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6話 存在しない存在


 「先の補充部隊襲撃作戦時の際に我が制空軍に打撃を与えた敵エースが存在しない。だと?」


 帝国バーウェア制圧方面軍の簡易司令室にいる年老いた総司令官が諜報員長の報告にそう尋ねた。


 「現段階の報告では。です」

 眼帯をしたいかにも歴戦の諜報員のような姿をした諜報員長がそう答える。


 「どういう事かね。分析官、説明を」

 総司令官の言葉に、脇に控える分析官が眼鏡をクイッとして口を開く。


 「ハッ。分析室としては厳重な情報統制がなされているものと思われます」

 「厳重な情報統制? 敵の士気は著しく低下しているとの事だったが、奴らに可能なのかね?」

 総司令官の訝し気に尋ねるが、分析官は物怖じせずに答える。


 「はい。先立って敵駐屯地に大規模な憲兵隊が到着して来ているとの事で、我々はこれを統制の為だと判断しましたが、ここに来て見方を変えるべきだと判断しました。

 総合的に判断して、敵は精鋭部隊を学院からの学徒部隊という欺瞞情報を流していた。と判断します」

 「学徒兵ではなく、精鋭部隊? それなら敵第3方面軍ではなくルーシャー島へ配備されるのではないのかな?」

 分析官の言葉に、総司令官はそう反論をする。


 「いえ、敵は大規模な反攻作戦の要に成り得る部隊を第3方面軍に配備しているのです。それを悟らせない為に学徒兵の補充員であるという欺瞞情報を流したのです」

 その分析官の判断に、諜報員長は相槌をうつ。

 「なるほど……だから我々の襲撃部隊は撃退された。と。そうなれば我々の掴んだ情報の『補充員である学徒兵らは後方勤務に就き、基地内の掃除や警備に従事している』や『敵陣営の動きは極めて静か。あたかも襲撃を撃退した等なかったかのように振る舞っている』『敵は先の襲撃を小規模な物だと思っている』という情報も……」

 「はい、おそらく敵方面軍の兵員達に正式な発表はされておらず、そのように流しているのでしょう」


 「大規模な反攻作戦の為。にか」

 諜報員長と分析官の会話に、そう締める総司令官。


 「やはり貴官は優秀な分析官だ。いやなに、士官達の中で良からぬ噂が立っていてな」

 総司令官はそう年老いた顔を綻ばせて言う。


 「『敵はあまりにも馬鹿過ぎて我々の攻撃を認識すらできていない』等と言う唾棄すべき楽観主義が蔓延っていてな。こちらとしても対処に困っていたのだよ。これで引き締めができる。礼を言うぞ。分析官殿。下がって良し」

 「いえ、我々は我々の仕事をしたまでです。では……」

 そう言って分析官は下がる。


 「引き続き、情報収集を頼む。憲兵隊が続々と到着していてやりにくくなっているそうだが、それでも可能な限り情報を頼む」

 「はっ。帝国勝利の為に尽力いたします」

 敬礼をする諜報員長。

 「うむ、グードリエルの祝福チートが貴官にあらん事を」

 総司令官はそう言って敬礼をする。



 二人が去った後、総司令官は一人、司令官室のテーブルにある古い書類を整理する。


 「存在しない存在。か。まんまと引っかかる処であったわい」

 年老いた総司令官はそう苦笑交じりに感傷に浸る。


 「まさか敵が思わぬ精鋭を隠し持っているとは」

 一枚一枚、書類を整理してそう呟く。


 「それにしても、まさか学徒兵と欺瞞して人員を移動させるとはな……やはりプロターゴは油断できん大国だ」


 ふうと息を付く。


 目線は2つの作戦計画書に移っている。


 「だが、それも長くは持つまい」

 次の作戦で敵国民の士気を攻撃し、動揺の隙をついて敵第3方面軍を撃破し、混乱の渦中である首都を一挙に占領せしめる。そうすればプロターゴといえど組織的な反攻は不可能となるだろう。

 そう、総司令官は考えていた。


 その作戦計画書にはこう書かれていた。



 『フェッルム作戦 第2作戦 バーウェア戦略的爆撃計画』、『フェッルム作戦 第3作戦ソーニッジ攻略作戦』と。





 つづく。

なろう特有の無能な敵回でした。

思い込みによる作戦立案は大変危険なので皆さまも気を付けましょう。


20 10/1 加護を祝福に変更しました。

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