初めの一歩
俺は中学3年生受験生だ。
「この一年間でお前の人生は大きく変わる。」親や先生はそんなことを口癖のように言うが、そういわれても正直ピンとこない。だから勉強しない。だってそうじゃないか、俺はつい3年前までは小学生をやっていたんだぜ、社会のことなんか全くわからないし、目下の心配事といえば「明日の給食におでんが出ないといいな~」とか「今日の放課後は何をして遊ぼうかな~」っだったんだ。
そんな奴に3年後には「明日からお前は受験生だ。頑張っていい高校はいれよ。」なんて世間は言うんだ。こっちとしてはたまったもんじゃない。
「お~い、何こんなところでふてくされているんだよ。」
「ああ、ちょっと受験について考えていたんだ。」
「ああん、受験?なに馬鹿なこと考えてるんだよ。どうせ、どっかは入れるんだし、それでいいじゃん。」
この男はの名前は伏川竜生、俺の同級生だ。俺とこいつの関係は一応友達ということになっている。正直、こんな猿と同類扱いされるには癪に障る。が、単純な暴力によって支配されているヒエラルキーの中じゃこんな奴がトップに立ってしまうらしい。
「お前は馬鹿だから知らないかもしれないけど、旭丘は学力何とか・・・・まあ、テストみたいなやつがないらしいんだよ。ま、それでもお前は馬鹿だから面接で落とされるどるけど。」
ンなもん知ってるよ。俺は神妙な顔をしたまま腹の中で舌打ちをした。馬鹿にバカにされることほど腹が立つことはない。出来ることなら今すぐにでも、こいつの顔を殴ってやりたい。だが、俺は後先考えずに突進するイノシシではない、理性に縛られた人間なのだ。
「いや何言ってんの。俺天才だから次の定期テストとか満点とっちゃうから。」
「は、バカも休み休み言ってくれよ。お前はただでさえバカなんだから。なんたってバカなくそ陰キャの前越よりもテストの点数が低かったんだぞ。」
マジで殺してぇ。感情を理性で無理やり抑えなが心の中で呪文のように唱えた。この猿は数字も読めないのではないだろうかと疑ってしまう。こいつのテストの点数は俺はおろか、あの前越よりも下なのにまるで自分の方が頭が良いと本気で思っている。
「お、竜生に康太じゃん。何やってんの。」
そう言って話しかけてきたこの男の名前は當間克己、俺の目の前にいる猿とは違って、こいつは理性と知性を持ち合わせている、このグループでは珍しい存在だ。
「おう克己、聞いてくれよ。こいつなんか受験のことで悩んでるらしいんだ。まあ、こんなバカが今更勉強したってどこの高校にも入れないだろうけどさ。」
「へ~受験のことで悩んでるんだ。まあ、そんな真剣な顔で悩むもんでもないだろう。そんなことより今夜もパーティー組んでやろうぜ。」
「いいじゃん。実は俺この前車のスキン当てたんだよね~。あ、康太お前は来ても入れないからな。お前はバカだからゲームなんてやってないで勉強してろよ。」
お前らはどうしてそう、いつもいつも誘惑を作ってしまうんだ。俺はいま受験のことで悩んでるというのに。いや、本当はわかってるさ。「今勉強しなくても明日がある」って思ってしまっていることに、実はそこまで本気で悩んでいないということに。けど、それでも・・・それでもいつかは越えなければならない壁があることを俺は理性で感じているんだ。
「ああ、分かった。じゃあ俺勉強するよ。」
これが、俺の受験戦争のはじめの一歩だった。