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27話 夕食はまたサンドイッチでよろしいですね

 

 「よかったのですか。閣下。」


 夕暮れ、司令部の司令官室において、副官の軍人、名はケビン・マルサス・ロングハーストと言われる獣人種の男性がデルバート航空魔導軍総司令官に尋ねた。


 「あの者は彼女ら2人と共に飛ぶ者だ。多少の事情は知っておいて問題はなかろう」


 そう言ってデルバートは答えた。


 昼間、デルバートはある人物と面会、否、密命を伝えていた。

 密命と呼ぶにはいささか大袈裟ではある、要はかの学院部隊のリーナとエルヴァンを見守れ。という命令に過ぎなかった。


 その人物とはクロウ隊隊長 ヴァレッドであった。


 「とはいえ、彼にはいささか刺激が強かった様ですが」

 「ああいうへそ曲がりはこれぐらいが丁度いい」


 等と、二人は雑談を行う。


 「……しかし、学院にはホトホト困ったものですな」

 「うむ、まさか栄えある王立ヴァ―ウェア魔法学院が、成績の悪い者や素行不良者を盾にしようとしていたとは……」


 デルバートは呆れたようにため息をする。


 ファーナー祝福帝国軍の強襲により、非常事態宣言を行い、学院生を動員するに当り、学院側としては成績優秀者をなんとしてでも生かしたいと考えていた。

 そのために、評価を下げる恐れのあった成績の悪い者や素行不良者を集めた部隊を結成し、隊長にある洗脳魔法を施したのだ。

 いわく『率先して犠牲になれ』という洗脳である。

 そして、隊員も隊長に絶対服従の洗脳を施したのだ。


……最も、隊員の方の洗脳魔法はとっくに切れていた。理由は色々とあるが、ケビンの息子いわく「あんな戦闘機動の訓練されたらそりゃ解けるぜ」との事である。


 「それに対してリーナ・アークライトは本当に健気です。世が世なら聖女として尊敬されていた事でしょう」

 「ケビンくん、その発言は聊か適切ではない。気持ちは分かるがね……」

 「これは失礼」


 ケビンの言葉にデルバートは注意するも、その顔は静かに縦に振られている。


 そう、成績の悪い者や素行不良者を集めた部隊とは留年ループ部隊であり、その隊長はリーナだったのだ。

 だが、リーナの魔力数値は97,207。重ねていうが、このメイ・スト世界においての人類の限界は6,000だとされている。最新の論文では頑張れば10,000は行けるとされると言われているが、理論上の話である。


 そんな人類を遥かに超えた存在に、洗脳魔法が効くのだろうか?


 常識的に考えれば無理である。しかしたった1つ掛かる可能性がある。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう、リーナ・アークライトという少女は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


 なんたる献身であろう?

 ここが500年前やファーナー祝福帝国なら、その献身さに全ファーナー国民が感動し、聖女として祭りあげられる事だろう。


 しかしここはプロターゴ東合衆王国である。

法律や憲法で子供の安全と健やかな成長が無条件で保証される国である。

ましてや学院生の動員など国のやる事ではないと考え、地獄に落ちるべき所業とさえ思っている元帥職のデルバート航空魔導軍総司令官である。


 このような未来ある慈悲深い少女を、軍だの戦争だのに使ってはいけない。と考えていた。


 だから彼女と、彼女の部隊を隠し、あくまで学院部隊の活躍として控えめに発表しているのだ。


 「結局、洗脳魔法の指示を出した学院理事長は逮捕。教員達の入れ替えも早々に行われるでしょう」

 「うむ。わざわざ文化大臣にご足労の甲斐あってだ」


 ふー。と息をつくデルバード。

 学院理事長の逮捕は大掛かりな根回しを必要とした。

 下手に動けば軍の独断と言われ兼ねないからだ。幸いデルバードは昔生物学者であった事からもコネクションには困らなかった。



 「それで、彼女の戦後の処遇は? 幸い彼女の才能なら技術部でもやっていけるでしょう」

ケビンは言う。

 「だが彼女としては目標は別にあると言う」

 「ほう? 差支えないのなら教えて欲しいですな」

ケビンは興味津々と言った具合に尋ねる。


 「空に塔、いや塔状のエレベーターを伸ばして宇宙へ簡単へ行けるようにして、宇宙の港を造るのが人生の目標だそうだ」

デルバードの言葉に、ケビンは額にシワをつくる。

 「なんですって? 空に塔? 宇宙まで届く? 地面が陥没してしまいますよ」

 「基軸はあくまで宇宙にあって、地上は簡単な設備だけで良いとの事だそうだ」

 「それは……。……不可能ではないですな」

デルバードの説明に、ケビンは一瞬「可能なのですか」と言おうとしたが、ケビンとて航空魔導軍総司令官の副官である、既存の魔法工学知識を動員すればそれは不可能ではないと結論付ける事ができる。


 「不可能ではないですが、一体何年、いや何百年掛かるのかと」

 「彼女は50年から100年は掛かると言った。今技術部にも打診して詳しい年数を計算させている」

 「閣下、まさか」

 「私個人の見解だが、悪い案ではない。と考えている」

 デルバードは確かにケビンの目を見て言った。


 「不満そうであるな」

 「もちろんです。建造は戦後になるのでしょうが、それの建造費はどう捻出するつもりで?」

ケビンは問う。無論彼らは財務省ではないので予算の事は詳しくわからないが、それでも天文的な額になるだろうと簡単に予想がついていた。それこそ、天文学的な話であるからだ。


 「戦後、大規模な軍縮が起こるだろう。そうなれば巷に失業者は溢れるだろう。他国も本土を焦土にされた国々も多く、失業者に加えて難民も問題になるのは明白である。彼等の為の仕事こそが、この『衛星塔』建設事業になるであろう。と彼女は言っていたよ」

 その説明に、ケビンは合点が行ったような顔をする。


 「なるほど……50年から100年の年数はそれだけ雇用の確保にもなる訳ですね……」

 「無論問題は山積みである。そもそも正確な建造年数すら定かではない。そもそもそれは戦後の話だ。今日明日を生きるのに必死なのに1年後の話をしてどうするというのだ。

 だが、彼女の夢と人格は理解できた。彼女の夢の為にも、我々は今頑張らねばならないのだ」

 「ええ、そうですね閣下。それで、書類の手が止まっているようですが」

 「……ケビン君、少し休憩しよう」

 「おしゃべり休憩はされたようですが? ああ、後、夕食は()()サンドイッチにしときましたよ」

ぴしゃりとケビンは言い切り、デルバード閣下はうぐぐと唸る。


 「(エルヴァン、しっかりやれよ)」


 上司が書類の包囲網と格闘している様を見て、ケビンは静かに自分の息子の身を案じていた。


 そして、彼もまた書類の塹壕へと身を落としていくのであった。


 つづく

学院についてはもう少し先鋭的平和主義を押し出そうと思いましたが、不快に思う人もいるので、あの辺にしときました。

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