16話 ある元帥の独白
妙な成り行きになった。
敵がルーシャー島・リーワースの防空陣をすり抜けて我が首都バーウェアを直接爆撃を行いこちらの戦意を挫こうとした事、そしてその護衛に敵エース部隊が付く事が急遽決まった事、それに気が付いた頃には事態は既に始まっており、手遅れかと思われた。
戦力が足りなかった。既に我が軍および航空魔導士は初期の敵攻勢により半壊、再編成を余儀なくされ、他方面軍の再配置にも時間が掛かり、魔法学院の生徒らを動員する禁忌すら犯す始末であったからだ。
だが、敵の爆撃は寸での所で防がれた。
幸いにも敵爆撃船の迎撃時の破損や墜落により湾港設備が数か所破損した程度で、バーウェアの都市機能・湾港機能および市民への損害は極めて軽微。
その立役者こそが、我が国の罪である魔法学院からの動員兵による学院部隊であった。と聞いた時は驚愕した。
彼女らはスフィアゼロ部隊と名乗り、副隊長には私の部下のケビン・マルサス・ロングハースト氏の息子すらいる部隊だったという。
これはこちらから行って勲章を授けるべきか。と、久々に書類からの格闘から逃れる口実ができたと楽観的に考えていた時、彼らが所属している第3方面軍が大規模な攻勢を受けたという報を受けた。
敵がついに決着を付けに来たのか。と半ば諦めかけていたその日の夕方、信じられない報告が上がってきた。
第3方面軍が敵の大規模攻勢を撃退したというのだ。それも敵ゴーレム隊、法撃部隊に多大な損害を被らせて、であった。
これによりバーウェアの危機は当面免れたと言える。そればかりか、反撃の機会すらある。
日々の書類との格闘と連絡会議および素行の悪い将官・士官の免職人事により、ようやく南部の方面軍および航空魔導士部隊の到着の目処がやっと立ったからである。
反攻作戦を行い、敵勢力下にあるハンプール地域を奪取できればバーウェアの陥落の危機はなくなり、北部奪還に光明が見える。威栖都二重王国への援軍派遣も可能となってくる。
その要になり得る存在、それがスフィアゼロ部隊。
……になるかも知れない。
そう思いながら私は第3方面軍司令室へ強行作戦を開始した。無論事前通告をして、である。
かくして私はついに、スフィアゼロ部隊の隊長および精鋭3人と対面した。
幼気な赤毛の人間種の少女リーナ・アークライトと、獣人種のエルヴァン・マルサス・ロングハースト、吸血鬼にしてパールコヴァ家の御令嬢シャロディ嬢、そして人間種のゴトウィン・ギレンセン。ゴトウィンくんのお父さんもよく知っている。
さて、妙な成り行きになったのはリーナくんとの対面時であった。
凛としたまっすぐに見つめるその瞳に反して、彼女は「留年しそう組」であった。
まさに耳を疑った。
彼女の活躍、そしてその佇まいからして、何かの間違いなのではないか。とさえ思った。
しかし彼女の口から次々と信じられない言葉が告げられる。
テスト中に居眠りをして0点、そして起きてれば100点という非常に評価しにくい授業態度であり、そして魔法を使わずに宇宙へ上る画期的な研究……後者の件はここでやるにはあまりにも技術的な話で、私は話題を変える。魔法量の話題を振る。
魔法量、彼女程の者ならば2000以上は硬いだろう。そう思っていた。
だが告げられた魔法量は261であった。
「何かの間違いではないのか!?」と口にしてしまう。
彼女は言う「いやぁでもなんか数値が本当にコレでして」と。タハハと苦笑しながら。
思わず部屋にいる全ての者に魔力数を訪ねて回り、そして私は測定器を持ってくるように命令した。
しばらく経ち、測定器が来て、即座に測定を行う。
数値は『0207』。下がっている。
「あーまた下がってる」
「最大値は何年前のいくつだったけか?」
「んー。5歳の頃の検診時に311だったかな」
等とリーナくんとエルヴァンくんが言いあう。
確かに、魔力量は下がる場合はある。しかしそれは10程の誤差であり、100以上の変動等ない。
あるとすればそれは上昇の際である。
そして私は、数字の頭にある0に見覚えがある。
こう見えて私も昔は生物学を嗜み、魔物の生態と飛行に青春を捧げた過去を持っている。
忘れもしない。友人が魔物の魔力量を計った際に、誤って人類用の測定器を使用してしまった。その時の数値の頭に0がついた。
人類種の測定器は4桁の数値しか測定できない。何故なら人類種の数値は6000以上はないとされているからである。魔物用測定器なら8の桁まではいける。
「この事は他言無用だ。元帥権限で特定機密事案とする。」
これは間違いなく軍機密事案である。
「え、やっぱり低すぎるから秘密ですかっ」
「まぁ強さに説明できねぇからな……」
幸いにして、彼女たちはそんな事を言っている。
その隙に私は司令と腹心にある命令を下す。
「魔物用測定器を極秘裏に取り寄せろ」と。
その後、本来の目的である勲章を授け、帰路へと付く。
また忙しくなりそうである。色々な意味で。
つづく。




