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脳内ヒーロー洋二  作者: 井田雷左
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第七章 春、藍、十七歳 7



    7



「うん、子どもながらに憶えている。あの時の運転手さん、この子どもはいつ吐くのだろうって、ずっと気にしていて、怖かった」

「お父さん、飲みに行くとさ、同僚が飲み過ぎてタクシーで運ぶと、車内で吐いちゃうとしたら、その後は臭さで当分お客さん乗せられないから、一万円取られるってのも聴いていたし。あ、一万円が惜しいワケじゃあないんだ」

「知っているよ。あなたは家族のことをよく考えていてくれた。でも、それとこれとは別。あなたは何回も反省もしないで、同じ過ちを繰り返した」

「じゃあ、僕と一緒にいて、苦痛だったんだ、やっぱり」

「ゲロって臭くて、気持ち悪いじゃない、しかもそれが自分のカラダから出てくる。なのに世の中でいちばん嫌いなものだった、当時は。それを手で受けてくれて、私のお父さんはなんてステキな男性だろう、と思ったよ」

「うん」

「でも、これもはっきり覚えている。私が小4の頃、婚約者のいる女性と肉体関係を持って、その婚約者の両親に見つかって、夫婦二人で謝りに行ったとか、私はこれ読むまで知らなかった」

洋二の持ってきたA4用紙40枚だ。

「ああ、あの時は本当にお母さんにはすまないことをした。奥さんも連れて来ないと会社の方にバラすと言われたんだ」

「それで慰謝料を、二百万置いていった」

「すごいな、そこまでよく調べた」

洋二がその弁護士事務所のPCに潜入しただけである。

「これまだ半分だと思うんだよね。調査に日数かけていないし、ネットやPC内の調査が主だし。でも、とりあえず聴いておく。なんで他所の女とセックスすることにここまで血眼上げる人生を送ったの?」

藍は躊躇せずに、父親に〈セックス〉と云った。

「それは娘には聴かせられないことだ」

「男の甲斐性、仕事のプレッシャー、家族にも秘密を持っていたい、違うね。あなたはコンプレックスの塊だ。両親が二人とも国立出てるが自分は私大、弟は独立してとっと起業した成功者、家族の中で自分だけは負け組。サッカーを中高懸命にやっていたがレギュラーになれたことは一度もない。サッカーに打ち込んでいたから世慣れておらず、世界が理解できなかった。狙えると思った女が自分にカラダ許す時だけ、そのコンプレックスが解消された」

「どうして、それを」

延彦の顔は引きつっていた。

「その最初の言いなりが、私の母と伯母の姉妹らしいね。恋愛もセックスも楽しんだことないんだよ。全部、コンプレックスの解消に過ぎないから。家族をちゃんとやっていくのも、そう。ダメな僕ちゃんも、一戸建て立てて、子ども二人進学させて、それなりに良い思い出も作ってやって、それもコンプレックスの解消なだけだよ」

「あ、あ」

延彦は言葉にならぬ言葉を発した。

「言いたいことがあるならば、聴くよ。傍から見れば、会社では課長クラスで、順風満帆に見えるが、同期や後輩にかなり抜かされているじゃない? だから家族と不倫を両立させている自分はスゴい、で自分の精神状態を保ってきた病人だ。あなたに必要なのはセックスじゃなくて、心のカウンセリングだったんだよ」

延彦は視線を下に落としている。

こういう表情を昭に見た時が一度あったのを藍は思い出した。

―ああ、コレ、昭がおねしょした時に、家族みんなにバレた時の表情だ。

やはり、親子なんだな、と藍は思った。

「いったい、誰に会って、何を聴いたんだ。だとしてもそれはそんなに悪いことか」

「両立できてないよね。さっきの二百万の件がまさにそれ! 自分を騙し騙しやるだけならばまだしも、妻に『何も見ていないこと、何もしらないこと、何も嗅いでいないこと、これらを徹してくれ』と暗示かけなきゃいけないんて。どうしても奥さん以外とやりたかったら、出世して社長になってから、愛人つくるべきだったんだよ。愛人も私は許す気ないけど、少なくともそれは虐待ではない!」

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