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脳内ヒーロー洋二  作者: 井田雷左
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第一章 転落と吸収と突進 2



    2



まずこの人物、一度認識してからの違和感がハンパない。

それは本棚の中の骸骨のような異物感があった。

そして直ぐに洋二は気づく、この人物もおのれと同じ、麻井藍が目的であることを。

今、それに気づいた洋二は思う。

―同じ目的であると気づいたのはオレだけで、あのブルゾンはオレのことすら認識していない。

その刹那、洋二の視界に麻井藍が入る。

とはいっても、未だ20メートル先、洋二とブルゾン姿は気づいたが、藍じしんは気づいていない。

洋二のブルゾン姿への警戒は確信に変わった。

洋二、藍の登場を感知したことを感知したが、逆はない。

つまり、洋二が藍を見つけたことをブルゾン姿を気づいていない、いや、そもそも、ブルゾン姿は洋二の存在すら未だ気づいていない。

つまり、洋二だけが今、この時点で、ブルゾン姿と藍の両方を認識している。

ひとは認識の後に選択をしなければならない。

選択しないというのも選択の一種に過ぎないから、何もしなくても選択したことになる。

洋二は未だ17歳だった。

幼少の頃にボルダリング・クラブに所属したのも、中学受験の時に中高一貫のこの私立校の試験を受けたのも、ただなんとなくか、親の意見か、おそらくその両方であったろう。

この先、彼は大学受験や新卒入社で、その後にも業務上の選択、配偶者の選択を強いられるだろうが、この時の選択に比較すれば、それらは今からする選択のおまけみたいなものだ。

野生として洋二は選択するための選択肢を手に入れてはいる。

それに対し確信がある、だが、確信はあるが、確信があるからこそ、常識や世間体という名の後々のことを考えると辛い。

だが、洋二の視界に入ってきた藍が次第に大きくなっていく。

イヤなことに、そんなに動きはないというのに、ブルゾン姿は藍に注視しているからこそ、更に洋二に気づく気配もないということが手に取るように判る。

―そもそもこいつは何なんだ、ストーカーか?通り魔か?

だが、この時世、どちらもありふれたものになっている。

今、北方では戦争が行われ、隣国からはこの国に対しミサイルが打ち上げられている。

いや、そんな大文字の歴史への想いや動機探しすら、洋二には〈逃げ〉にしかなっていない。

何度も云う、彼は選択しなければならない、判断し、決断せねばならない。

―あのブルゾン姿のひとが怖い人だったらどうしよう、何か自分には想像もつかない程の意外なワケがあって、その末、麻井さんによけいなことをして!と言われたらどうしよう。

―思い過ごし、か。

人は時として、このように逃げるものだ。

もしもの時はスマホで直ぐに電話ができると追従するように思ってもみた。

だが同時に、自分は何でこの場にいるのかと新しい自問をしてみた。

通学路、いつもより60分早く登校し、いつも通る橋のたもとの電柱の脇でつっ立っている。

―なんで、こんなことやっているんだっけ?

橋の向こうで、ブルゾン姿が少しだけ腰を落としたので、洋二の視界からわずかに逃げる。

―あ、麻井さんに遭いにきたんだった!

ブルゾン姿が腰をおとした理由は多くの人間と同じく走るためだった。

ブルゾン姿が行動を起こしたちょうどその時に、洋二は選択していた。

―ヤバかった。腰抜けになって、これからの人生を後悔して生きることになるところだった。

洋二は走り出していた。

そのブルゾン姿がブルゾンの懐から取り出しのは刃渡り15センチはあろうナイフだった。

とても安直にして、不謹慎だが、洋二は「オレの選択に間違いはなかった!」と嬉しく思った。

だが直ぐに不安と恐怖に陰りがさす、近いのはブルゾン姿であり、洋二とは5メートルは先にいた。

面白いもので、後悔しないために走り出した洋二だが、もう少し早く決心していたら、と一回めの後悔をしていたのはこの時だった。

懸命に走ることは既にしている、

だから、「麻井さーーーーーーーーーーーーん!」と洋二は叫んだ。

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