⑯結婚相手がいない守山さん。
ある深夜、金縛りに襲われたアタシだったが……
えっ、貴方はもしかして守護霊様?
「いや、ワシはお前の守護霊ではない。お前の会社のライバル――――の守護霊じゃ」
はぁ? なんで【アイツ】の守護霊があたしの枕元に立つんじゃぁあ!!?
「なんでアタシがアイツと結婚しないといけないんですか!?」
「――――を婿養子にせよ。こっちの家は跡継ぎに不足ないからの」
「イヤです。謹んでお断りいたします」
「なぜじゃ。アイツはかなりの良物件じゃぞ? お主も同じ会社なんだから当然知っとるはずじゃ!」
当作品は結婚できないアラフォー女子な守山さんが他人の守護霊と始めるラブコメディです。
ガチャッ
バタンッ
1人住まいのタワマンの部屋に帰ってくると、夜中の12時を回っていた。
(とうとう39歳……か)
恋愛はここ何年もご無沙汰だ。
反対に仕事面はかなり充実している。
――そうね。
もうこのまま結婚しなくてもいいのかも。
ここ数年で分かったけど、結構ひとりでやっていけるタイプだしアタシ。
少し寂しく感じることもあるけれど、これくらいは必要悪。
現代人はある程度そういう寂しさも受け入れる必要があるのではないか。
うん、なんだか哲学的。
きっと世の中アタシみたいな人ケッコーいるよね。
結婚なんてしないでこの先1人で生きていくのも気楽で悪くない。
それにアタシの両親は既に他界しており兄弟親戚もいない。
つまりアタシに結婚しろとうるさく言ってくる人物がいない。
――あれ、もしかしてコレが原因?
心配ごとと言えば【独りぼっちの老後】ね。
だけどアタシには貯金も現時点で十分あるし、もっと貯金を上積みすればもっとハイクラスの老人ホームに入所することも可能だと思う。
そうなればきっと老後もエンジョイできるかも。
それか、むしろアタシなんかは、もっと太く生きて、早世(=早死に)を目指しても良いかもしれない。
そんな前向きなんだか後ろ向きなんだか分からないコトを考えながら、いつものように缶ビールを3本空け、アタシは眠りについた――
……その夜、いや深夜のことだった。
妙に寝苦しさを感じて目を覚ましたアタシは枕元に気配を感じ、意識が一気に覚醒した。
(あっ、キタ。ヤバい)
この感覚を味わったことがある人になら、一体何なのか察していただけただろうか。
そう。
アレである。
金縛りだ。
唐突な過去話だけど、アタシはかつて頻繁に金縛りにあっていたことがある。
だから独自の金縛り対策があったりした。
ちなみにあなたは金縛りにどんなイメージ持ってる?
ただ動けなくなる感じかな。
それとも幽霊に襲われるタイプ?
アタシの場合はだいたいが幽霊に襲われることがほとんど。
かなり怖いです。
ハッキリいって。
でもインターネットの情報によると、金縛りって大体の場合が【かなりリアルな悪夢】ということらしいのよ。
だからアタシはその情報にすがることにした。
という訳でアタシの金縛り対策は「これはただの夢、これはただの夢……」と自分に言い聞かせるって感じ。
(これくらい金縛りマスターのアタシにかかればどうってコトないわ)
でも、この日の金縛りはアタシが過去に体験したどのタイプとも異なった。
いつもの金縛りであれば枕元の気配がする場所から黒いシミが湧き出てきたり恐ろしげな雰囲気を漂わせてきたりするハズなのに、何だか妙に神々しい雰囲気なのだ。
金色に輝いている。
『ワシの声が聞こえるか? 守山 澪子よ』
――どう表現すればいいのか。
意識に直接語りかけてくるように、頭のなかで男の人の声が聞こえてきた。
ワシ、という割にはそこまで歳を取っていなさそうな若い声である。
よくよく目を凝らして見てみると、古風な着物を着こなしたイケメンだ。
(ちょっとタイプかも)
というか、この雰囲気……もしかして?
『あの、もしかして神様ですか?』
金縛り中のアタシの口は全然動かないので、アタシも同じように頭の中で質問をする。
すると、イケメンにちゃんと伝わったようだ。
『神ではない。昔生きていた人間の魂のようなものだ』
『もしかして守護霊様!? いつもお世話になっております』
金縛り中のアタシは、瞬きだけで感謝の気持ちを表すという器用な技を編み出した。
『いや、ワシは守護霊ではあるが、お前の守護霊ではない。お前の会社の同僚、森谷 一伊の守護霊じゃ』
「なんで、森谷 一伊!!?」
その名前を聞いたとたん、アタシは飛び起きてしまった。
金縛りが解けて守護霊様(?)の姿は消えている。
「はぁはぁ……」
上がってしまっている息を整える。
やはり、夢だったのかだろうか……。
しかしどうして、あの【森谷】の名前を夢で聞かされないといけないというのか。
――森谷一伊は、アタシが今一番大嫌いな会社の同僚(性別オス)だった。




