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2023年6月22日 0610時(現地時間)

ソマリア連邦共和国南部 武装勢力アル・シャバブ活動地域


 武装勢力掃討作戦の一環でHVT(高価値目標)の狙撃に成功したSEALs(アメリカ海軍特殊部隊)の6人だったが、脱出ルート上の窪地で50人規模の武装勢力に捕捉されて攻撃を受け、敵が小高い丘に陣取っている事もあって全滅の危機に瀕していた。


B1(ブラヴォー・ワン)よりHQ(ホテル・ケベック)! 敵の猛攻を受けて身動きが取れない! 航空支援を要請する!」

「こちらでも確認した。すぐに送る」

B1(ブラヴォー・ワン)、了解!」


 包囲された部隊の隊長である少尉が未舗装の道路脇に3台まとまって放置されていた廃車の陰から無線で支援を求めると、無人偵察機からのリアルタイム映像で状況を把握していた現地作戦司令部も予め上空に待機させていた航空部隊を派遣すると言ってきた。

 しかし、その間も敵の攻撃は一向に衰えず、遮蔽物として使っている廃車に銃弾の当たり続ける音が死への恐怖を掻き立てる。だが、彼らは必ず救援が来ると信じて必死に応戦していた。


「もうすぐ救援が来る! それまで、なんとしても持ちこたえるぞ!」

「了解だ、ボス!」

「あんたを信じる!」


 通信を終えた少尉がACOG(高度戦闘光学照準器)やフォアグリップを装着した『HK416D』カービンを構え、短い連射を繰り返して敵の1人を射殺しながら叫ぶ。

 すると、近くで同じように敵と交戦していた隊員達から頼もしい反応が返ってくる。その時、別の隊員が敵の持つ武器に気付いて警告を発した。


「RPG!」

「俺が始末する! 援護してくれ!」

「任せろ!」


 HVTの狙撃を担当した隊員が名乗りを上げて『Mk20 mod0』マークスマンライフルで『RPG-7』携帯対戦車擲弾発射器を持つ敵を狙い、援護を引き受けた隊員が『Mk48 mod0』LMG(軽機関銃)の連射で制圧射撃を行って他の敵を牽制する。

 そして、敵が『RPG-7』の弾頭を発射する前に射殺したが、それでも他の敵がすぐに駆け寄って発射器を拾い上げ、彼らのいる所に向けて発射してきた。


「クソッ!」


 隊員の1人が思わず悪態を吐き、それぞれに身を屈めた直後に彼らのいる場所を飛び越して後方に着弾し、衝撃波に続いて小石が頭上から降ってくる。幸い、この攻撃による被害は無く、彼らは即座に反撃を行って複数の敵を射殺した。

 だが、数で勝る敵は犠牲をいとわない攻撃を続け、特殊部隊の隊員達は次第に射撃を行っている時間よりも遮蔽物の陰に身を隠している時間の方が長くなり、追い詰められているのは明らかだった。


「This is Spear31.Where are you?」

(こちら、スピア31。どこにいる?)


 そうして限界を感じ始めた頃、少尉の無線に航空支援に来たパイロットからの通信が入る。その声を耳にした瞬間、少尉は射撃を続けながらも傍らの隊員に新たな命令を下した。


「上空の味方に合図を送る! スモークを焚け!」

「了解!」


 その命令の意味を理解した隊員は腰のポーチより1個のスモークグレネードを取り出し、自分達の視界を遮らないよう風下の出来るだけ近い場所に放り投げた。すると、地面に転がったグレネードの本体からはオレンジ色の煙が勢いよく噴き出す。


「Spear31,it’s orange smoke!」

(スピア31、オレンジの煙の所だ!)

「Spear31 wilco」

(スピア31 了解)


 この通信を行った数秒後、斜面を下りながら攻撃を続けていた敵集団が一瞬にして土煙に覆われ、獣の咆哮のような轟音が上空より聞こえてきた。そして、1機の『A-10C サンダーボルトⅡ』攻撃機が彼らの頭上を通過していく。

 この機体こそ援護の為に飛来した航空機の1機で、機首下面に装備した3900発/分の発射速度を誇る7砲身の『GAU-8/A』30mmガトリングガンで敵を掃射したのだ。

 さらに、最初の1機と入れ替わる形でもう1機の『A-10C』攻撃機も戦闘地域上空に飛来し、30mmガトリングガンで斜面に残った敵集団を容赦なく掃射していった。だが、この程度で航空部隊の攻撃が終わる筈がない。

 スピア31と呼ばれた機体が右旋回して戻って来ると、今度は両主翼下に搭載していた重量500Lbの『GBU-54』LJDAM(レーザー/GPS誘導爆弾)を僅かな間隔をあけて1発ずつ投下する。

 こうして投下された誘導爆弾は、左主翼下に搭載された『AN/AAQ-33スナイパーXR』目標指示ポッドによる目標へのレーザー照射で得られた情報をGPS座標に変換し、その座標に向かって正確に落下していった。

 結果、小高い丘の尾根にあった敵の武器弾薬置き場兼集結場所に2発ともピンポイントで直撃し、運悪く居合わせた敵もろとも盛大に吹き飛ばした。


「いいぞ、その調子だ!」


 敵の銃撃が散発的になって余裕が出てきたからなのか、その光景を目にした隊員の1人が聞こえないと分かっていても笑顔で声援を送る。


「HQ to Spear32.10o’clock,new targets.Execute」

(ホテル・ケベックよりスピア32。10時方向、新しい目標だ。始末しろ)

「Spear32 wilco」

(スピア32 了解)


 すると、今度は無人偵察機からの情報で敵の増援を確認した現地作戦司令部が直接、CAS(近接航空支援)に当たっていた『A-10C』攻撃機に指示を出す。

 そして、指示を受けた機体のパイロットが機首の方位を変えると、すぐに未舗装の道路上を土埃を巻き上げながら味方の特殊部隊がいる場所へと接近する敵の車列を目視で捉えた。

 しかも敵の車列は、鉄板を溶接して防弾仕様に改造したVBIED(自爆攻撃用車両)を先頭にテクニカル(市販車を改造した即席の戦闘車両)が3両、武装した戦闘員を乗せた中型トラックが2両という比較的規模の大きなものだった。

 なので、同機のパイロットは最初に『AGM-65K マベリック』AGM(空対地ミサイル)をVBIEDに対して発射すると一旦は針路を変えて目標から遠ざかる。

 発射された『AGM-65K』AGMはロケットモーター(推進装置)を作動させて上昇し、弾頭先端部のシーカー(目標捕捉用センサー)で目標を捕捉しつつ高度と速度を維持したままVBIEDへ接近すると、一気に急降下して上空から目標に突入して起爆した。

 いくら防弾仕様になっているとは言え、より重装甲の車両を確実に破壊する事を目的としたミサイルの直撃には耐えられず、満載していた爆発物も誘爆して後続のテクニカルの1両を巻き込む形で大爆発を起こした。

 この爆発の影響で車列全体が停止するが、その間に攻撃を行った『A-10C』攻撃機は旋回して戻って来ると攻撃態勢を整え、残った車両に対して『GAU-8/A』30mmガトリングガンによる掃射を敢行する。

 だが、敵も黙って殺されるつもりは無いらしく、中型トラックを挟んで車列の前後に位置する2両のテクニカルが荷台に搭載する『DShK38』HMG(重機関銃)の銃口を空に向けて激しく応戦してきた。もっとも、同機は重機関銃の射程圏外を飛行しているので影響は無い。

 次の瞬間、ガトリングガンによる掃射が始まった。3900発/分の発射速度で徹甲焼夷弾(劣化ウラン弾)と高性能炸薬焼夷弾が音速を超える速さで降り注ぎ、瞬く間に車両は穴だらけのスクラップになり、人間は腕や足が千切れ飛んだり頭が破裂したりして絶命していく。

 その結果、たった1度の掃射でテクニカル1両と中型トラック2両が破壊され、搭乗していた敵もほとんどが死んで増援部隊は壊滅した。また、あまりにも一方的な殺戮を目にした敵の生き残りは完全に戦意を喪失して逃走を図る。

 ところが、Uターンして100mも走らない内に逃走を図ったテクニカルが爆発し、車体が宙に浮いたかと思うとひっくり返って地面に落下した。


「This is Hunter78.Target destroyed」

(ハンター78だ。目標を破壊した)


 そう無線で報告したのは、特殊部隊の隊員達を収容する為に飛来した『MH-60M ブラックホーク』特殊作戦用汎用ヘリの護衛として同行していた『AH-64E アパッチ・ガーディアン』攻撃ヘリの1機を操縦するパイロットである。

 彼らは現地作戦司令部からの攻撃命令を受け、逃走を図ったテクニカルに『AGM-114L ヘルファイアⅡ』ATGW(対戦車誘導兵器)を発射して撃破したのだ。さらに、徒歩で逃走を図った敵に対しては『M230E1』30mmチェーンガンの短い連射を繰り返して1人ずつ始末していった。

 こうして敵の制圧が着実に進む中、『MH-60M』特殊作戦用汎用ヘリが僅かに残るオレンジ色の煙を目印に着陸態勢へと入る。

 その際、味方との距離が近くて『A-10C』攻撃機では対処の難しかった敵にドアガンとして特殊作戦用汎用ヘリの胴体両側面に搭載された『M134 ミニガン』、具体的には6銃身で口径7.62mmのガトリングガンの射撃で敵をぼろ雑巾みたいに引き裂いていった。


「全員、ヘリに乗れ! 家に帰るぞ!」

「イエス・サー!」


 安全が確保された事を確認した少尉が部下達に命令すると、すぐに全員から反応があった。その声からは、誰も死ななかった事への喜びが滲んでいる。

 そして、彼らはエンジンを掛けたまま着陸して待機しているヘリに駆け寄ると部下から順に機内へ乗り込んでいき、最後に少尉が乗り込んで全員が揃っているのを確かめて機長に合図を送った。


「いいぞ、撤収だ!」


 すると、エンジンの回転数が上がるのに続いてメインローターの激しく空気を叩く音が響き、機体は前進しながら上昇して針路を前線拠点のある方角に向けるのだった。

挿絵(By みてみん)

感想「感じたままに」

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― 新着の感想 ―
[一言] 圧倒的な戦闘描写、まるで戦争映画を見ているようでした。 ただ私はそういった知識がありませんので、この何が良くてこういった話が書かれたのかがイマイチ掴みがたく、3度ほど読んでようやっとぼんや…
[一言] 最後まで緊張感が崩れない、圧倒的な文章でした。情報量の多さ、戦闘の過酷さ非情さが淡々と描かれ、戦争映画を観ているようです。読んでいる最中、聞こえるはずのない爆音や破裂音が聞こえてきましたもの…
[良い点] この独特な戦闘の世界!詳細な武器や兵器の説明! 航空機や攻撃用車両の写実性の高さ! 読み手へ擦り合わせることを許さず、書き手様の求めるところをとことん追求する姿勢! この作風、一度読んだら…
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