異世界召喚されて戦っている私の話
勢いで書いたので、勢いで読んでください。
(訳:細かい事は気にしちゃダメ)
異世界。
聖女召喚。
悪役令嬢の運命回避。
イケメンたちから総愛されコース後にメインヒーローの溺愛ルート。
チート無双に無自覚無双。
夢見たわよ。
ネット小説を読みながら「聖女として召喚されないかな?」とか「オマケで召喚されて、聖女とか神子よりイケメンに溺愛されちゃったりして」なーんて夢子な事を妄想したわよ。
ええ!ええ!夢が叶って召喚されましたとも。
半分ね!
「いくぞ!みんな!」
「オッケー、リーダー!」
「ぶちかましてやるぜ!」
「いやーん、敵さんいっぱ〜い、いるよぉ」
ひらりと着地したのは、駅の屋根の上。
高さで言えば百貨店の2階ぐらい。
「どうした、ホワイト。元気がないぞ」
「お気遣いなく。ちゃんとやりますので」
隣のブラックが話しかけてくる。
アウトローな強面だが、一番気遣いができるオカン体質だ。ギャップ萌狙いなんだろうが、グループの中で1番好感が持てる。
さぁ、カウントいこう。
先ずはブルーが片手を突き出して「待て!」のポーズ。
「そこまでだ!悪党共!」
振り返る敵さんの中でも一回り大きな怪人が「誰だ!?」とお決まりの台詞を叫ぶ。
すかさずグリーンが腕組みして斜に構える。
「問われれば名乗らぬわけにはいくまい」
続いてイエローがしゃがんで右手を水平に薙ぐ。
「悪に鉄槌を下す為に!」
引き継いで私、ホワイトが鞭をピシリと打ち据える。
「聖獣王より遣わされし我等七獣神」
雰囲気を一気に変えてピンクがくるりと一回転して可愛く指差しポーズ。
「聖獣王様に変わってめっ!ってしちゃうぞ♪」
凶悪な笑顔でブラックが両手を組んでボキボキと鳴らす。
「さぁ、ショータイムと行こうか」
そして、締めのレッドが片手を腰に当てて片手で敵をビシッと指差す。
「我等の牙から逃れられると思うなっ」
一呼吸置いて名乗りと個々のポーズを決めます。
「荒磯の王者!シャチ・ブルー!」
「草原の王者!エレファント・グリーン!」
「密林の王者!タイガー・イエロー!」
「湿原の王者!スネーク・ホワイト!」
「荒地の王者!パンサー・ブラック!」
「花園の王者!ハニービー・ピンク!」
「大空の王者!ファルコン・レッド」
最後は呼吸を揃えて、参ります。
『牙獣戦隊ビースト・ファング』
チュドーンと噴き上がるカラー煙幕を背景に団体ポーズが決まった。
湧き上がる羞恥心を押さえつける事にも慣れた。多少の手の震えはご容赦ください。まだ始めて2ヶ月の新人ですので。
これで今日の仕事の7割は終わりです。
後は怪人を倒して、最後の足掻きで巨大化した敵さんを獣神機ビーストで叩きのめしてお終いです。昨日編み出した新技をお見舞いしてやんよ、です。
巨大化すると自然破壊とか器物損害とか、マジで迷惑だと思うからやめて欲しい。なのに必ず巨大化する敵。マジで害悪。
いくらここの住人が身体能力が優れて、技能が優れて、壊れた建物が2〜3週間で建て直されると分かっていても。
せめて最速でやっつけようと心がけてます。
「おつかれー」
「お疲れさん」
「つっかれたぁ」
「お疲れ様でした」
「うっス」
「お疲れ様」
「おっつー」
それぞれ挨拶を交わしながら、リビングにある各々の椅子に座っていく。
終わってからのミーティングという名の反省会である。
「みんな、今日もお疲れさん。細かい動きで気になる箇所はあるけど、まぁ上手く連携できたと思う」
リーダーの赤羽くんの進行でミーティングが始まる。
「黄原さん、前に出過ぎなんで気をつけて。孤立しちゃうと怪我が増えるからね。逆に桃瀬さんはもう少し前に出ようね。映らないよ?」
個々への注意事項を伝えてくる。
熱血感かと思いきや、赤羽くんは意外と委員長属性だった。
「白井さんはまだ照れがあるね。2ヶ月経つんだからそろろ羞恥心は捨てようね」
抑えるのは出来ても羞恥心は捨てたくありません。赤羽くんは真っ先に捨ててたわよね。すっごーい、ソンケイするわー。
「目が死んでるぞ」
「ほっといて」
黒滝の指摘に軽く手を振る。
赤羽くんの熱量は時としてうざったいので流すに限る。
「はい、はーい。それじゃ、明日も頑張って戦っていっきましょーー!!」
甲高い声で締めるのは翼が生えた子犬のポロ。
私達を召喚した聖獣王サマのペッ……お使い?御使?らしい。
私は、実はコイツが聖獣王サマなんじゃないかと疑っている。怪しい言動はいくつかあるんだけど、決定打はない。
実は……って、終盤で正体を明かすやつじゃないかな。
解散となり立ち上がるとポロと目が合うとあざとくウィンクされた。
確定っぽいなぁ。確証はないけど。
さて。私達が召喚された経緯をお話ししようと思う。
まず、ここはネルデイバーという星で、なんと地球から何億光年も離れている銀河系の中にあるらしい。
地球よりも高度な文明だけど似てる部分も多くて暮らすのに支障はない。宇宙技術が発達してるから、お金持ち限定で個人所有の宇宙船とかあるし、民間企業の船で惑星間飛行も出来る。
私達が乗る獣神機ビーストもそんな最先端技術が使われているらしい。機械は良くわからない。男子の食いつきは凄かった。変形ロボは男のロマンなんだって。
そんな科学が発展した世界を治めているのが聖獣王サマ。なんと、この星は獣の特徴をもった獣人しかいないの。
聖獣王サマは百年に一度力が弱る時期があって、その時期を狙って他の星からやってきた敵を迎撃する為に召喚されたのが私達というわけ。
現地調達すればいいじゃない。と思ったんだけど、獣心というアイテムに選ばれると能力値が格段に上がるんだって。チートってやつ?黄原くんが騒いでた。
私達の使命は、聖獣王サマが完全回復するまでの1年間を敵からこの星を守る事。それが終わったら、ちゃんと地球に帰してくれるってやくそくもしている。
貴重な獣人を捕らえて売り捌こうとする敵の名前は『ミッツ』と『リョーシャ』兄弟が率いる『ミッツ・リョーシャ団』。………コメントは控えよう。
襲いくる捕獲ロボや怪人たちと戦い、捕縛して獣王様に引き渡すのが私たちの使命なのです。
あ、獣王様は聖獣王サマとは違うのよ。王様と神様な感じらしい。ちなみに獣王様は愛らしい柴犬みたいな獣人でした。
ここで獣心に選ばれたメンバーを紹介しよう。
ファルコン・レッド、赤羽 俊一。
シャチ・ブルー 青岸 弘海。
エレファント・グリーン 緑山 聡。
タイガー・イエロー 黄原 虎次郎。
パンサー・ブラック 黒滝 彪。
スネーク・ホワイト 白井 幸。
ハニービー・ピンク 桃瀬 羽衣。
以上7人の日本人。
なぜみんな日本人なのかは分からない。偶然かもしれないけど、私は戦隊物に対する理解力のせいじゃないかと思ってる。
日曜日にやってる戦隊物って知らない人は少ないんじゃないかな。今何のシリーズかは分からなくても、戦隊物っていうジャンルは知ってる。イケメン俳優さんも多数出演してるしね。受け入れやすいんじゃないかな。
まぁね、色々ツッコミどころは多いと思うのよ。
牙獣戦隊って名前もなぁ…。
ファルコンって鳥じゃない?とか、蜂は昆虫でしょ?とか、蛇は爬虫類じゃんとか、思うんだけどね。
ポロ曰く、ファルコンは嘴があるし、この世界の蛇には鋭い牙があるし、ハニービーは動物だと言う。え?ハニービーって蜂じゃないの?と聞いたら実物を映像で見せてくれた。
一言で言えば、ハニービーは蜂のコスプレした熊だった。
その熊の顔が、北海道の果物とコラボした熊と似ていた……。見たら大半の子供が泣くタイプの熊。
桃瀬ちゃんは見た瞬間にディスプレイ画面を秒で割った。
大きさ30cmもある血管が浮いたような顔面の熊に蜂の羽が生えてお尻部分に針が出てたら怖くない?手足には凶悪な爪も生えてるんだよ?怖いよね。
一応みんなの動物も見せてもらった。所々違うけど、ハニービーほどではなかったのでほっと息をつく。
後日、黄原くんの犠牲により、それからは誰もハニービーについて桃瀬ちゃんには言わなくなった。触れちゃいけない事ってあるよね。男子は情緒をもっと学ぶべきだと思う。
白蛇は思ったよりも口が大きくて細かい牙がびっしりと生えていたけど、蛇だった。良かった。……良かった?
そんな訳で、日本人で構成された牙獣戦隊ビースト・ファングです。よろしく。
ピンポンパンポーン♪
ゆるいチャイムと共にポロの明るい声が寮内に響く。
『北区域、紫陽花通り商店街に怪人が出現。至急出動されたし。婦人ブティックのアーニャさんが捕われてるみたいだよ。救出急いでねー』
この放送に気が抜ける事も無くなった。
走りながら、手に嵌めた時計型の獣心アイテムで変身して移動用の飛行船に乗る。
見た目楕円のUFOなんだけどね。
「みんな乗りましたか?今回こそは撮影班を追い抜いて1番乗りしますよ!」
操縦するグリーンが檄を飛ばす。
離陸と共に飛行機よりも速いスピードで飛ぶ。
撮影班とは、文字通り、私達が怪人を捕まえるのを撮影する人達の事である。
私達の戦いは撮影されて、各家庭に映像配信されているらしい。たまにライブ中継もやっているとか。
テレビ局みたいに映像を配信する民間企業が営業に来た時はかなり驚いた。ポロがマネージャーの役目をしてくれ、変身前の姿は撮らないとか、色々規約を決めたんだよね。
そこで演出として名乗り後の爆発とかやってくれる事になってさ、本当に特撮の撮影みたいなの。
そういう企業からの契約金と公的機関からの支援金で私達の生活は保障されてるらしい。
裏側を知った気分。大人の事情ってこんなやつ?
商店街の上空。移動UFOから商店街に飛び降る。
パワースーツって凄いよね。100m落下しても無傷で衝撃も少ないの。
慣れるまで時間かかったけどね。
折よく、ブティックを占拠している怪人の前に降り立ったみたい。捕まったおばちゃんが手下をバシバシ叩いてる。
騒ぐ怪人たちを前にいつものやつ行きますか!
気合いを入れる中、私たちの後ろで演出準備に取り掛かる黒子ちゃん達。
残念。今日も撮影班の方が速かった。悔しがるグリーンの名乗りはやけくそ気味に気合が入っていた。
さあ!今日も頑張って働こう!
『牙獣戦隊ビースト・ファング!参上!』
ーーーーーー契約終了まで後10ヶ月。
お読みくださりありがとうございます。