4話 そして1話へ……
そんな訳で次の日。今日は前線基地への移動だ!
今私達はバーウェアにいる。まぁ正確には近郊のバーウェア王立魔法学院なんだけどそこから北西のソーニッジという地域に陣を張ってる第3方面軍に行くよ。
このソーニッジ地域はバーウェアやリーワースへと繋がる大事な要所であり、ここを守護する第3方面軍が敗れればリーワースやルーシャー島の防衛隊が孤立して、今までバーウェアが帝国の空襲を免れていたのはこの2つの拠点が攻撃を吸収していたからであり……
まぁつまりこのソーリッジ地域の第3方面軍が敗れたらバーウェアが超危ない。そしてバーウェアが落ちたらこの国は負ける。
うん、でもなんか南のなんとかって都市に遷都するとかいう話はチラホラ出てるけど、まぁ大体負けだよね。私達学生すら動員するんだから、兵力どうすんだって話。
とりあえず分かりやすいように地図をどうぞ。
本当はもっと軍団がいたんだけど、帝国の急速進攻により撃退されて今後方で再編中、他の軍団も今急いで集まって来てるんだけど、もう少し時間が掛かるらしい。
それでそれまでの応急的な処置として学院の生徒たちが駆り出されて編制されたって話。
うーん、なんか詰んでる気がする。
<おい、リーナ。話聞いてんのか>
<あ、ごめん。聞いてなかった。もう一回お願い>
同じ部隊のエルヴァンから声を掛けられる。
<ったく……飛行中で上の空かよ……>
<やーごめんごめん。で、何?>
エルヴァンが呆れた声で言う。
≪何? じゃない。誠実04が箒の不調で降下してる。05が支援に向かったが、留年隊は彼等の護衛と先導を行う様に。わかったか?≫
引率の先生の声が通信で入る。若干イラついている。
<こちら留年01了解しました。オネスト04・05と合流し、点検が済み次第本隊と合流します>
<返事はいいんだよなぁ。リーネは>
<飛行能力だっていいと思うんだけど?>
エルヴァンの茶々に、私が反応をする。クスクスと留年隊の皆が笑う。「まぁ確かに」「リーネさん上手だから01だしなぁ」という声が聞こえる。
≪はぁ……分かったらすぐ行け≫
こうして私達はオネスト04と05を護衛する為に向かう。座標等の情報は既に送られている。
魔法の力により、眼前がディスプレイ状になり地図や対象の座標等が表示されるように映る。すごく便利である。
これも箒と連動されており、乗れば表示される。実にデジタルな感じである。大変良い。このシステムを構築した人を崇めるべきだと思う。
<それにしても、オネスト04と5が不調? 敵前逃亡じゃないのかよ?>
<それは俺も思った、逃げる算段してるんじゃないのか?>
<誠実に限ってそりゃないだろう>
隊員の中でおしゃべりが始まる、話題はやはりオネスト04と05の話だ。
どれがどう。という訳ではないが、誠実と優雅部隊はいわゆるエリートな生徒が宛がわれる。
そんなエリートに、底辺部隊である留年隊が向かうのは良くないと思うが、留年部隊が一番後ろを飛んでいるのだから仕方ない。
<この動きからして本当に箒の不調かもだよ? 逃げるのならトップスピード出すと思うし>
私は、魔法ウインドウに移るオネスト04と05の動きを見てそう言う。
<違いねぇ。さっさと04と05を見つけて合流するぞ>
珍しくエルヴァンが賛同してくれた。
そんな訳で私達はオネスト04と05を見つけた。予定されたコースを少し外れた処に、04のシャロディと05のゴドウィンがいた。
「もう!なんでこんな時にメイン・コアが不調になるのよ!!」
「そう怒るなシャロディ。これでどうにか飛べる」
怒っているのがシャロディさん。たしなめているのがゴドウィンである。
シャロディさんは名門の貴族の人で、見た目と口調からして高慢な人である。でもこれでも1年の頃に許嫁の人に婚約破棄されて反省して真面目に学業に打ち込んでいたのだが、今回は御国の為にやる気満々で参加していたのだ。
ゴドウィンも武人の子で、真面目な人で成績も中の上。飛行能力も高いが、じゃんけんで負けて05になったらしい。
「よう、ゴトウィン、逃げたかと思ったぜ」
エルヴァンがそう言って地面に降りる。
私を含めて留年隊の面々も降りる。
「エルヴァン。武人に逃亡等ないと言った筈だが」
「いや、お前の事だから女を連れて逃避行とかしそうだからな」
「なにぃ!?」
「悪い。お前にそんな器用な事できないか」
ちなみに、エルヴァンとゴトウィンは昔からの友人で、こんな風に揶揄っては怒る感じになっている。
<こちら留年01。オネスト04と05と合流しました。これよりそちらに向かいます>
そんな訳で先生に伝える。
………
返事がない。
一瞬、「なにをぉ……」と喧嘩腰になってるゴトウィンと、「ハハハそう怒るなって」とじゃれてるエルヴァン達を見る。
<こちら留年01。先生。聞こえますか。先生?>
その様子に、留年隊の面々が気が付く。
「どうしたリーネ。トラブルか?」
エルヴァンが尋ねてくる。
「うん、先生と通信が繋がらない」
「……そいつは」
エルヴァンが目を見開く。
「? ただの通信魔法の不調ではないの?」
シャロディさんがそう不思議そうに言う。
「距離が離れるとそういう事がある。そう習っただろう?」
ゴドウィンもそう言う。
「だといいんだけど……そうじゃなかったら困った事になってる。各員、箒に乗って。戦闘警戒。護衛対象のネオスト04と05を守りながら原隊に合流、あるいはそのまま第3方面軍駐留地に向かうよ」
「了解」
私の言葉に留年部隊の全員が一糸乱れぬ動きで箒にまたがり、浮き始めている。
この1か月間、一杯訓練をしてどうにかこの練度まで漕ぎ着けた。
だが、二人はその光景に驚いていた。
底辺部隊がこんな動きをするなんて。と言った処だろうか。
<オネスト04と05へ。可能な限り速く飛べる? ひょっとしら襲撃されてる可能性があるからさ>
私が通信でそう言うと、二人は慌てて行動を始める。
<だがまだ部隊が襲撃されてると判った訳じゃないんだろう?>
05がそう言う。
<うん、何もなかったらそれでいいんだよ。さ、じゃあ行くよ>
<ちょ、ちょっと待って!速い……!>
04がそう慌てて加速を行う。どうやら04の箒は大丈夫らしい。
こうして私達は駆け足で原隊が通った道を辿った。
そして、私達は見た。戦場を。
通信は酷く混信している。よく聞かないと聞き取れないが、要約すると<助けて>とかそういう内容だ。
思わず皆が息をのむ。
生徒たちが、仲間達が、学友達が敵の正規の魔導士達に襲われて追われているのだ。
それはあたかも狩りのようだった。
<オネスト04。箒の調子は大丈夫? 大丈夫なら加速して第3方面軍駐留地へ>
私は指示を出す。
<オネスト05は04と一緒に駐屯地へ。というか皆04と05を守って駐屯地へ向かって。援軍を要請して。私は可能な限り敵を引き付けてみるから>
皆が生き残る為に、私は指示を出す。
<引き付けるって……そんな事が!?>
<無茶よ!!敵の襲撃に飛び込むなんて!>
オネスト04と05は抗議をする。
<速く行って。助かる命が助からない>
それでも私は受け入れない。
この体でどこまでやれるかは分からないが、とにかく可能な限り戦う。
二人は何か言いたそうだが、観念して承諾をする。
<俺はお前に付いて行くぜ、隊長。なに、自分の身は自分で守れるさ>
02がそう言いだした。
ちょっと心配だけど、まぁエルヴァンなら死なないかな……多分。
<好きにして。じゃあ皆、私が先に飛び込むからそしたら一気に駆け出して>
そう言って私は箒を戦闘形態にして、加速した。
つづく
どうにか1話へ繋げる事ができました。
オネストがネオストになっていたので修正しましたが、漏れがあるかもです。