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脳内ヒーロー洋二  作者: 井田雷左
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第一章 転落と吸収と突進 4



    4



洋二は武道の心得もなかったし、ケンカをしたこともなかった。

だがもしあったとしても、このような見ず知らずの女性にナイフで刺されるというイレギュラーな事態に対処できるものであろうか。

オチからいうと洋二はある意味最悪な状況にいた。

倒れた時に、洋二が下に、ブルゾン姿の女性が上にそれぞれ倒れたのだが、ナイフは独自で地面に落ちることなく、いまだブルゾン姿の女性に握られたままだったこともあり、深々と洋二に腹に突き刺さってしまった。

つまり女性は図らずも、自らの体重をナイフの上にかけてしまった。

この強烈な痛みを洋二は正確に認識できない程で、その部分だけ燃え尽きてしまった、あるいはそこだけチェンソーでえぐり取られてしまったように感じていた。

ブルゾン姿の女性は洋二と藍から姿を消した。

猛烈な痛みを感じた洋二によって蹴られたからだ。

蹴った反動。

そして最悪には更に先があった。

洋二は蹴った反動で、後方につんのめり、橋の下に、それは5メートル下に落下したのだ。

ここいらの水深は10㎝もない。

今までの叙述は、この世のもので、これからも続くのだが、洋二には違う世界が現れていた。

落下中に、仰向けで落ちていくため、彼は空を仰ぐかたちになったが、その天空に、1冊の本を見かけた。

本、と彼は認識したが、装丁があたかも大理石でできているようで、自分が人生で見たきた中で、いちばん書籍に近いからそう思っただけだったのかもしれない。

その本らしきものは、意外というか当然のことのようにか、ゆっくりと頁が一枚一枚開いていく。

次々の頁が開かれていく。

ちょうどその本の真ん中にきた頃、頁の表面が洋二の側にその頁を晒した。

その見開きには大きな〈目〉があった。

人間のものより大きく、A3くらいが一頁だとするとそれが見開きだから倍の大きさ、不思議なことに印刷されたような平面ではなく、立体めいて見えた。

しかし、それは飛び出す絵本的な立体物でなく、ヌメっとした質感は、人間の瞳を思わせるものだがその大きさからそんなワケはなく、羊羹や寒天で作られたかのようだった。

そのような本の中の目と洋二と目はお互いを見つめ合った。

今現在、洋二は暴漢に襲われるクラスメイトの女の子をかばい、ナイフで刺され、欄干から下に落下している最中なので、そのような異形の瞳を見つめても、脳内の神経シナプスが追い付かず、何の連想や感想も抱かなかったが、平常であってもこんなものに見つめられたら、呆然とするしかないのではないか、とはこの0.0数秒後に洋二が思う感想だ。

その時に洋二は地面に叩きつけられているのだが。

叩きつけられた衝撃で、ナイフの柄すらも半分は洋二の腹に埋まるの程であった。

知覚や思惟が、あたかもブレーカーが降りたようにバチリと停止した。

そのようなバチリを認識できる程には、洋二には未だ意識が残っていたが、読むことはできても、介入することはできない、暗闇の中で読書しているような感覚だけが彼を取り巻いている。

首筋に何かチクリとした痛みを感じた。

これも今読んだパラグラフの地の文を読むようにしているに感じているに過ぎない。

次に洋二は何かに閉じ込められているように感じるのだが、おかしなことに圧迫感は感じない。

三半規管と目線が下っていくような感覚、そう、超高層ビルのエレベーターで降りていく時の感覚に近い。

そのエレベーターは地下に降りていくようだ。

地下一階、地下二階、地下三階、って、随分落ちていくものだ。

まるで地球の中心のマントルまで下がっているような気分。

下へ、下へ、下へ、だが洋二はどこまで落ちても、落ちきることはなかった。

何故なら、彼は落ちていくという受動的な状況に、実はいなかったからだ。

落ちていくので、止まったワケではないが、浮かんでいるが少し落ちているような感じは、初期ファミコンのアクションゲームで落下していくプレイヤーのキャラが自由度が高くて、空中をゆっくりと落ちながら、ベクトルだけはズラせて、足場を確保できる感じに近い。

すると、その感覚に従って少し、身体を動かすとようやく洋二は地に足を着けることができた。

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