㉜スライム寄生
万年Fクラスの俺は隕石に当たって死んだ。と思ったらスライムみたいな不定形生物に寄生されて生命維持されるらしい。コイツが思考能力も攻撃能力も高くて、さらにはダイヤモンドすら製造できる!チートな相棒との冒険の始まりだ!
俺、ガラハッド=コンウッド26歳は冒険者である。と言えばカッコいいが、底辺冒険者でランクも最低のFと見習いから抜け出ていない。
腕力もないし度胸もない。戦功も金も甲斐性もない。当然嫁なんていない。
ないない尽くしで未来もない。ただギルドの薬草集めのクエストをして小銭を稼ぐだけの毎日。さっさと別な職業に就けばよかったのに、そのタイミングすら逃してしまった。
ギルド内では空気で、こんな俺と誰も組んではくれないから危険がなさそうな丘でひっそりと自生する薬草を摘んでいた。ここが俺の秘密の場所だ。ここに薬草があることを誰も知らない。
うまく株分けして日陰の薬草畑づくり。ようやく毎日を送れるようになってきたある日のことだった。
俺は気づかなかったのだ。昼間の空に輝く隕石に。それはまっすぐに俺の薬草畑に落ちてきたのだ。
背中を向けていて音に気づいたときにはもう遅かった。真っ赤に燃えた隕石は俺ごと畑を燃やして墜落したのだった。
*****
気付いた時には夜だった。空には輝く星々。だが跳ね起きて自身の身体をまさぐった。
「生きてる。」
無事を確認したが自分がいる場所を見て愕然とした。薬草畑が真っ赤に焼けてなにもなくなっている。その畑の場所に小さな隕石があってまだ赤々と熱を発していた。
「ああくそう。これからだったのに!」
薬草の栽培が駄目になり悔しがっていると耳元で声がした。
『スマン。こちらに非がある。』
辺りを見ても誰もいない。度胸もない俺は震え上がった。
『いや、これは失礼。私は君の身体の表面を覆っている。空気の振動により言葉を伝えているのだ。』
「えええ。あなたは誰ですか??」
『私は遠い星から来た宇宙旅行者だ。あそこに転がっているのは宇宙船。といってもわからないか??』
「わ、わかりません。」
『我が故郷より文明はずいぶん遅れているな。私の名はリチャード。君たちのように決まった形はない。不定形生物だ。』
「ス、スライムのような??」
『まぁそうだな。君の星のことは調べさせて貰ったが、そのスライムにかなり近い形だ。だが我々は身体全体で思考し動くことができる、万能な生物である。』
「そ、そのスライムがなぜ俺の身体を覆っているんで??まさか食べる??」
『いや違う。私の船が着陸する際、君に大怪我をさせた。だから私の身体で君を包み、修復しながら生活できる身体にしてやっているのだ。』
「は、はい??大怪我ですか??」
『そうだ。火傷、骨折、打撲に出血。私がこの身体より離れたら君はたちどころに死ぬ。』
「そ、そんなまさか。痛くも痒くもありませんよ。」
『信じないか??では現実を見せてやろう。』
俺の利き腕が勝手に持ち上がり、人差し指が目の前に来る。その人差し指が星明かりに輝いたかと思うと、なにやら透明な膜がずるりと第一関節まで剥けて、そこには真っ赤に火傷した人差し指の先端が出てきたのである。
「痛たたたたたたぁーーー!!」
激痛が人差し指を刺すように走る。すると透明な膜が戻り、痛みは消えていった。
『分かったかね??ガラハッドくん。君は私が離れたら死ぬ。だがそうしたのは私だ。君の身体が完治するまで、この身体を預けよう。』
「は、はい。」
奇妙なことに、このリチャードとかいうスライムに寄生されることになってしまった。
だがそれよりも困ることは今後の生活だ。俺はなくなってしまった薬草畑を見てため息をついた。
『今度はどうしたのかね??ガラハッドくん』
「生き延びたのはいいですが、命の綱の畑がなくなっちまって。。。」
『なるほど。それも私の責任だ。当座をしのげる代用の品を出そう。左手を開いてみたまえ』
「左手を??」
俺が恐る恐る握っている左手を開いてみると、そこには透明感のある石が握られていた。
「こ、これは??」
『なんだ知らんのか。ダイヤモンドの原石だ。当然カットはしていないがな。』
「ダ、ダイヤ??ど、どうやって??」
『空気中にある炭素を集めて作り出した。それを売って生活の足しにしたまえ。』
驚いていると林の中から幾人かの声がする。そいつらは藪をかき分けて出てきて目があった。
こいつらは同じギルドの冒険者の四人だ。リーダーの前衛の戦士はカズン=ウォーロードというヤツだったな。俺より後から入ってきたのに、ランクはC級と実力もある。しかし汚いことをして成り上がったとも聞く。
「あれ??隕石が落ちたと思って拾いに来たら、コイツはたしか。。。」
「あれだろ。万年Fクラスの、名前はたしか。。。」
「ガントレットとかそういうの??」
「そうそう。ガントだ。お前、隕石見なかった??」
ガラハッドだよ!!そんでお前扱い。話したことないけど、やっぱりたちの悪い奴らだな。。。
「あれ??お前なに持ってんの??」
あ、やべ!!
咄嗟にダイヤモンドを腰袋へと押し込んだ。でもデカすぎて腰袋からはみ出てる。はふん!!
「ダイヤ??」
「ダイヤじゃね??」
「どこで見つけた??」
「よし。ガント。それをこっちによこせ。」
な、なんで??君たちに渡さなくちゃならないわけ??
そいつらは各々が武器を構えてこちらににじり寄ってくる。完全な威嚇。つーより恐喝。
『ふむふむ。仲がよさそうだな。このものたちは君の朋輩か??』
「ほ、ほーばい??」
『分からぬか。仲のよい友人かと聞いている。』
「友人のわけない!!このダイヤを奪おうとしてるんだ!!」
リチャードと話しているが、どうやらリチャードの声は向こうには聞こえていないらしい。
「なにを独り言を。」
「こいつ頭イってるんだ。」
「ダイヤを渡さないなら力付くだ。」
「火矢や火炎魔法は使うなよ。ダイヤが燃えちまうからな。」
ジリジリと近づくカズン率いる冒険者。。。いや、強盗か。俺の身体は勝手に立ち上がる。そして彼らに向けて言葉を発した。しかし話し出したのは俺じゃない。どうやらリチャードに身体を操作されているらしかった。
『やめたまえ。人の財産を奪うなど愚かな考え方は。』
それに冒険者たちは一度足を止めたが、嫌らしく笑ってまた近づいてくる。
「コイツなに言ってんだ??実力もないクセに。」
その言葉にリチャードはボソリと呟く。
『ふーん、なるほど。ガラハッド君の身体は抑止力を備えてないのだな。だから交渉に役に立たん。この者たちはまるでラシアーナのような連中というわけだ。』
カズン率いる連中は、武器を構えて襲いかかってきた!!
「わーーー!!」
ボッグン!!
ボッグン!!
怖さに目をつぶってしまったが、なにも起こらないので目を開けると、前衛のカズンと、同じく前衛の斥候役である盗賊が倒れている。
後衛の射手と魔道士は俺と同じく驚いて固まっていた。
「な、なんであんなに攻撃範囲が伸びるんだ?!」
魔道士の言葉の意味がわからない。ど、どゆこと??
俺はリチャードに訪ねる。
『攻撃される前に攻撃した。こちらに被害が出る前に。』
「ど、どうやって?!」
『野蛮だが物理攻撃を仕掛けたのだ。簡単にいえば“殴った”んだよ。残念ながら今はその方法しか持ち合わせていない。』
「い、いや、それをどうやって??俺にそんな力はない。」
倒れている二人は明らかに元の位置より数メートル吹っ飛んでる。普通の人間にあんなことできやしない。
『私の皮膚を硬質化してスピードをつけて殴ったんだよ。数時間は起き上がれまい。』
「皮膚を?!」
すると射手が矢をつがえて素早く放ってきた。避けようにも間に合わない!!
ポムン。
俺の体を覆うリチャードの透明な膜が胸の辺りから競り出てきて大きな盾を作った。それは弾力性を持っていて、矢の攻撃に対してへこんだものの、へこんだ部分が元に戻ると矢は勢いをもって大空に消えた。
さらに魔道士が連続技を決めてきたのだろう。俺は気づかなかったが、その盾状の部分に氷柱が何本も突き刺さっていた。
『まったく。これに刺さったらガラハッド君はひとたまりもない。一命を奪おうと同族を殺そうとするとは危険な連中だな。』
リチャードはそう言いながら氷の矢を盾状の膜で包み込み、水に戻す。
だが僅かな時間でそれから氷を作り出し、バラバラに砕いたかと思うと後衛の二人に弾丸のように飛ばしたのである。
「ぎゃ!!」
「ぐわ!!」
的確に数発くらったそいつらは目を回して気絶したようだった。
「マジかよぉ!!すげぇ!!」
『まぁそういうな。反省しきりだ。当たりどころが悪ければ死んでいるからな。そうならないように加減はした。本来ならば捕らえて法廷に突き出すのだが、この星の文化はそういうこともあまりしないようだな。』
しかし普段自分には出来ない、圧倒的な力に感動した。リチャードは力はあるし、ダイヤモンドも作れるなんて凄すぎる!!
『ガラハッド君。これからよろしく頼む。』
「うほーい、こちらこそよろしくお願いいたします!!」
『ふふ。二人で一人。相棒だな。今後は敬語なぞ遣わなくてよい。朋友同士語り合うように話をしようではないか。』
「えーと、つまりタメ口っすね??」
『タメ口??なるほどそういうのか。結構なことだ。タメ口。それでいこう。』
「じゃあハイ。」
俺は右手を開いて肩ほどに上げる。
『……なんだ。どういうことだ??』
「ハイタッチっすよぉ。リチャードは左手で俺の右手を叩く。仲間同士の戦闘終了の挨拶です。」
『ははーん。なるほどな。こうか??』
パチン!
端から見れば一人でなにやってんだって見えるけど、仲間ができたらこうするのが憧れだったんだ。く~。しかもすごく頼もしい。楽しみだ。これからの冒険が。
『では休息をとろう。宿に向かおうではないか。』
「おう!!」
俺はギルドのある町に向かって歩き出した。
*****
ガラハッドとリチャードのいる星からかなり離れた惑星。ここにはたくさんの不定形生物が暮らしている。
だが反乱が起きたのか、大統領府からは煙が上がっていた。
『いたか。大統領は。』
『ラシアーナ総統!!どうやら脱出用の小型艇が一隻ないようです。』
『糞!!ヤツめ、抜け目なく逃げだしたか!!』
『はい。逃がしたヤツがいたようで、すぐに殺しました。しかしコンピューターに行き先が入力してあるのが残っているようです。』
『よし。見せろ。』
その総統と呼ばれる不定形生物はコンピューターを確認して不敵に笑う。
『クックックッ。マヌケなヤツだ。暗殺者を数人向かわせろ。そしてアイツの亡骸を持ち帰り、このラシアーナが最高権力者だと国民に知らしめるのだ!!』
『かしこまりました。さっそく手配いたします。』
参謀が部屋から出ていくと、ラシアーナ総統は空を見上げて笑う。
『リチャードめ。貴様の命も風前の灯火よ。貴様が生きていれば担ぎ上げるヤツがいるからな。死ねィ!!はっはっは!!』




