ページ(6)これからのこと
ケンがムスーッとした顔でオレを睨んでいる。
そしてこう言う。
『にーちゃん、3人でってさ、ひどくない?』
続けざまに違う声がする。
『そうである!拙者を数に入れてないとかヒドイでござる!!仲間はずれは良くないのである!3人と1匹で話し合おうと言って欲しいのである!!』
あ、タロ!
てか、そんなめっちゃ喋る上に自分の意思でグイグイくる犬なんだな・・・
「悪いタロ。そんなつもり無かったんだけど、あんま犬と会話し慣れてなくてさ。じゃあ、改めて3人と1匹で話し合いだ!」
タロは納得してくれたようでお座りの体勢でシッポを全力で降っている。なんだよ、可愛いじゃねぇか!
『では、シンヤにはまた話し慣れていない者と話をして貰うことになるが、いいかな?』
今度はリンさんが口を開いてそう言った。
彼女は自分の前に手をまっすぐ伸ばし、一瞬で鞘に納められた刀をその手に出現させた。オレと同じように媒介を出したり引っ込めたり出来るタイプの能力者って事か。オレに本の出し方を教えられるわけだ・・・
『俺の名は不動・・・武田凛の媒介だ。よろしくな・・・』
刀が喋った!!めっちゃ渋くていい声だ。
いや、犬が喋るんだから刀が喋ってもおかしくない・・・のか??
いや、おかしいよな?(汗)
『見ての通り、本人からも自己紹介のあった通り、私の媒介の不動だ!喋れるがあまり饒舌なほうではない。』
うん・・・そうだね・・・。
「てかさ、もう見ちまったから刀が喋れるって事で良いんだけどさ、おかしくねーか?オレとリンさんの媒介は出したり引っ込めたりできる、でもケンの媒介タロはそれが出来ない。だけどオレの媒介の本に出来ない《会話》がリンさんの媒介の刀の不動とケンの愛犬で媒介のタロには出来る。能力の性質に統一感が無さすぎるっつーの?それともオレの本も喋れるのか?ルール説明が本に書かれてるのとルール説明を媒介から喋って貰うのも違う点だよな??」
『いや、本は喋らないだろ?変すぎる!!』
ケンとリンさんの2人、だけならまだしも犬と刀まで口を揃えてそう返してきやがった!
「なんでだよっ!!」
すかさずオレは2人と犬、刀に向かってツッコミを入れた(汗)
『まぁ、本当のところ私とケン坊にも分からないんだ。何かしらの意味があって人それぞれ能力の特徴が違うのか、能力の成長によって同じような事が出来るようになるのか・・・媒介たちはそれに関しては教えてくれないしな。』
「なるほどな。リンさんとケンに聞きたいんだが、ルール説明のところも違うって事ないよな?人によってルールの内容が違うとかさ。お互いの情報のすり合わせをしとかないか?」
オレは2人にそう提案すると内容を話してくれた。
――――――――10分後――――――――
「そうか、じゃあルールに関しては3人とも違いは無さそうだな。単刀直入に聞くが、2人はルール③の《ポイント》について、《殺し》についてどう考えてるんだ?」
オレがそう言った途端にリンさんの目が鋭く尖った!
『私はそもそも、このよく分からんサバイバルとやらに参加しているつもりはない。今日まで毎日刀を打って必要に応じて敵対する者を撃退して来ただけだし、これからもケン坊を守る為にそうするだけだ。《殺し》なんかするつもりはない。この星に強制的に飛ばされた時点でサバイバルを運営しているゲスには参加者と見られているのかもしれないけどな!』
「なるほど、よく分かった。オレも《殺し》についてはするつもりはない。だけどこのサバイバルには参加するつもりだ!!」
『???』
2人は困惑した様子でオレを見る。
そして今度はケンが口を開く。
『シンにーちゃん、オイラでもこのルールセツメイ?のイミ分かってるつもりだけどさ、《殺し》ってのやらないとポイント?とかいうの、たまらないからその・・・。』
困った顔でケンはうつむく。
『もういい、ケン坊!シンヤ、どういう事だ?何か考えがあるのか?』
今度は焦燥した顔でリンさんがオレに訊ねてくる。
「このルール説明さ、ルール③なんだけど、1人殺すと10ポイントと書かれてるけどさ、これ以外にポイント獲得の方法が《無い》とは書いて無いんだよな。もちろん、《有る》とも書いて無いんだけどさ。
引っかかってんだよな、普通の神経の人間が豪華商品とやらが何かも分からないあんな魅力のないルール説明でポイント稼ぎで大量殺人とか、元いた星に帰る為に10人も殺す事が出来ると思えないし、それで帰って毎日気分良く眠れると思うか?その程度の想像を出来ない人間やイカレ野郎ばかり集めてるとは思えないんだよな。まだ会って間もないけど、ケンとリンさんは良い人だ!」
オレは結構、自信満々に2人に話した。
『なるほど、確かにな。シンヤとケン坊が最初に戦ったという暗闇の能力者も、私が今まで撃退してきた能力者もお世辞にも善人とは言えないような奴らだった。殺し合いをさせたいだけならそういう好戦的な奴らだけを集めるだろうし、こんなルールである必要もないな!運営の気分次第でルール変更があるとも言っていたし、他のポイント獲得方法がある、もしくは追加されてもおかしくないかもな!!』
「そう!今の所、運営の目的も、どれくらいの規模の組織なのかも、何者なのかも分からないけど、その《別の》方法を探そうと思う!!どうかな?」
2人は揃ってコクリと頷き、リンさんが口を開いた。
『では、改めてよろしく頼む。頼りにさせてもらうよシンヤ。』
彼女はまた天使のような微笑みでオレをまっすぐ見てそう言った。オレはキュンと胸が熱くなって、だらしないニヤケ面になりそうなのを我慢して真面目な顔を取り繕い頷く。そして先ほどからの疑問をぶつけてみる。
「なぁ、そういやさっきも思ったけどさ、本当にオレでいいの?もっと強そうで頼りになりそうな奴とか居るかもだしさ?最初の印象じゃ、リンさんて結構用心深い人に見えたし、信用されるには早い気もするし??」
オレが頬をポリポリと人差し指で掻きながら視線を横に逸らして言うと、彼女は再びまっすぐオレを見て言う。
『そうだな、確かに私は用心深いし、はじめから君を信用してた訳ではない。そもそもこんな訳の分からない場所で出会った初対面の人間をすぐに信用しろと言うのが無理な話だ。今でも100パーセントの信用をしてるかと言われたらそうじゃない。・・・でもさっき大男から私を助けようとしてくれていただろう?ケン坊の人を見る目は間違ってなかったと思ったよ。後はこれから見せて貰う!信用は少しづつ積み重ねて得ていくものだろう?』
なるほど、確かにそうだ。少しはオレのことを信じようとしてくれてるのか。てか、あの状況でそこまでちゃんと見てるとこもすごいな。そんで頑張ってるとこ見てくれてるの嬉しいっつーか、照れくさいっつーか。
でも、さっきのオレ、情けなくなかったか?
うん?てか・・・
「オレ、さっき情けなかったよな?てかオレの能力で大丈夫かな?なんか時間遅くする能力発動しなかったし(汗)」
オレはどう考えても2人より弱い自信がある。足でまといにならないだろうか?それが1番引っかかってる。
そんな情けない男の質問にリンさんが薄く微笑みながら答える。
『まず最初に私は君の能力をまだ見たことがないわけだが、恐らく・・・極めれば最強クラスの力だと思う。能力の発動については、クールタイムみたいなものがあって、1度使うと再び使用可能になるまで一定の回復時間を要するんだと思う。君もそうだが私もケン坊も自分の能力と、これから行動を共にする仲間の能力をもっと知る事が必要だろう。そこでだ、これから毎日ここで3人で生活を共にして修行しながらこれからの身の振り方を考えてはどうだろう?』
『イイじゃんかそれ!オイラもガンバルよ!!シンにーちゃんとリンねーちゃんならサイキョーのチームになりそうだし!!』
ケンが飛び跳ねてはしゃいでいる。
なんか流れるように話がまとまりつつあるが、オレの答えはもちろん決まってる!
「ああ、よろしく頼むよリンさん!オレが2人の力になれるように鍛えてくれ!!」
不思議なもんで、なんとかなりそうな気がしてきた!
『さて、まずはケン坊!』
リンさんがケンのボサボサ頭をガシッと掴んで言う。
『もう3日は風呂に入ってないな!?これから風呂を沸かすから入ってもらう!野生の獣のような酷い匂いだぞ!!』
『エエー!?オイラお風呂キライなんだよなー!』
何やら実の姉弟のような微笑ましいじゃれ合いが始まっている。
てか、風呂まであるって、サバイバルのわりにこの工房は充実した建物だな。
「なあ、リンさん。この工房ってそこそこの広さだし風呂もあって快適そうだな?これってさ、何でこんなとこにあるんだ?」
『ああ、私はこの工房で刀を打っている最中にこの工房ごと此処に飛ばされたんだ。元々は私のじぃちゃんの工房なんだけどな、じぃちゃんが居ない間に私だけがこの星に来た。』
まじか!建物ごと飛ばされるパターンもあるんだ!!
数十分そうやって色々会話していると、どうやら風呂が沸いたらしい。
『では、私はこの不潔な少年を風呂で洗ってくる。シンヤも私達が上がった後でゆっくり疲れを癒すといい。』
茶室に案内されたオレにリンさんが柔らかい表情でそう言ってくれた。
『にーちゃん、お風呂上がったら外に探検に出ようぜー!!』
『馬鹿な事を言うな!風呂上がりに探検なんか出たら入った意味が無いだろう!!』
アホな事を言ってるケンがリンさんに怒られている。
てか・・・
くぅーっ!つくづく羨ましい野郎だなケンの奴!!オレももっとガキなら一緒に入れただろうか・・・
オレはそんな邪念を頑張って払いながら考えていた。
やっぱオレ達の能力って、それぞれの《趣味》に関係してるんだろうか?
オレの《趣味》は読書。時間を止めてでも永遠に読んで居たいという気持ちがこの《時をゆっくり進める能力》を目覚めさせたのか?ケンが最初にオレに対してくれたアドバイスからしてもそうなんだよな?
ケンの《趣味》は動物と仲良くすること。どんな動物も手懐けることからしても間違いないよな?
リンさんの《趣味?》は刀を打つこと。触れたものを何でも硬く出来るのはマジで凄い。そして、能力だけじゃなくて武道の心得もある。相当な実力者とみた・・・
うん、ノゾキなんかした日にはブチ殺されそうだ!!ゼッテーやめた方がいいな(汗)
それよりも、オレらの《敵》になりそうな奴らの能力が気になる。
《趣味》なんてのはオレらくらいのものなら人の迷惑になったり、危害を及ぼすものにはなりにくいと思える。まぁ、それも悪意次第でどうとでも変わるんだろうが・・・
オレが最初に戦った《暗闇野郎》は確かに言ってた。《闇は良いよな》って。つまりそれは《闇》が奴の《趣味》だって事だ。そしてそんな野郎には悪意しか感じられなかった。人に危害を及ぼす前提で能力を使ってたって事。あいつみたいにオレらに危害を加えようとする奴らにこれからどう戦って行くかってのが課題になるな。
オレは漠然と考えた。
もし、
もしも、《人を殺める》のが《趣味》なんて奴が現れたら、オレは・・・オレ達は対抗する手段を用意出来るのか?自分のネガティブな妄想に背筋が凍りそうになる。
先の事を考えて不安になっても仕方ないのは分かってる。でも、何も考えずに突き進んでも良い未来が訪れるとも思えない・・・
ここに来て《殺し》というワードを意識し始めてビビっちまったのか?改めて2人の仲間をこれから守っていかなきゃならない重圧にもビビってしまってるのかもな・・・
グルグルと頭の中でループする思考が纏まらないまま、オレは茶室の畳の香りに誘われるように眠りに落ちた・・・・
・・・・
・・・・・
それはそれとして・・・
・・・・
リンさんのお風呂シーンの夢でも見れないかな(笑)