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脳内ヒーロー洋二  作者: 井田雷左
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第六章 バカが義体でやってくる 1



    1



兼崎家は大田区にあった。

今から江野で面白映像を作ろうとしているここの家の長男は、現在18時、今まさに出かけようとしているところだ。

部室でダラダラと仲間内でダベっていればよかったのだが、それは今朝も昼もやったので、飽きた。

兼崎くんは兼崎くんで、仲間を特に好きとかいうのではなかった。

1960年代の学生は革命に、1970年代のそれは映画や同人誌制作に明け暮れたと聴くが、2020年代、50年後、60年後のオレたちは何に明け暮れよ、というのか、と兼崎くんは思っていた。

何か楽しいことをしたいと思っても、それはTVのバラエティ番組しかお手本がなく、彼の実家がそういう仕事の手伝いをしていたので、直接知るものであったが、それが本当にに楽しいことなのか、実は兼崎くんにもよく判らなかった。

ただ人がついてきたのだ。

それが理由であろう。

何か始めたら、友達ができたのだ。

今夜来る5人は動画アップを始めて、学外から自分にコンタクトを取ってきた男たちである。

自分の実家のコネと江野というスケープゴートが目当てなのはよく判る。

だがこれは兼崎君の意識に上がっていないが、彼はもう当初の面白いことをするという目的すら失っていた。

スマホではなく、自分のお小遣いでカメラを購入し、PC内で編集をするために勉強した頃の初心はなく、ズバリ云えば、取り巻きがいる状態に安住し、他人と違うことをやっている自分をキープしている存在に過ぎない。

「もう止めてしまってもいいんだよな」

これは先程、洋二がクラスのディスプレイに兼崎たちが制作した動画を投射し、それを見せないように努力した、兼崎の取り巻きの一人、林田に向かって云った台詞。

「イジメの真似事して、パリピ予備軍みたいなこの活動をやめるってことですかい?」

「それね、だけど、止めるきっかけがない。やめたいならやめればいいだけなのに」

「これだけ楽しくて、盛り上がれるならば、やめられないでしょう」

ああ、コイツは未だコレが楽しいのか、と兼崎くんは思った。

家にいったん戻ったワケはこのあたりにあったようだ。

「ジュニア、お久しぶりです」

その発声者は、専務だった。

自宅に来るのは珍しく、少し兼崎くんは驚いたが、それでも「どうも」とだけ返し、専務は応接室の駆け込んだ。

祖父の時代にイベント運営会社と設立し、父が入社した時、タレントのマネジメントを始め、今ではそちらの方がメインとなっているのは、父がマネジメントでタダの二世と思われたくないと始めた事業を巧く回したこの専務のおかげであった。

祖父と父を繋ぎ、父の代に移ってもその忠犬ぶりは高校生の兼崎君が見ても驚くべきものがあった。

その専務が血相変えて会長宅に来るとは何事であろう。

応接室に意識を集中させると、単語だけは拾える。


「株主」

「買占め」

「乗っ取り」

「個人投資家」

「ゴールデンパラシュート」

「仮想通貨」

「ホワイトナイト」

「企業価値」

「プロキシーファイト」

「ラオ商会」


あまりよく判らなかったが、その声質から並々ならぬものを感じたので、兼崎くんはいそいそと玄関を目指した。

「信長!どこに行く!?」

父の声だ。

ジャンパー姿の息子を見て、そう云ったのだ。

信長は兼崎くんの、父がつけた名だ。

「学校で友達と会うんだよ」

「勉強しろよ、勉強するんだ。大学には実力で行けるようにな」

「判っているよ。それより会社、大丈夫なの?」

「親に逆らうのか!」

父の声に専務が走り寄り、背中から羽交い締めにして、応接室に連れ込んでいった。

応接室からは未だ父親のわめく声が聴こえる。

専務は今年、65歳になろうというのに、泣き声になっている。

イジメの首謀者である彼にも家や親は大事だったから、もっと親身になってみようかと思うところはあったが、やはり未だ子どもであったのだろう、面倒事に巻き込まれるより、ちやほやしてくれる仲間の下に向かう方が得策だと考え、スニーカーを履き、出かけた。

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