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歌唄い姫は孤独な大公子を愛しむ  作者: 花屋技 千都世
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序章

初めて書く小説。

n番煎じ。自分向け。


「さぁ、我が忠実なる天使…未来を…

 (とこ)しえの未来を視せてくれ」


 積年の悩みがすっかり解決したような朗らかな口調だった。しかし喉奥から絞り出したような音量と(しゃが)れた調子は声の主が決して若者ではないことを証明している。


 老爺(ろうや)に応えるように微かな衣擦(きぬず)れが後に続く。金属が擦れ合う嫌な音もすかさず闇の中を駆け回った。


「―――どうした、まだ声が出せないのか…?」

 まるで大罪人を糾弾するかのような響きを持って老爺は闇の中に詰め寄る。突然人口樹が暖かみを帯びた光を灯した。男の激情に促される様に光量が増し、暗闇は身を縮めざるを得なくなった。


 支配権を握った光が老爺の全貌を嬉々と晒した。

干乾びたように水気の無い皮膚から、今にも飛び出さんばかりに出っ張る頬骨が痛々しい。王族特有の神秘的なアッシュモーヴの瞳も濁って落ち窪み、一生その場に居座りそうな隈が不健康さをより増長させている。髪も目も皮膚も、オアシスを求めて彷徨(さまよ)う旅人のほうがまだマシに見える程度には乾いてみずみずしさが無い。

 身体の線も異様に細く、(まと)う絹衣装は上品さを示して人口樹の光をはね返しているが、骸骨が服を着て歩いているような不気味な印象を拭い去れはしなかった。

より正確に表現するなら、老爺はほとんど死者と変わらないのだ。


 ただ一点を除いて。


 無垢な子どもが新しいおもちゃを目の前にした時のような純粋さ含んだ瞳。爛々と輝いて次々と感情を生み出し不自然に募らせている。


 期待と羨望(せんぼう)嫉妬(しっと)執着(しゅうちゃく)―――――。


 それだけが彼と死者を分け隔てている唯一の違い。生命(いのち)が、魂がまだ生きているのだと叫んでいる証だった。



「さぁ、早く………さあ早く!!!」

 唾を飛ばしながら老爺は豪奢な金細工が美しい鉄格子に詰め寄った。もはや取り繕えないほどの中毒症状が老爺の干乾びた指先から震えをもたらす。人口樹の光量がいっそう強くなって、罪人を追い立てる騎士のように暗闇の居場所を奪っていく。




「――――――親愛なる王陛下、あなた様に、

 安寧たる導きを捧げましょう」




 瞬く間に老爺の瞳から揺らぎが無くなり、指先から全身を侵食し始めていた震えも、波が引くように収まっていく。ひび割れた唇から安定した呼気が一定間隔にこぼれ落ち、頬骨に手を伸ばすように笑み崩れている。ホールを燃やし尽くすほどの勢いで増し続けた光も今では蛍火と同じ程度まで落ち着いている。



「ああ…、素晴らしい…

 なんて…素晴らしいのだろう…」

恍惚として妄執に囚われた憐れな老人の囁きが歪な空間を更に歪ませ(ひね)り潰していく。

 後に残ったのは剥き出しにされた感情が交差する混沌だけだった。



――――――誰か。

――――――人間でも悪魔でも、誰でも良いから。

――――――この夜も月も、何もかもから。



連れ出して。




 雫が一筋、音もなくこぼれ落ちた。


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