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【第二巻発売中】世界救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった  作者: 龍流
おれの隣の席の姫騎士が最強すぎる

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第92話 蒼の少女と魔王

 昔の話をしよう。

 イト・ユリシーズは、幼い頃から快活で才気に溢れた少女だった。イトは体こそ小柄だったが、そのやんちゃっぷりは男子に混じって野原を駆け回り、棒を握って野ウサギを追いかけるほどだった。せめて女の子らしく、かわいらしくあってほしいと両親が整えてくれたポニーテールを、その名の通り馬の尻尾のように揺らして、イトは朝から晩まで遊び場を駆け回っていた。

 イトという少女には、夢があった。


「わたし、大きくなったら、魔王を倒す勇者になるの!」


 両親は危ないからやめなさい、とか。周囲の大人は女の子には無理だよ、とか。周囲からそんな言葉を重ねられて、イトはいつも頬を膨らませていたが、理解者がいないわけではなかった。


「お姉ちゃんならできるよ。だってお姉ちゃん、すっごく強いもん!」


 イトには、妹がいた。

 イトとは違って物静かで控えめな性格だったが、妹は頭が良く、魔術の才能があった。外を走り回るよりも、本を読んで物語の世界に耽ることが好きな子だった。

 妹は、姉が勇者になることを信じていた。イトはそれがうれしくて、でもきらきらした視線が少しくすぐったくて、自分より小さなところにある頭を撫でながら、提案した。


「そうだ! わたしと二人で勇者になっちゃえばいいんだ!」

「ええ!? 無理だよお姉ちゃん。私、お姉ちゃんみたいに強くないし……」

「何言ってるの! 平気平気! わたしが剣を教えてあげれば大丈夫だよ!」

「何も大丈夫じゃないよ〜」


 イトは鍛錬を重ねた。少しずつ、確実に、自身を支える剣技の基礎を磨いていった。とうとう根負けした両親は、腕に覚えがある村の冒険者や、時折訪れる騎士団の人間に、イトの剣の指導を頼むようになった。

 楽しかった。充実していた。

 いつか、世界を救う冒険に出ることを、イトは信じて疑わなかった。


「わたしが大きくなったら、一緒に冒険に行こ! 世界を救う冒険!」

「……それ、私も付いて行っていいの?」

「もちろん! 絶対絶対、行こう!」


 積み重ねていけば、いつか夢は現実にできると思っていた。

 けれど、積み木が崩れるのは、いつだって突然のことで。


 ある日、村が魔物に襲われた。

 行われたのは、容赦のない殺戮と略奪。巨大な魔物が村の中を闊歩し、家を潰し、家畜を貪り、財産を奪い去っていった。


「はぁ、はぁはぁ……」


 なんとか魔物から逃げきったイトは、それでも重傷を負っていた。左目を潰され、左腕にはひびが入っているのか、それとも折れているのか、自分でもよくわからない。最初は泣き叫びたくなるほどだった激痛も、今は頭の中が麻痺してしまっているのか、じんわりとした熱しか感じない。だから、イトはその熱を堪えて、必死に家まで走った。

 破壊の跡だけが残された家を見て、ズタボロの肉塊に変わっている両親を見て「ああ、お母さんとお父さんはもうダメだ」と。イトはすぐに確信した。それでも、まともに動く片腕だけで瓦礫を掘り返して、手のひらが真っ赤になるのも構わず夢中で掘り進めて、


「お姉ちゃん」


 ようやく、積み上がった建材の隙間の中に……()()()()()()()()()を見つけた。


「あ」


それを見た瞬間に。痛みの熱が、イトの全身からすっと抜けていった。

 妹を瓦礫の中から助け出す? 

 無理だ。自分は片手しか使えなくて、そもそも子どもの力でこれ以上重い瓦礫を持ち上げることはできない。

 妹をここに残して、助けを呼んでくる? 

 不可能だ。どこに医者がいるかもわからない。そもそも、妹の怪我はもう医者の力でどうにかなるようなものには見えない。


「お姉ちゃん……私のことは、いいから。だから……逃げて」


 噛み締めた唇から、血の味がした。

 イトは、勇者ではない。なんの力もない、ただの少女だった。


 誰か────

 誰か────

 誰か────


 勇者様じゃなくてもいいから、誰か────


「こんにちは」


 ────応じたのは、鈴の音のような声。


 運命はいつも残酷で、なによりも皮肉を好む。

 その村に、勇者はいなかった。

 ただ、魔王がいた。


「その子、あなたの妹? 体の右半分が潰れちゃって、今にも死んじゃいそうね」


 透けるような白い髪。人形のような冷たい美貌。無色透明な、イトとそう年の変わらない少女は、けれど明らかにイトとは異なる力を持っていた。


「あなた、この子を助けたいの?」

「助けて……助けて、くれるの?」

「わたしは助けてあげることはできないわ。でも、助ける手伝いくらいはしてあげる」


 その代わり、と。

 魔王はイトの耳元で、交換条件を囁いた。


「どう? できる?」


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