幼馴染に恋愛相談された
幼馴染のツカサから『相談したいことがある』と言われ、呼び出された。
ツカサとは小・中までは毎日のようにつるんでいたが、高校は別になったので昔ほどつるむ機会は減った。今では月に何度か遊ぶくらいだ。
ツカサが持ちかけてくる相談ってのは、大抵がどうにもならない事ばかり。話を聞く位しか出来ない。けれども『些細な事でも聞いてくれるから、それだけでも嬉しい』らしいので、多少は役に立っているのだろう。
指定された駅前のカフェに出向いてみると、ツカサは窓際カウンターに座っていて外を眺めている。クッソカワイイ。ぱっと見はボーイッシュな美少女なのだが、正真正銘の男だ。女装している訳では無いのに何を着てもそう見えてしまう。制服のスラックスでさえも『多様性だね』って言われて間違われてしまうのだ。本人もそれで苦労しているようではあるが。
しかし、先日対戦ゲームをやりにツカサん家へ行ったばかりなのに、なぜ今日は駅前のカフェなのか。
カフェのカウンターでホットカフェオレを受け取り、ツカサのいる席へ向かった。
「待った?」
こちらに気がついた司は、両手で持ったコーヒーカップを口から離した。
「さっき来たとこ」
「で、相談って?」
窓際カウンターのツカサの隣に座った。
カフェオレと一緒に買ったパウンドケーキの袋を開ける。するとツカサの手が伸びてきて、パウンドケーキを奪われた。半分戻ってきた。残り半分はツカサの口の中だ。
「ンンァし先輩なんだけど」
「誰だよ。口の中が無くなってから喋れ」
「高橋先輩」
高橋先輩は、中学時代の2コ上の先輩。今は大学生で、ツカサん家のお向いに住んでいる。ツカサん家へ遊びに行くとしょっちゅう部屋で鉢合わせして、その都度怪訝そうな顔をされる。睨まれた事もあった。先日も対戦ゲーム中に乱入してきた。あまり印象は良くはない。
「高橋先輩が何かしたの?あ、怪しい情報教材でも買えってか?」
「そうじゃないけど、その……」
ツカサは両手で持ったコーヒーカップの中を、覗き込んでいるかのように俯いている。煮え切らない感じだが、待ってやるしか無い。
「告られた。真兄……じゃなくって高橋先輩に」
微かに記憶がある。確かに小学生の頃、ツカサは高橋先輩の事を真兄と呼んでいた。真が正しい名前のはずだが。一人っ子のツカサにとって近所の年上幼馴染は兄貴的存在なのだろう。ツカサの部屋で『真兄』って甘えてた姿が思い起こされた。中学から先輩呼びになったので成長したなと思っていたが、二人の間では変わってなかった事が伺い知れる。
「え! ……恋愛的な?」
「うん」
ツカサは両手で持ったコーヒーカップの中を今も覗き込んでいる。心なしか頬が赤いようにも見える。
高橋先輩の気持ちはおおよそ想像がつく。
小さい時から弟的な存在、もしくは妹的な存在だったツカサ。実の家族では無いので、永続的な関係では無い事を認識していた。
それから何かをきっかけに恋愛的な思いであることに気が付いたが、男✕男の関係なので思いを告げる事を躊躇っていた。世間では多様性が認めらているものの、実際にはまだ風当たりは厳しい。しかし、ここにきて我慢できなくなったか、他人に奪われる危険性を感じたってところか。
「そっか。返事したの?」
「困ってる」
優しい性格のツカサからしてみれば、兄貴と慕っていた人からの恋愛的な告白は悩ましいものだろう。ツカサは知る限り恋愛面ではノーマルだ。高橋先輩自身も、近くにいたならそれはよく知ってるはずだ。
「好意を受け入れられないけど傷付けたくない、関係も壊したくないってことかな」
「うん」
それは男✕男とか男✕女とか女✕女に関係なくあることだ。けれどもこれは二人の関係性の問題で、こちらが何かできるものではない。
「ツカサが慕ってるくらい信頼の置ける人なら、思っている事を全て相手に言えばいいよ。きっとわかってくれるし、それで関係は壊れないよ。直後は少し……あるかもだけど」
「そう……かな?」
「どうしても心配なら、ここは神頼みもアリかもね。お悩み解決日本一番の最強スポットの熱川神社へお参りに行くとか。叶う叶わないは関係なく、ちょっとしたパワースポットへの小旅行で気分を変える程度に思えばいいかもね」
熱川神社のくだりは、知り合いの受け売りなのだが。
「うん、考えとく」
それから暫く二人で他愛の無い雑談をして、カフェラテやバジルソースの効いたジェノべサンドを追加注文して、お腹がたぷんたぷんになるくらい詰め込んで、日がどっぷり暮れてから別れた。
ツカサとの時間は自分にとっても特別なものだと思う。高橋先輩もきっと同じような気持ちなのだろう。
ツカサと高橋先輩、どんなカタチであっても良い結果になればいいなと思った。高橋先輩の印象は良くはないが、人を見る目のあるツカサが慕うくらいなのだから。
幾日か過ぎて、ツカサから『報告したいことがある』と言われ、呼び出された。
先日と同じ駅前のカフェに出向いてみると、やはり先日と同じ窓際カウンターにツカサが座っていて外を眺めている。相変わらずクッソカワイイ。こちらに気がついたのか笑顔で手を振っている。いつにも増して輝いてやがる。
カフェのカウンターでホットカフェオレとミルクレープを受け取り、ツカサのいる席へ向かった。
「ご機嫌だな。聞かせろよ」
ツカサは、窓際カウンターテーブルに置いてあるコーヒーカップを両手で掴む。手の甲まである長袖ニットから覗く白くて細い指は、本当に男なのかと疑念すら持つ。ネイルを施せば完璧じゃねぇか。
ツカサは、一人で熱川神社に行った。そこで告白の返事をする勇気を貰った。その後、高橋先輩に思いの全てを話したそうだ。高橋先輩はちゃんと話を聞いてくれた。その時は受け入れたのかどうなのかよくはわからない様子だったそうだ。
「そしたらさ、『俺も熱川神社に行きたいから付き合ってくれ』って言われてさ、車に乗せられて熱川神社に行ったんだ。一日に二回往復だよ」
それは神様も驚くかもな。
「着いた時には夜中だったんだけど、境内まで行けて、二人でお祈りしたんだ。そしたらさ」
勿体振っている。早う喋れや。
「びっくりしたんだけど、女になったんだ」
「ついにか!」
声に出してしまった。ツカサが女になっただと?成る程道理で輝いてやがったか。それは正常進化と言うものだ。
「ついにかって何だよ。あ、ボクじゃないよ。女になったのは高橋先輩の方」
「そっちかよ!」
想定外過ぎた。え、ちょっと待って。高橋先輩が女って、どんな感じになったんだろう。ちょっと興味出た。
「そうなるとさ、わだかまりが無くなったもんだから、付き合うことになったんだ」
「ええ、ああ、うん。お、おめでとう」
ごめん、展開に追いついてない気がする。
「これも熱川神社の事を教えてくれたユリッペのお陰だよ」
キラーパスだったのか。いやそもそもキラーパスって出した方が死ぬんだっけ?
「ええ……、てかいつまでユリッペって言うんだよ。恥ずかしいからユリって言えつってんじゃん」
ツカサは彼女持ちになった。そうすっと世間的には浮気になってしまうので、ツカサとは遊べなくなるし、会うこともままならなくなるのかも。寂しい気持ちがずーんときた。それからツカサん家で見た高橋先輩の怪訝そうな顔の意味がなんとなく理解できた気がした。あれはこっちを警戒していた顔だったんだ。
男女の友情だって認めてくれたっていいじゃん。
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