28話 悪夢
夢を見る
また悪夢だ。
中央歴1858年(グードリエル歴544年) 1月27日。
プロターゴ東合衆王国 ロブリック 上空。
また映画みたいなタイトルが出てきやがった。
この悪夢は相当タチが悪いのか、こうやってデカデカとタイトルが出てきやがる。
<クロウ隊無事か!?>
夢の俺がそう叫ぶ。
夢の中、俺はロブリックの空で、『謎の武装航空魔導士隊』と交戦を行っていた。
今となっては謎でも何でもない。敵はくそったれたファーナー祝福帝国の連中だ。
<こちらクロウ02!どうにか無事です!>
<03、04ともに無事です!>
部下たちが無事を知らしてくる。
≪上空の航空魔導士!どこの誰でもいい!通信に出てくれ!≫
敵味方のファイアランスが飛び交うくそったれた戦場の中、ふいに高出力通信魔法が飛んできた。
こんな馬鹿みたいに強い通信魔法が出せるのは1つしかない。
≪こちらプロターゴ東合衆王国海空軍所属 第3艦隊旗艦『ゴールドホース』!通じているか!?≫
ロブリックの軍港に泊まっている第3艦隊の旗艦様である。
<こちらロブリック防空団第04隊クロウ隊。聞こえるかゴールドホース>
≪こちらゴールドホース!やっと出たか!そちらの状況を伝えてほしい!≫
見てわからないのかこの馬鹿は。
<見てわからないか? 襲撃されてるんだよ! ファーナー祝福帝国との帝国制空軍の紋章が嫌という程見えてる!>
≪やはりファーナー帝国か!≫
それくらいしか攻めてくる国がいないだろう。馬鹿か。
<それでゴールドホース、どうすればいい? まさか時報が欲しい訳でもあるまい!>
≪時報はいい。それより時間を稼いでほしい。現在ゴールドホース以下我が艦隊は出航準備中である。こちらの出航が完了するまで防空任務をお願いしたい!≫
≪こちらはロブリック防空司令部だ。勝手にうちの部隊に防空任務つかせるなと言いたいがこんな状況だ。クロウ隊、ゴールドホースの連中を死なすな。死んで勝ち逃げを許すな≫
何勝手に空海軍が防空隊の俺に命じているんだ馬鹿じゃないのかと言おうとした時に、その防空司令部から通信が入る。聞いていたのだ。
そもそもうちのボスと第3艦隊司令とは仲がいい。賭けをして奢り奢られる仲だ。この前はうちのボスが負けたらしい。
<クロウ隊、了解。全員聞いたな? うちのボスが賭け事の恨みがあるから船の連中を死なすなとの要求だ。行くぞ>
<賭け事って怖いっすね。クロウ02了解>
<03、04ともに了解>
<こちら04、勝手に言わないでください、まぁ了解ですけど>
そういって、俺たちはゴールドホースに纏わりつくクソったれな敵航空魔導士どもを叩き落すために加速する。
この時、まだこの先の運命を知らなかった俺たちは、快適な防空任務に就いていた。
あの瞬間が起きるまでは。
≪こちらゴールドホース。クロウ隊無事か?≫
ゴールドホースの防空任務に就いてからしばらくが経過する。
途中、艦から発空した直衛部隊やスワロウ隊やオウル隊の連中が来たりと、随分と賑やかな空になっていた。
<ああ、そっちもまだ大丈夫そうだな>
≪出航準備が完了した!感謝する。これより対空攻撃を本格始動する!≫
そういって軍港より、次々と艦が助走からの飛行に移る。
艦は重装甲高火力だが鈍重であり、急な飛行はできない。その為の直衛部隊なのだが、うちがレンタルされた。
それもこれもクソ平和主義のクソ政治家どもが予算を削っていたからだ。
こんなファーナー祝福帝国とかいうクソッタレの狂信者どもがバシバシ戦争をしているご時世に!クソ政治家どもは「武装を持たなければ戦争にならない。外交による平和こそ我が国の国是」と馬鹿みたいな主張をしていたのだ!!!
俺の国批判を他所に、ゴールドホースは飛び立った。
ゴールドホースは対空攻撃を開始し、纏わりつく敵航空魔導士をたたき落としていく。
<よし、これで……>
どうにかなる。と思っていた。
ゴールドホースは我が国でも1・2を争う程のデカい艦である。それだけに希望を見出していたのだ。
現に俺隊は全員エースになるんじゃないか。という程敵を落としている、敵の攻勢も弱まってきている。
だが、その希望と楽観は、次の瞬間に撃ち抜かれた。
<な>
02がそんな間抜けな声をあげる。
無理もない。目の前でゴールドホースが法撃で撃ち抜かれたのだから。
<敵法撃!!?>
<くそっ!!さらに対魔導士攻撃!!!遠方攻撃!!散開!散開!!!>
さらに追い打ちを掛けるように、雨のように降り注ぐ小型のファイアランスとサンダーランス。
小型の、それもこんな大量のファイアランスとサンダーランスを降らせるような芸当ができるのは我が国以外では敵ぐらいなものだ。
俺たちは回避運動を取るが、ゴールドホースの直衛部隊や他の部隊の何人かは当たって爆散する。
それを他所に、ゴールドホースは爆発炎上し、次々と魔法水晶の暴走爆発による誘爆を起こしている。
防空司令部がうるさい程にゴールドホースに呼びかける。
ゴールドホースは答えない。ただ無言で海に残骸をばら撒きながら力なく堕ちていく。
<どこから撃ってきた!?>
≪作戦領域外からの攻撃だ!相当な距離からだぞ!!≫
俺の呼びかけに、どうにか司令部は答えた。
≪くそ!!敵増援さらに確認!!≫
<全員、覚悟を決めろ、行くぞ!>
そう俺が言うのもつかの間、状況が一変する。
≪なんだ!?この魔導士群、動きが尋常じゃないぞ!!?≫
司令部が明らかに困惑した様子で叫ぶ。
<まさか中央大陸の戦争で有名なあのシリウス隊か!?>
誰かがそう叫ぶ。
噂はここ東大陸のプロターゴまで届いている。相当に強いそうだ。と。
<敵航空魔導士、高速で接近!!>
そうクロウ02が叫ぶやいなや、敵航空魔導士が高速で接敵―――からのすれ違いざまからのファイアランス。により、クロウ03と04が堕とされた。
<なっ―――>
と俺達が間抜けな声をあげるうちに、敵はクルリと翻って他の部隊を食い始める。
それに加えて、後続の敵魔導士達が集団で正面から飛んでくる。
前方のミノタウロス、後方のサーベルウルフ。という奴である。
昔、まだ箒ができる前の昔、まだ魔物が各地に当たり前のように跋扈し、未踏のダンジョンや迷宮が数多く残っていた時代、それらを攻略する冒険者たちの中でできた諺である。
前方には鈍足だが致命的な攻撃を繰り出す怪力でタフな牛の化け物、後方に動きが速く攻撃を貰うと致命的になりうるサーベルウルフとかいうデカい狼。
これが意味するものは一つ、明確な死である。
なんて奥ゆかしくも無慈悲な諺なんだろうな?
そう、俺たちは間抜けな冒険者のように、簡単に、あっさりと、馬鹿みたいに、やられていった。
≪敵艦、作戦領域へ侵入を確認。なんてこった。こいつはオールドー艦隊の『ユースティティア』だ……≫
司令部がそう力なく伝える。
正義。とあちらさんが呼ぶその船は、最早海面から黒煙をあげるしかなくなったゴールドホースよりも大きく、それでいて優雅であった。遠巻きで見てもわかる。
≪……全部隊に継ぐ。司令部はロブリックを破棄し、撤退を行う≫
苦虫を噛み殺す音が通信ごしに伝わる。
<なんだって!?>
無事な連中がそう叫ぶ。
≪全部隊、言いたい事はわかる。だが、現状ではこれらの敵戦力を覆す戦力はない。全部隊、撤退せよ!!≫
そう決断したように断言する司令部。
かくして、俺達は負けた。
<隊長!!危ない!!>
撤退を告げられて頭が真っ白になって馬鹿な新兵同然のようになっていた俺を現実に戻したのは、クロウ02と、敵の苛烈な攻撃だった。
クロウ02は粉微塵になり、箒の残骸や肉片、そして血が俺に掛かった。
それからどうやって近くの基地へ降りたか、記憶がない。
ヴァーウェアの軍人病院で正気に戻り、クソッタレな帝国を1人残らずぶち殺すと決意する頃には、2・3回は行われたであろう奪還作戦が悉く失敗し、海空軍はほぼ壊滅。陸もハンプールまで攻め込まれ、まともな戦力はソーニッジの第3方面軍のみという有様だった。
それを……。
「夢か」
俺は目覚めた。
ここは大型艦『ホークランド』の艦内。
やっと再編成してどうにか艦隊と呼べる船団に仕立て上げて、俺たちは敵の前線基地をぶっ潰して、ついでにあのオールドー艦隊も沈めちまおうというイカレタ作戦に、俺は参加させられている。
気づけばそろそろブリーフィングの時間である。俺は早々に着替える。
着替えが済み、宛がわれた部屋を出ると、そこにはあのクソ生意気な小僧がいた。
……悪夢の片割れの一人を目の前で叩き落したあの小僧である。
「ヴァレッド少佐。今呼びに行こうとしていた所です」
「ふん。敬語の似合わないエルヴァンか。敬語は無理に使わないでいいぞ」
「そりゃ助かるね。 少佐、ブリーフィングの時間だから来てほしいと」
「了解した」
そういって俺はブリーフィングルームへ向かう。
「なぁ少佐」
「なんだ?」
振り返る。なんだこいつ。
「あんたの悪夢は、たぶんもうすぐ無くなるだろうよ」
いきなりの言葉に、俺は膠着する。
「まぁ例に漏れず、あのリーナが多分、あんたの悪夢をぶち抜くと思うんだ。まぁなに。そん時は遠慮なく褒めてやってくれよな」
エルヴァンの小僧はそう、どこか恥ずかしそうに、言い切った。
「急にどうしたエルヴァン。生意気な口をきくな。張っ倒すぞ馬鹿野郎。まずお前が褒めたらどうなんだ」
とりあえず言っておく、すると小僧はフーンホーンと何か分かったような様子を見せる。
「なんなんだお前。急にどうした」
「いや、なんでもない。です。はい」
そう言って小僧は駆けていった。
本当になんなんだ。今のは。
つづく。
前方のミノタウロス、後方のサーベルウルフ。
前方には鈍足だが致命的な攻撃を繰り出す怪力でタフな牛の化け物、後方に動きが速く攻撃を貰うと致命的になりうるサーベルウルフとかいうデカい狼に挟み撃ちにされる絶対絶命の大ピンチになるという意味。
凄腕の冒険者が考えた『絶対絶命の状況』だというが、近年の調べでは魔物よりも罠や飢えや病に悩まされることが多い事が判明し、出典元が定かではない為、近年では否定されることもある諺。
500年以上前からある諺である為、否定されても使い続けられてる。




