31話 緊急連絡手段
「かー。こいつはひでぇや……」
ファーナー祝福帝国 魔法制空軍 ヴァルネク島基地であったそこは、最早瓦礫の山であり廃墟そのものであった。
「誰かそこに居るのか!? や!これは少佐殿!無事でしたか!!」
瓦礫の中にいる生存者をみつけようと捜索をしていた兵士の一人が彼を発見する。
見れば彼は隠されていた地下の階段からひょっこり身を出していた。
「ああ。どうにかな。基地司令も下にいる。だが負傷している。人手が欲しい。何人か下に行ってほしい」
「おーい!地下に基地司令がいるぞ!負傷しておられる!救護班は向かってくれ!」
少佐の言葉に兵士はそう叫んで、救護班の兵士達がこぞって地下へと向かっていく。
「状況をしらせろ」
少佐はそれを見つつ、兵士に尋ねる。
「当基地は9割を喪失。ストルボイ索敵基地も壊滅。クラシノ採掘施設も7割が喪失。湾港設備も8割が破壊されています」
兵士は淡々と報告を行う。
「ベルーシャ島は?」
「はっ。ベル―シャ島は民間居住地であり、大規模な攻撃は免れたようですが、主な通信施設と自衛の為の対空部隊は半数が撃破されています」
「全く…ここまで激しくしといて民間人にだけは甘いんだな。まあいい。どうにか今日明日の飯の心配だけはしなくて済むな。それにベル―シャにも作業用ゴーレムはあったろ?」
「はい。しかし、ベル―シャ島だけの作業用ゴーレムだけではとても手が足りません……」
「ないよりはマシさ……それにこんな有様じゃ贅沢も言ってられん。」
それにしても、と少佐は言う。
「随分痛めつけられたな。クラシノ採掘施設7割か……魔法石の採掘は無理そうだな」
「はい……大型の掘削ゴーレムも破壊され被害は甚大だそうです」
「こりゃ破棄も視野に入るな」
兵士の報告に少佐はそう言ってみせる。
「本当ですか?」
「俺は上層部じゃないから分からないが、それも視野に入ってるだろうな……我が国の魔法石の採掘や魔法水晶の加工施設はここだけではないしな」
ちなみに、魔法石とは魔法水晶の原石であり、遥か昔はこの石のみを杖に仕込んで魔法を使っていたとされているが、彼らの神グードリエルが魔法水晶への簡単な加工の仕方を考えて以来、魔法水晶が主流となっている。
「しかしまぁ。何度も言うが随分とこっぴどくやられたな。敵は一体どこの部隊だ?」
「ルーシャー島、リーワースの部隊の他、不確かな情報ですが破壊が居たそうです」
その言葉をきいた少佐の表情が変わる。
「ルーシャー島にデーストルーク!? それは本当なのか!?」
少佐は驚いた声を上げる。
「い、いえ。まだ不確かな情報で……」
兵士はバツが悪い様子で答える。
「なにぶん、迎撃に上がった制空魔導士達は軒並み撃破されて、辛うじて口が利ける者からの報告でして……」
「そいつは……」
あまりに酷い報告に言葉を失う少佐。
「いや、不確かでもいいからこれは本部に知らせないと駄目だな!おい!通信設備は!?」
直ぐに気を取り直して通信の有無を尋ねる。
「そ、それが敵に破壊され……携帯型通信道具の中継局すら破壊されて外部への連絡が絶たれています……本当に孤島状態なのです…」
「ベルーシャ島の通信機能は? 民間の奴もあっただろう?」
「望みは薄いかと……通信施設を念入りに攻撃している様子でした」
その兵士の言葉に再び表情が変わる。今度は思案の表情であった。
「敵の次の狙いはなんだ……?」
「次?」
「ああ、こうも執拗に通信施設を破壊するとなると、狙いは他にあると思った方が良い」
士官教育の基本だぞ。と小言を言う少佐。
「アヤンカンではないでしょうか? 今アヤンカンにはオールドー艦隊が居ますよ」
「アヤンカンか……なるほど。ルーシャー島とデーストルークなら潰せるって腹か? よし、じゃあついてこい」
そう言って少佐は歩き出す。
瓦礫の山を越えて、島の西側の森区画へ向かう。
「少佐殿、ここは?」
「なに、レッサーグリフォンの飼育エリアだ」
「レッサーグリフォン!?」
兵士は驚く。
レッサーグリフォンとは小型のグリフォンで成長しても1m程度にしかならず、今はもっぱら狩りの支援目的で飼育されていたりする。民間の愛好者が多く、大会もあるらしい。
そもそもグリフォンとはその昔、人類がまだ空を手に入れる以前、飛竜と並んで人類に飼育されていた魔物であった。
全盛期では飛竜・グリフォンの保有数こそが国力であるとされていた時代すらあったが、今は最早、的にすらならないとして殺処分や保護区域への放出、警察や魔物園に提供されている始末である。
「伝書グリフォンだ」
「で、伝書グリフォン……ぶ、文明崩壊……?」
兵士はさらに驚く。
伝書グリフォンとは伝書鳩の一種である。要は鳩ではなくグリフォンを使うのである。この場合はレッサーグリフォンではあるが。
しかしこれも衛星ゴーレム通信が当たり前の時代となってるこの現代、それはもう「冗談でしょ?」と言う具合である。
「ま、普通はそう思うよな……」
少佐は気持ちは分かると言わんばかりの口調で答える。
衛星ゴーレム通信が当たり前となっていると言ったが、無論それを無力化させる手段も当然ある。それこそ使用すれば報復合戦となって世界が滅んでしまうレベルの魔法兵器もある。
ファーナー祝福帝国は超大国であるからして、そのような状況下でも戦闘継続ないし通信手段の確保を模索していた。
「……という事もあって、極めて原始的だが、各基地最低でも3匹は飼う事が義務付けられてるんだ」
「初めて知りました」
と、目的の場所へ到着するまで、そのような説明を行っていた少佐。
「しょ、少佐殿!? じょ、状況はどうなってるんですか!? しゅ、襲撃は!? かなり燃えて、海の石油採掘施設も壊滅状態で」
飼育小屋の近くまでくると、中の飼育係が慌ててやってくる。明らかにうろたえている。
無理もない。魔物・動物好きが高じて閑職とはいえ天職に配属となっていた彼は、明らかに不慣れであったからだ。
「うろたえるな!通信施設が軒並みやられて、ここを使用する時が来ただけだ!ここに配属される時に言われただろう! ここが使用される時は最悪な状況であると!」
「そ、それはそうなのですが……り、了解しました! 既に紙とペン、各種類の印を用意しております!」
そう言ってビシッと敬礼をする。
かくして少佐は「我ユージニィ諸島 被害甚大。通信途絶。最寄り基地・艦隊は警戒を厳にせよ」という内容の文章をしたため、レッサーグリフォンの数が許す限り最寄りの基地へ飛ばすのであった。
「お前さんもまさかここが使われる事になるなんて思いもしなかっただろう?」
最期のレッサーグリフォンを飛ばし、その姿を見届けると少佐に付いていた兵士がそう飼育係に言う。
「はい……でも役にたってよかったです。でも……」
「でも?」
「この戦争は……一体どうなるんでしょうか?」
「さあな……」
飼育係の問いに、兵士はそう答える他なかった。
レッサーグリフォンは廃墟となったユージニィ諸島を目尻に、夕焼けの空を飛んで行った。
つづく
衛星電話くらいありそうですが、あえてやりたかったのでやりました。後悔はありません。




