ページ⑸ お堅い天使
ここは・・・
どう見ても、工房?だよな・・・
森の中を駆け抜け、10キロはあったであろう距離を5分とかからずに駆け抜けた恐るべき超速の脚力の持ち主、タロの背中から降りてオレとケンはその建物を見ていた。
なんか、やっぱりヤバそうな雰囲気がするぜ。
ホントに女なのか?師匠ってのは・・・
カーン、カーン、カーン!
やっぱり工房ぽいな!何かを打ち付けている音が響いている。
『にーちゃん、行こう!』
いつの間にか元の可愛いらしい柴犬に戻ったタロと横並びになったケンがオレにそう声をかける。
「あ、ああ!そうだな、色々聞かねーと。」
なんか分からんが、こんな危ない事だらけの森の中に工房があるのもおかしな話だ。こういうトコに住んでるやつは果たしてマトモなやつなんだろうか?
カーン、カーン、カーン、カン、カン、カーン!
進むにつれ音がデカくなっていく。
先行してケンが進み、後をオレがついて行く。
そして、
『リンねーちゃん、今日もやってんなー!元気だったー?』
ケンが入った部屋に数歩遅れで俺が入る。ケンは誰に声をかけたんだ?
ケンの声を発した方向、視線の先をオレも目で追う。
・・・
・・・・・
オレは思わず、はっと息を飲んだ。
目の前には何やら刀の刃のような物を槌で打ち付けている作務衣を着た小柄な少女がいた。身長はケンとそう変わらなそうだ。
ケンの馬鹿でかい声に反応して少女はおよそ鍛冶屋に似つかわしくないその細腕を止めて、頭に被っていた頭巾をファサっと取って、こっちを見た。
オレは放心状態になり一言、
「て、天使だ・・・。」
目の前にいる少女はその辺の街を歩いてるような髪の毛を染めてる女の髪とは比べものにならないくらいに美しく淡いピンク色(桜色っていうのか?)の髪、全く傷んだ様子もない、綺麗なストレートのショートヘアだ。
そして色白の肌、身体の線は全体的に細く、胸はわりと控えめだが、何よりも!!
こちらに向けられた大きく、美しくも儚げな、それでいて意思の強さがうかがえる瞳には、はっと心を奪われそうになる!!
なんてこった・・・
間違いなく、今までオレが会った中で1番の美少女、いや、
天使だ!!
『シンにーちゃん、大丈夫?』
あ、やべ!心の声が漏れてしまった!
ケンがニヤニヤと笑いながらこっちを見ている。
「あ、いや!その、て・・・天井が美しいなーって、アハ、アハ、アハハハ・・・」
オレが苦しい言い逃れをしていると、天使はオレを見ることなく、ケンに対して口を開いた。
『ケン坊!この男は何者だ?あれほど知らない人について行ったら、いや、連れてきてもダメだと言ったろう?!』
可愛い見た目と裏腹になんか武士のように妙に落ち着いていてお堅い喋り方だな。声は透き通った綺麗な声をしている。
『ごめんよ、でもシンにーちゃんはイイ人だよ!信用出来るよ!このホシに来たばっかでにーちゃん何もわからなくてコマってるから、リンねーちゃんならイロイロ教えてくれるだろうって思ってさ、ねーちゃんオイラにヤリの使いかたとか色々教えてくれたじゃん!』
ケンはオレの為に必死に天使の情に訴え掛けてくれている。
『やれやれ、分かった分かった、ケン坊の人を見る目を信じよう!』
『悪かったな、私は武田凛。ここで毎日、刀を打っている。私も何でも知ってるというわけじゃないが、知っている範囲の事で良ければ答えるよ。』
なんか意外にあっさりと切り替えてくれたな・・・
てか、武田凛ちゃんかー!いやー、ほんと可愛いな!天使だなー!!
何て呼ぼうかなー。リンさん?それともリンちゃん?
ん、てゆーか落ち着いてるけど歳いくつかなー?でも女性に初対面で歳聞くのもなー・・・
とりあえずオレも自己紹介しないと!
「いや、オレのほうこそごめん。ケンに無理言って頼んで、アポなしで押しかけるような事しちまった。オレは明鏡心矢ってんだ!歳は23、好きなものは読書だ!ほんとこの星に来てから訳分からん事ばっかりでさ、えとー・・・リン・・・さん?に教えてもらえると助かるよ!」
本当はケンの方が言い出してここに会いに来たけど、この方が印象がいいだろ。
「えっと、早速で悪いんだけど、この異星でやってるサバイバルとかっていうのは何なんだ?リンさんとケンはそれに参加してんのか?てか、参加しないとダメなやつなのか?この星にはどれくらいの人数が来てるんだ?あと、オレやリンさん、ケン、他の能力者の能力はどうやって決まるんだ?誰がオレらに何の目的でサバイバルなんてさせようとしてるんだ?」
矢継ぎ早にゴチャゴチャと尋ね過ぎだろうか?しかし、さすがに訳分からん事が多すぎる!
リンさん(天使)はその小さな唇をそっと開いて言った。
『質問多いな。まぁ、しかし、いずれも当然の疑問だ。ひとつずつ答えていこう。ケン坊、ちゃんと私の言いつけ通り、みだりに初対面の人に自分の手の内を全て見せてなかったようだな、偉いぞ。』
そう言うと彼女はケンのボサボサ髪の頭を優しく撫でた。
やっぱこいつは年上キラーの最強ショタだな!羨ましいっ!!
『ヘヘッ、照れるなー。ししょーのいうことはゼッタイだもんね!』
ニヤニヤと笑ってやがる・・・
てか、ヤリ技とか柴犬タロの巨大化能力とか、動物操る能力とか、色々見せてもらってる気がするが??まだ手の内全てじゃないのか?!
『まず、シンヤ・・と言ったな、君が能力を得た経緯、きっかけとなる出来事があるはずだ、ここに来るまでの経験した事を簡単に聞かせて欲しい。』
リンさん(やっぱりめちゃくちゃ可愛い)は真っ直ぐとこちらを
見て言った。
オレも頑張ってその真っ直ぐな美しい瞳から目を逸らす事無く、見つめ返してこれまでの事を説明した。
表紙の無いの本との出会い、本の1ページ目の円に指差したらこの異星に来てケンと出会い、暗闇野郎に襲われてサバイバルの存在と自分の能力を知った事とかをだ。
『なるほど、短時間で大変な目にあったようだな。つまり、君の能力の秘密はその本にあるわけだ。今は当然出していないようだが、本をまず出してみてはどうかな?』
「あ!そう言えばオレにとって大事な本のはずなのに何処にも無い!やべ、どうすりゃ・・・え?てか今、出してみろって言った?そんなポンポン出したり引っ込めたり出来るもんなのか?」
リンさんの問いかけに若干焦ったオレだが、何故だろう?不思議とどこかへ置いてきたとか無くした感覚が無いのだ。妙な安心感がある。出せる??
『簡単だよ、また本を出したいと思ってイメージするだけだ。』
リンさんの言った通りにイメージしてみる・・・
出た!!
魔法の書を出すような派手な演出などなく、スっと一瞬で手のひらに本が乗っている。
「出た、こんな簡単に・・・」
『君が見たのは1ページ目だけだろう?だったらその本の2ページ目から先も見てみるんだ、私はその本を見ないようにするから。』
考えたらこの本めっちゃ読みたいと思ってたのに1ページ目の円のとこ以降はまだ見てねーじゃねぇか!
本をめくる。2ページ目に書いてあった内容・・・
惑星タックOへようこそ。
あなたは選ばれました。この星で行われるサバイバルの参加者になれたのです!とっても幸運ですね!おめでとうございます!!
豪華商品も用意されてますので思う存分お楽しみください!!
ー ルール説明 ー
①期限は無制限。
運営がもういいやってなった時点で終了ですので思いっきりこの星を探索してください!食糧、寝床は各自、現地調達!まーサバイバルですから当然ですよね(笑)
②ポイントを貯める。
基本的に皆さんにはポイントを貯めてもらって、最終的に一番ポイントが高い順・・・何位までがいいかな?はっきり言わないほうがいいかな、その方がスリルあるよね(笑)まー、豪華商品が貰えるので張り切って貯めてくださいね!!
③ポイントについて。
ざっくり言うと参加者1人狩る(殺すってことね!)ごとに10ポイント入ります。ポイントの貯まり具合はそれぞれのアイテム(あなたの場合はこの本の3ページ目)に表示されるので気になったらチェックしてみてくださいね!
ちなみに現在の参加者数は3265人。足りなくなったら補充するので、この人数に関しては知っても意味ないかも(笑)
④辞めたくなったら。
100ポイント貯めた時点でいつでも辞められます。でもオススメはしません!ポイントは100ポイント支払うカタチになりますのでマイナス100ポイントですし、二度とここへは帰って来れません。せっかくだから豪華商品ゲットしないと勿体ないよね!!
⑤レベルアップ。
辞める時と同じく100ポイントを使用して自分の能力をレベルアップさせる事が出来ます!それぞれレベルアップの効果は違うのでお友達に聞いても意味ないです(笑)あと、レベルアップした分強くなるけど、使いすぎると上位にランクイン出来なくなるので気をつけてください。
⑥能力について。
このルール説明は能力を1度でも使った事のある人にしか現れないのであなたは既に能力を使える人という事になります。能力はあなたのルーツに深く関わったものになります。あなたの場合は「本」です。能力も1つとは限りません、色々捜してみましょう。
以上。
(ルールは運営の気分次第で追加される場合があります。)
・・・・
なんじゃこりゃー!!
「なんじゃこりゃー!!」
あ、心の声がそのまま出ちまった!!
『ルール説明でも載っていたか?』
リン天使が冷静に俺に尋ねる。
「ああ、ふざけたルールだぜ。内容もだけど、この運営ってやつのルール説明の言い回し、遊び感覚ってか、人をバカにしてるとしか思えねぇ!かなりのサイコパス野郎が考えたルールだな!!第一、豪華商品とか胡散臭い上にザックリすぎて説明になってねーし、こんなのでやる気出すやつが居るとは思えねぇ!!」
ん?じゃあ・・・
「リンさんとケンもこんな感じの本に書いたルール説明を読んだって事か?」
『本ではないけどな、君の場合は能力が本を媒介にした物だから本に記されていた、ケン坊も私も違うそれぞれの媒介からルール説明を受けたんだ。』
なるほど、最初に能力を使った時も本を出して発動したから能力の発動には本を出す必要があるのか。
「ちなみに2人の媒介は何?」
やっぱり気になるので聞いてみた。もうオレは【質問好きのシンヤ】とか変な二つ名を付けられそうなくらいにここに来てから質問ばっかりだ。
すると2人は顔を見合わせてコクリと頷く。そしてリンさんは言う。
『それこそがケン坊、ひいては私、他の者にも言える事だが・・・君は信用できるという前提で話す。さっき言った手の内の全てという事に直結するんだが。』
今度はケンが口を開く。
『バイカイとかって言い方はイヤなんだけど、その言い方で言えばそれはタロだよ!!』
え!?
「それって・・・」
『ああ。実は拙者、喋れるのである!拙者の口からケンちゃんにはルール説明をしてあげたのだ!!』
可愛い声で拙者とか、これまたお侍さんチックな喋り方の・・・
柴犬ーー!??
マジか・・・
タロ・・・お前、巨大化だけじゃなくて人語も喋れるとか、ご主人のケン同様、お前もチートすぎだな!!
てか今の、オレの本に書いてあったルール説明の内容とほぼ同じものを愛犬の口から聞くってさすがにキツくねーか?
ん?愛犬??
それって・・・
『・・・』
「わっ!」
オレはつい顔を赤らめてしまう。何故ならオレの顔をじっと見つめる超絶大天使リンさんの視線が眩し過ぎたからだ!!
『気付いたようだな。そう、君の媒介はある日出会った不思議な本。だがしかし、ケン坊の媒介はもう数年飼い続けている自分の愛犬だ。大きな違いはそこと、君の場合は好きに出したり引っ込めたり出来る本。だがケン坊は愛犬を好きに出したり引っ込めたり出来る訳じゃない。それどころか出来る限り戦闘にはタロを巻き込みたくないと考えている。』
「なるほど、ケンはタロが居ないと能力が使えない。それはちょっと悪いやつが知っちまえばタロを連れ去るとかだけでケンの能力を封印出来ちまう!!」
「だからケンに槍の使い方を教えたのか!!」
『そう、護身の為だ。私はこんな小さな子が1人でサバイバルしているのは耐えられない!一緒に住もうと言っているのだが・・・』
ケンに視線を送るリンさんに槍を構えたケンが言う。
『だ、大丈夫だよ!リンねーちゃんに習ったヤリで、もうオイラ、たくさんの人を追い払ってきたから!!』
すかさずリンさんは言葉を返す。
『ケン坊、今まではたまたま運が良かっただけかも知れない。これからもっと狡猾で残忍でかつ、強い奴が現れたら対処出来るか分からないんだぞ?私はこのわけの分からない場所で出会った唯一の友人で、可愛い弟のようなお前を失いたくないんだ!』
『さて、シンヤ!そこで君に提案だ。私とケン坊の為に戦ってくれるなら私は君にどんな協力も惜しまない、望むものも出来る範囲でなら譲渡すると約束しよう!』
覚悟を決めたという感じの力強く真っ直ぐな眼差しでリンさんはオレを見る。この目で見られたら断るのは容易ではないと感じた。初対面のオレに協力を求めるっていうのは、よほど切羽詰まっているんだろうな・・・
「そういうことなら、い・・」
オレが返事を返そうと言いかけた瞬間の事だった!
リンさんの目の前に突然、大男が現れた!!
「な!?」
オレは意味が分からず口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
『よう、ねーちゃん!お前を連れて来いってあるお方の指示でよう!ごちゃごちゃ話す気もねぇからヨ、力づくで連れてかせてもらうぜぇ!!』
見るからにガラの悪いこの大男は何か瞬間移動的な能力の使い手なのか?一瞬でオレ達の前に現れたのもびっくりだが、どう見ても野蛮で友好的な雰囲気とは言い難い感じだ。さぁ、どうする?!
『丁度いいな、私の能力を見せよう。百聞より一見だろう。』
リンさんは名前の通り、凛とした雰囲気で言った。
オレが本当にびっくりしたのは次の時間だった!
『ナメてんな、ねーちゃん!見せてみろよ、能力とやらをよォ!!』
大男がキレて拳を振り上げる!
やべぇ、助けねーと!!間に合うか!?
オレは代わりに殴られても良いくらいのつもりで二人の間に入ろうと飛び出した!
・・・
ダメだ、間に合わねー!!おかしい、時間をスローにする能力が発動出来てねー!!
ガキィン!!
くそ、間に合わなかった・・・
ん?
なんか今、変じゃなかったか??
『イッテェーーー!!痛ぇーよぉぉぉぉおおおー!!』
大男の手が真っ赤に腫れ上がってズタボロになっている!拳が粉砕したっていうような見るも無惨な状態だ。
なんか音も金属のようなガキィン!!ていってたような・・・
『手加減、手加減・・・』
リンさんがブツブツと独り言を言っている。そして、大男に向けてゆっくりと掌を前に出し、一瞬手が消えたように見えた!多分、恐ろしく速い掌底打ちを大男の腹に当てたんだろう。
『うおおおおおおおーー!!』
ガッシャーン!!
マジか!リンさんの3倍はあろうかと思えるほどの大男が部屋の壁を派手にぶち破って叫びながら遙か彼方へとぶっ飛ばされて行った!!
冷静かつ、冷淡とも見える美しい顔でリンさんは後ろでヘタリこんでいるオレの方を振り返り見て言った。
『私の能力は物を硬化させる事だ。今のところ、私の身体のどの部位でも硬化可能、私が触れた物質なら触れた時間に比例して硬さと硬化時間もどんどん上昇する。どうだろう、邪魔が入ったが改めて返答を聞かせてくれ。お互いの自衛の為にも悪くない提案だと思うが?共に戦ってくれないか??』
最後の言葉を言う時にはまた天使のような優しい微笑みをリンさんはオレに向けてくれた。
オレには断る理由なんてない。むしろオレの力だけじゃ
出来る事なんて知れてる。こんな強い女の子がオレを頼ってくる理由を知りたかったし、単純に嬉しかった!
「ああ、こっちからもよろしく頼むよリンさん!これからの事を3人で話そう!!」
不安と期待に心震わせながらオレは彼女にそう言った。