ページ(9) 考察者
さあ、どうする!3対3とは言っても相手は透明能力と地中を自在に行き来できるモグラの様な能力(地中に引きずり込まれたらどうなるかは分からず。)、そして能力も姿も確認出来てない3人目!
こっちは動物、昆虫を仲間にして指示を出せるケンとその愛犬タロ(タロの能力は今確認してるだけで巨大化くらいか?)、硬化能力と刀持ち(多分、達人級の剣士?)のリンさん、そして時間をスローにする能力の俺(フィジカルでは2人に遠く及ばない。)だ。
姿、能力すら不明な3人目は勿論、他の2人も十分に厄介そうだ!こっちの戦力はオレ以外の2人は間違いなく、かなり強い!!問題はオレがどこまで2人をサポート出来るかってとこか!
『シンヤ!姿を消す敵、姿が見えない敵が3人というのは非常に状況としては厄介だ!ひとまずケン坊に透明能力の相手を任せ、全員、常に足元に注意しながら戦おう!もちろん、相手が先ほどと同じ攻めで来るとは限らないので後は相手の出方待ちになってしまうが。』
リンさんが俺に耳うちでそうコッソリとザックリとした作戦を説明して、更に続ける。
『まずは・・・走れ!!常に足を止めるな!相手の思う壷だぞ!!』
リンさんはそう言うと忍者ばりの俊足で走りだした!!
「はっや!!」
オレも置いてかれるわけにはいかないので走り出す!
忍者とはいかなくても頑張って走る!!
てか、ケンは?
・・・もう走ってる!既に作戦を聞いてるのか、例のアイコンタクトなのか知らんがケンはこれまた例のカブトムシ、ヘラっちを呼び出して飛ばせた!今回は隠密行動させる為か、名前も呼ばずに召喚させている!!そんな事まで出来ちまうのかケンのやつ!!
ヘラっちはあっという間に何かを見つけて飛んで行き、そこへ向かって体当たり・・・はせずに完全に停止した。
やられた!!
オレもリンさんもヘラっちを呼び出したケンもそう思ったはずだ!
昆虫ゼリーだ!昆虫ゼリーがある。何でこんな平原の真ん中に!?不自然過ぎる!ヤツらの誰かが置いたに違いない!!恐らく、それをしたのはヘラっちにぶっ飛ばされた経験を活かした透明野郎だろうか?でもそんな都合良く持ってるものか?案の定、ヘラっちは昆虫ゼリーに夢中だ!食い終わるのを待ってるわけにもいかねーし!
「やべーな、これで透明野郎を素早く倒して、敵の頭数減らす作戦がパァになっちまったけど、2人共どうする!?」
オレが聞くと2人は
『やはり手を打たれたか!』
『まー、同じ手は通用しないかー!それにしてもヘラっち、ゼリー美味しそうに食べてるなぁ♬︎』
めっちゃ呑気だなぁ。余裕あって頼もしい・・・のか?
!!
なんだ!?
走っていたケンの動きが急に止まった!
まさか!透明野郎に捕まった!?
どうする!?ゆっくり考えてる余裕もありそうにねぇ!
くそっ、焦る!!
『にーちゃん!!』
助けを求めてケンがオレを呼んだ!次の瞬間、ケンの姿が消えた!!
やべぇ!!モグラ野郎に地中に引きずり込まれちまった!!
「ケーーーーーーン!!!」
『ケン坊ーーー!!』
オレとリンさんが叫ぶも、返事がない・・・。
「くそ、何とか助けねぇと!!」
オレは掘られた穴に近づこうとした!
突然、大きな声が!!
『近づくなーーー!!』
リンさんの声だった。
『敵はケン坊を人質に私達を地中に誘い込み、罠に嵌める気だ!今近づくと全滅しかねないぞ!!』
た、確かにそうかも知れないが!オレは自分の無力さに打ちのめされて、焦って、感情的になって何も考えずに行動しようとしていた・・・でも普通そうだろ?仲間連れてかれて冷静でいられるかよ!!
「でも!ケンが無事な根拠なんてどこにもねーだろ!?手遅れになったらどーすんだ!!」
そう叫んだオレにリンさんは目を潤ませながら言った。
『私だってケン坊が心配だ!だが、こんな時こそ冷静でないと救える命も救えない!!私も君と同じで怖い・・・怖いけど狼狽えるだけでは何も解決しない。こんな時こそ君と協力してケン坊を救いたい!力を貸してくれシンヤ!!』
彼女は真っ直ぐにオレを見る。今にも泣き出しそうなのを堪えているような顔でオレを見る。
そうだよな、怖いに決まってる。弟のように思ってるケンを目の前で、こんな訳分からない場所で、こんな訳分からない奴らに攫われて!
よし!!
バッチーン!!
オレは両手で思いっきり自分の頬を叩いた!!
それを見て無言で固まってるリンさんに、とびっきりのデカい声を張り上げて言った!
「ごめん!オレがしっかりしなきゃだよな!リンさん、オレも腹括った!自分に出来る事、全力でやるよ!!」
さて、どうする?まずヤツらはどうやってオレらを倒すつもりだ?モグラの能力で地中に引きずり込むのはいいとして、その後、地中でどんな攻撃に出る?地中で身動き取れない相手を一方的にボコるのか?透明のほうはどうだ?透明になるだけが能力なら決定打に欠ける・・・どう考えても3人目の能力が攻撃向きじゃないとチームとして弱い気がする。
モグラ野郎の話が本当なら自分の願いを叶えられる最後の1人になるのがヤツら3人それぞれの狙いのはず。目的達成までの仮のチームで自分達の欠点である決定力をカバー出来る3人目を仲間に引き入れてるはずだ!そいつの能力は何だ?そいつはいつ尻尾を出す?決まってる!確実にオレら3人を殺せると確信した時だ!!
出方を待つのか?・・・いや、待った末にかわしきれない様な強力な能力だったら詰むよな!?
てか・・・
「タロ!本当に3人目が居るのは間違いないんだよな?」
『間違いないでござる!どんな力かまで分かれば良いのでござろうが、残念ながらそこまでは分からないでござる!でも別の3人目の匂いがあるのは間違いないでござるよ!!』
「そうか、分かった!」
だよな、タロの鼻に間違いはないはず。だったら対応は・・・
「リンさん!」
オレがそう名前を呼んだ瞬間だった。
ドーーーーーン!!!
爆発音だ!オレとリンさんの走り抜けた後方から音がしてオレ達は爆風で吹き飛ばされてしまった!!
「リンさん、大丈夫か!?」
オレは彼女の方を見て声を掛ける。
『私は大丈夫だ、君こそ大丈夫かシンヤ?』
彼女は割と平気そうな感じで立ち上がった。流石だな、硬化能力で衝撃から身を守ったのか。オレは今ので足を怪我してしまったみたいだ。血が結構出てるし、足も痛いし、歩けるか分からねぇ。
「大丈夫、大した事ないから心配しなくていーよ!!」
オレがそう言うとリンさんは血相変えてオレの所へ駆け寄って来た!
『シンヤ、足を怪我したのか!!これでは歩けないだろう?』
だよね、この出血ではバレバレだわな。しかし、それよりも!!
彼女はオレより小さいその身体でオレを支えて歩き出した!!
「いや、リンさん!なにしてんの!?こんな事して、2人とも共倒れになっちまうよ!?」
それもだけどオレは女の子に抱えられて歩く情けなさやら、申し訳なさやら、彼女から発せられる良い香りや肌の柔らかい感触、恥ずかしさやら色々な感情でグチャグチャになっていた。
いや、そんな場合じゃなくてマジでヤバいよな!?
「リンさん!」
ドンッ!ドンッ!ドンッ、ドンッドーーーン!!とオレ達の周りの地面から幾つもの爆炎が舞い上がった。
あ、終わったかこれ・・・
おかしいなぁ、マジでこの異星で新しい冒険始まるって、自分が勝手に漫画とかラノベの主人公になったくらいのつもりでワクワクしてたんだけど・・・
なんか短い人生だったなぁ・・・
でも・・・・
・・・・・
オレ、この娘と一緒ならこれで終わってもいいかなぁなんて・・・・
ん?
・・・
それにしても・・・・
爆炎上がってるけど熱くない?てか、爆発って痛いよね?身体とかバラバラになるんじゃないっけ?
うん、普通に身体ある。リンさんも普通に五体満足、いつも通り可愛い、良い香り。
「リンさん、ここ天国?」
『バカな事を言うな!まだ気が抜けないぞ!!』
リンさんがそう言うとしばらくして爆炎が消え、巻き上げられた土煙が晴れていく・・・
「え?何で!?もしかしてこれ、オレら無事なのリンさんの能力??」
オレはボーッと放心状態なのをどうにか正気を保つ為に探るようにリンさんに訊ねる。すると、リンさんは敵に聞こえないように、オレに小声で言った。
『そう、私の能力は、毎日、刀を打った時間に比例して自身の身体を硬くする事ができる。上手く比較対象を例にあげられないが、5分くらいで石ぐらいに、2時間も打てば恐らくスピードの出ている走行中の車にぶつかっても無傷だ。ちなみに今日はここに来る前に工房で4時間は刀を打っていたと思う。』
マジか!超つえーじゃん!!チート過ぎねーか?!
「え!?マジ強すぎじゃん、リンさん!!でも、オレも無傷って事はもしかして?」
『ああ。察しの通り、私がシンヤに触れている間は同じ耐久力を君に付与できる。だから私から離れるなよ?』
スゲーな!ちょっとやそっとの物理攻撃じゃ、やられる心配はねーって事だ!!でもなんか女の子に守られるのは流石に情けねーな(汗)
『シンヤ、私が敵の攻撃に耐える間に敵の3人目の能力及び私達の勝ち筋を見つけて欲しい!見た所、君は洞察力、考察力に優れているようだ。君にしか頼めない事だ!!』
めっちゃ頼りにされて嬉しい半面、めっちゃプレッシャーだ!!
「で、でもよ。もしオレが当てずっぽうの推理して間違ってたらどうすんの?その時はシャレになんないよな?」
『100パーセント当てるのは難しくても、この状況をひっくり返せるちょっとした、きっかけ程度でも良いんだ。大丈夫、私は信じるよ!』
なんか照れくせーけど、そこまで言われちゃな・・・
「よし、分かった。やってみるよ!!」
さて、とりあえず観察だ。ここまでオレらがされた事は・・・
①ケンが透明野郎に捕まる。
②ケンが地中に引きずり込まれる。(これはモグラ野郎の力。)
③単発の爆発攻撃。(これはモグラや透明人間の特性とは違う。しかし、問題はこれが能力によるものなのか、そうミスリードさせて他の能力で騙し討ちする為の、実在する爆弾による攻撃なのか分からないって事だ。)
④複数の爆炎攻撃。(③の爆発と同じく実在の爆弾によるものの可能性も充分に有り得る。こうも爆発を続け様に使う所を見ると、やはり爆発能力を刷り込む為のミスリードか?)
ここまでを見てもまだ敵の3人目の能力を絞り込むのには情報が足りなすぎる。少なくとも《爆発能力》と考えるのは早計だな。むしろそんなシンプルな能力とは思えないから、候補から除外しても良いくらいかも知れない 。
これらを踏まえた上で、次に来るのは何だ!?
!!!
考えている間もなく、次の攻撃が来た!!
これは・・・
へ・・・
ヘビだ!!
オレの足元に物凄く毒々しい、紫色のヘビがウヨウヨと数匹蠢いている!!ゾッとする気持ちを抑えろ!自分でも顔が真っ青になって鳥肌が立っているのを感じる!!
でも、それが敵の狙いの筈だ!!オレを憔悴させるのが敵の目的!パニックになれば一気にやられる!!
深呼吸だ・・・
フゥーッ・・・・
ヒントが来たんだ、爆発の後ですぐさま気味の悪いヘビが出現、あまりに不自然!!ケンが捕まっている事とオレに対しての敵意を見てもケンの使いのヘビじゃない、明らかに敵の攻撃だ。
考えられる能力はザックリ考えて2つ。
1つは創造能力。創造したものを具現化、もしくは呼び出せる。これなら最初にカブトムシのヘラっちを手なずけるエサを瞬時に出せた事、爆発の能力じゃないのなら、爆炎攻撃の時に実在の爆弾が相当な量必要だ。爆弾の量が有り得ないくらいに周到に多く用意されていたであろう可能性、その後の突拍子もないヘビの出現、全てに説明がつく!!
そして2つ目、幻を見せる幻覚能力。オレ達は昆虫ゼリーを食べるヘラっちの姿を見ていた。あの瞬間に既に俺達は当のヘラっち含めて全員、幻覚の術中だった?爆発のほうはリンさんの能力で防いだと思っていただけで実際はそもそもダメージはなく、敵がこっちを絶望させる為に使った単なるコケ脅しの可能性がある。
どちらかと言えば後者の可能性は低いか・・・オレがここまで冷静に考えて辿り着ける答えならそもそも幻覚に惑わされてない、幻覚って分からずにパニくるから幻覚能力は成立するのであって、これでは能力としてあまりに弱いよな?
まぁ、でもそういう油断を誘って別の狙いがある可能性も捨てきれない。
なら・・・
「リンさん!オレの足元のヘビを蹴り飛ばしてくれ!!」
硬化したリンさんの蹴りならヘビに噛まれてもダメージが無い。これでハッキリする!脚に当たった手応えがあれば実在するヘビ、なければ幻覚という事になる!
『分かった、任せろ!!』
リンさんはそう言うのと同時、もしくは言い終わるよりも速くすら感じるスピードでオレの足元のヘビに向かって鋭い蹴りを放った!!
しかし、ヘビも信じられないほどの速さで尻尾を巻いて逃げていく!!
「くそ!これじゃどっちか分からねぇ!!敵もこっちの目論見は分かってるか・・・。」
まぁでも創造能力で実体があると考えたほうが良いだろう、普通に考えたらそっちの方が脅威だ!!
しかし、これ以上相手の出方を見るだけでいいものだろうか?やはり後手に回っている感でどうしても焦る!手遅れになるような事態に、罠にハメられてないだろうか?とは言え、オレは足の怪我の事を考えても動き回るのは無理だし、リンさんから離れたらソッコーでやられるだろうし。リンさんもオレという重りがある以上、素早い移動は無理だろうし・・・。
「オイ!人質取ったり、コソコソ隠れて距離取って攻撃したり、男らしくねーぞー!!出てこーい!!」
オレは半ばヤケクソとも思える見え透いた挑発をしてみた!こんなんで挑発に乗って出てくる相手とはとても思えないが・・・。
『望み通り出て来てやるよ!』
何・・・だと?
意外にも出て来た!!モグラ野郎、そして恐らく3人目の能力者だろうと思われる男が!!
そしてその3人目の能力者の口からは更に意外な一言が!!
「ワシの能力は幻、幻術じゃ!!そしてもうお前らは詰んでおる。勝利を確信したから出て来てやったわい!!」
どういうつもりだ・・・絶対嘘としか思えねぇ!!
なんとか見抜いて逆転してやる!!!
オレは、いや、オレ達は必ずこの3人の敵を倒して生き抜く!!