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脳内ヒーロー洋二  作者: 井田雷左
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第七章 春、藍、十七歳 10



10



それは藍が中学三年生、15歳の時のことだった。

寒い1月のこと、表のチャイムではなく、ドアがガンガンと叩かれていた。

お父さんだ!と直ぐに二階の藍は気づいた。

階段を下りていく藍。

廊下にはカーディガンをひっかけた母親がたたずんでいる。

「ごめんね、藍」

「いいよ、お母さんは寝ていて」

「申し訳ない。これだけはちょっと、ね」

父・延彦は付き合い程度で酒を飲むし、家でも缶ビールの一本くらいは開ける。

でもどれも軽いものだった。

だが年に一、二回だけ、物凄く酔い潰れて帰ってくる。

過去数度、酔って駅のホームで駅員にたたき起こされたこともある。

たまにそういうふうになる父に対して、母は冷淡だった。

いや、ともかく酔漢というものが大っ嫌いで、倫と類の両親は一滴飲まないので、酒でウサを晴らす文化がなかったため、無礼講だの、泥酔だのを反社会的存在のように認識していた。

母親に言わせると、あの酔漢の匂いがもうアレルギーのようにダメなのだ。

だから、身体が大きくなると酔った父親の介抱は藍の仕事になっていた。

そのうち昭にやってもらおうとしていたが、昭も母方の血を引いたのか、そんなことはしなかった。

「お父さん、酔ってもいいからさ、静かにしてね。近所の人の迷惑だよ」

「おお、ランか! お母さんと昭より、オレはいちばんこの家族でおまえが好きだ、大好きだ!」

ああ、こういうのを母は蛇蝎のごとく嫌うのだな、と藍は思った。

「何で、こんなに酔うの? めつらしいじゃない」

藍としては合いの手のように話しかけただけだった。

キッチンから水の入ったペットボトルを持って帰ってきた時にはもうそんな質問をしたのも忘れていた。「それはだねー、お父さんのライバルがお父さんより先に副部長になったからだよ。今夜はそれのお祝いだったんだ」

「まさか、その宴会でライバルさんとケンカした、とか」

「いやー、それはないよ。そこは真っ当で通っている麻井さん、だ。独りで吞み直していたら、こんなことになったんだ」

「さすが、押し堪える男性はステキだよ」

「そうだろう、でも抜かされてばかりさ。弟さ、最近自分の会社に来ないかって、言うんだ。誰が行くか!?だ。そうだろう?」

―またか。

藍は思った。

次に今までどれだけ弟と比べられて育ってきたか、両親ともインテリで自分だけその雰囲気に馴染めなかったとか、死ぬほど練習したのにサッカーでレギュラーになれなかった青春時代を語るのは毎度のことだった。

酒臭い父と母は寝たがらないので、藍は居間に延彦を引きづっていった。

―こういう時はカップではなく、袋だな。

調理をする藍の背中に未だ延彦は過去の未練を投げている。

「でも、お父さんは体力あるし、それはずーっと体育会系でやってきたからでしょうし、叔父さんと違って実家にお金の無心しないんだから、かっこいい人生だと思うよ」

「ムリに元気づけなくてもいいよ」

延彦の前に卵を落としたラーメン丼を置く。

「めしあがれ」

「ほー、ランは良い子だな」

延彦は塩分を欲していたので、ラーメンを一心不乱にすすった。

「お父さん、単純にさ、養ってくれてる・学校通わせてもらっているだけじゃなくて、自転車の乗り方も泳ぎ方も教えてもらったし、私が一級に合格した時は豪勢な中華料理食べさせてくれたし、ムリに慰めているワケじゃないよ」

「うん、こんな酔ってすまないことをした」

「独りでどんな店行ったの?」

「ホルモンの煮込みで焼酎飲んでいた」

「それ、美味いの?」

「ああ、遠方から客が来るくらい美味い。ロースやカルビでなく、肉は内蔵だ」

藍は家族で焼肉屋に行って、内蔵ばかり食べる少女だった。

「それは、食べてみたい」

「ああ、串もタンやハツも美味い。なんか、藍は妙な食べ物好きだから、二十歳になったら、エスコートするよ」

「それいいねぇ、お父さん、気位が高くて会社の人や奥さんにも本音話せないんだよ。私が聴くよ、二十歳になったら」

「ランは、早く酒を飲んで、珍味を食べたいだけじゃあないの?」

「そうかもね」

二人して笑い合った。

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