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【第二巻発売中】世界救い終わったけど、記憶喪失の女の子ひろった  作者: 龍流
おれの隣の席の姫騎士が最強すぎる

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第80話 姫騎士様の騎士学校生活 一日目

 アリア・リナージュ・アイアラスは、窓から差し込む朝日で目を覚ました。


「ん」


 騎士学校の宿舎のベッドは、やはり王城のそれと比べると硬い。しかも、1人ではない部屋で起きるのはひさしぶりだ。


「あ、えっと。おはようございます、姫様」

「うん。おはよう。でも、姫様はよして。あと、敬語もいらないよ? これから同じ部屋で生活していくわけだし」

「あ、あはは。ごめんなさい。わかっているんですけど、なんとなく緊張しちゃって」


 同室の女子は、縮こまるように体を固くした。またやってしまったな、とアリアはため息を吐きたくなった。

 無理もない。アリアは人と話すのが大好きだし、いろいろな人と仲良くなりたいと思っていたが、残念ながら王女という立場と生まれ持った魔法がそれを許してくれなかった。


(でも、大丈夫)


 昨日は、とても良い出会いがあった。

 自分と同じように入学式を抜け出して、自分と遠慮も手加減もなしに剣を交えてくれた、あの少年。彼は自分の顔色を伺うこともなく、ありのままのアリアと本気で向き合ってくれた。

 彼が勇者になる、というのなら。自分はそれを助けたい、と強く思う。

 制服のブラウスに袖を通して、ネクタイとリボンを選ぶ段階に至って。彼はどちらが好きだろう……とアリアは考えた。そうして、とても自然に彼に《《制服姿を見られることを前提に身支度をしている》》自分に気がついた。


「……」


 なんとなく、頬が火照るのを自覚しながら、リボンを置いてネクタイを手に取る。

 これはよくない。自分は、彼の騎士になる、と言ったのだ。たとえ口約束でも、約束は約束。そして、その誓いは誇りに懸けて撤回できない誓約だ。

 キュッとネクタイを締めると、身も心も引き締まる気がして、アリアはふぅ、と息を吐いた。鞄を持ち、部屋を出る。同室の女子もそれを待ってくれていたのか、一応2人揃って寮の門を潜った。


「あの、姫様。一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「ええ、どうぞ」


 敬語と姫様呼びを取ることは、これから先の目標にしよう。アリアは諦めて、まずは友人との会話を楽しむことにした。


「昨日、姫様は入学式を無断でサボって、私的な決闘で屋上を爆破したと聞きました」

「……」


 最初から、全然まったく会話を楽しめる気配がなかった。

 というか客観的にそう言われて考えてみると、アリアは入学初日からあまりにも盛大にやらかしていた。普通の生徒なら退学になっていてもおかしくないレベルである。

 冷や汗を流しながら、アリアは顔を背けた。


「ば、爆破はしてないよ? ちょっと壊しただけっていうか、なんていうか」

「でも、すごい音が響いて、見に行ったら屋上が明らかに半壊していましたよ?」

「他のみんなの反応って、どうだった?」

「めちゃくちゃ怖がってました」


 もしかしたらしばらく自分は同級生に馴染めないのかもしれない。アリアは心の中で泣きたくなった。


「それで、気分を害されたら申し訳ないのですが」

「もう、なんでも聞いて」


 ぐったりと項垂れながら、投げやりに返す。

 もはや下がる評判もなさそうだ。


「姫様とそれだけ打ち合った新入生に、皆は興味を抱いているようで」

「……!」


 ああ、なるほど。そういうことか。それを聞いて、アリアは下がっていた肩を戻した。

 納得するのと同時に、少し誇らしくなる。


「どのような人だったのですか?」


 問われて、どのような答えが相応しいか考える。


「とても、強い人」

「え?」

「とても強くて……」


 同年代の人間に剣で負けたのは、はじめての経験だった。

 しかし、それ以上に、


「……すてきな人だったよ」


 くすり、と。

 含むものを感じさせる笑みといたずらっぽい口調に、それを聞いたルームメイトの顔が、ちょっとだけ赤くなる。


「す、素敵、とは!?」

「えー、言葉通りの意味かな」

「ひ、姫様は、男性の方との交友関係が豊富なのですか!?」

「んー、そんなことはないけど」


 なんとなく、萎縮していた雰囲気が解けて、普通の女の子らしい会話ができるようになって。

 これはちょっと楽しいな、と。アリアは嬉しくなった。

 ルームメイトが、アリアの顔を覗き込むように、食い入るように問いかけてくる。


「そ、それはもしかして」


「アリアァあああ!」


 自分の名前を呼ぶ、絶叫が響いた。

 横に向けていた視線を戻すと、前方から走り駆けてくるのは、肌色の物体。


「は?」


 それを見て、アリアは言葉という概念を一瞬、忘れかけた。

 無意識に口から出たその呟きが、辛うじてアリアの発声機能を繋ぎ止めたと言ってもいい。


「アリア! 助けてくれ! 追われているんだ!」

「ひ、姫様の名前を気安く口にするな! この不審者め!」

「あの、えっと」

「いけません姫様! こんな全裸の男と言葉を交わしては!」

「いや、その」

「聞いてくれ! なんか起きたら裸だったんだ!」

「ち、近寄るな!」


 それは普通に、知っている人だった。

 というか昨日、アリアが己の剣を捧げると誓った勇者の少年だった。

 そして、なぜか勇者の少年は全裸だった。


「む! そこの騎士学校の生徒たち! 離れなさい! その不審者は全裸だ!」


 さらに後ろから、紺色の制服を着込んだ憲兵もやってくる。


「むむ! そこにいらっしゃるのはアイアラス殿下! いけません! その全裸の不審者から離れてください!」

「はあ!? おれのどこが不審なんだ憲兵のおじさん! 一切合切包み隠さずきれいさっぱり曝け出してるだろ!」

「黙れ! 特に股間が不審だ!」

「おいアリア! 頼む! この憲兵さんになんとか言ってくれ!」


 縋るような目で見られても、アリアは少年の方を直視することができない。直視しようとした瞬間に、下半身に目がいってしまいそうになるからだ。

 つい昨日の出来事が、走馬灯のように脳内を駆け巡る。


 ────わかった。あたしが、あなたの騎士になってあげる


 ────それでは、主よ。名前を教えていただけますか? 


 遂に意を決して、アリア・リナージュ・アイアラスは答えた。


「…………知らない人です」

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