち切れた千枝子は、枕を投げ付けると、そのまま枕を敏志の顔に押し付けた。
「ぶは!てめえ!息が出来ねぇって…むご…!苦し…」
「人の睡眠を邪魔するなッ!!」
「ば…馬鹿…!やめ…、むぐ…息が…ちょ…死んじゃうって…!」
「馬鹿はどっちだ!死んで詫びろ!!」
「わ…わかったわかった!大人しくするから!」
結局、力付くで大人しくさせた敏志を睨むと、立ち上がって部屋の電気を消す。
最後の気遣いとして、小さな豆電球だけを残すと、千枝子は再び布団にもぐり込んだ。
気が付くと、敏志の布団はさらに千枝子の布団へと近付いており、千枝子は溜め息混じりに身体の体勢を敏志に向けた。
「…ぴったり布団をくっつけて寝るなんて夫婦みたいね」
嫌味を込めてそう言うが、当の敏志は気にしていない様にあくびをする。
「…ったく。命の危険を感じて、恐怖なんざどこか消えちまったぜ」
「あ、やっぱり怖かったんだ?」
「ば…ッ!何言っ…怖くねーよ!!馬鹿かお前!馬鹿だろ!!」
(なんかもう…、見てて哀れみすら感じる焦りっぷりだな)
このまま動揺している敏志を見ているのも面白いが、それでは朝になるまで眠れない。
明日は土日明けで仕事が多く、忙しい一日になる予定だった。
寝不足では仕事にならない。
時計を見れば、時刻はとうに午前三時を過ぎていた。
千枝子は諦めた様にもう一度溜め息を吐くと、布団の中で仰臥し、銀時に手を伸ばした。
「…何だよ、やっぱり怖かったのはお前じゃねーか。しょうがねーな、手ぇ握ってて欲しいのか?」
千枝子の哀れみなど気付かず、嬉しそうにそう言うと、敏志は布団から手を出して千枝子の手を握って来る。
「手…汗ばんでる、キモい」
「ちょっとちょっと、変な事言わないでくれる?これは怖くて汗ばんでるんじゃねえぞ?風呂に入ったからだ」
汗ばんでる割には冷たい手のひらは、明らかに風呂上がりではない事を物語っているが、ここでまたそう言えば、またうるさくなるだろう。
気付かないふりをして目を閉じると、千枝子は敏志の手を強く握りしめた。
すると安心したのか、敏志も息を整えて目を閉じる。
その後、手を離すと暴れるが、手を握ると大人しくなる敏志と眠りについた千枝子は、翌日その話をルームメイトの皆んなに話し、敏志に泣きながら怒られたのは別の話である。
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