1話 「破壊」来る。
<こちらリゲル01。作戦司令部へ。話が違うぞ。今回の任務は補充員のガキだった筈だぞ!?こっちはもう3人食われた!>
空。いくつもの魔法煙が線を引き、逃げる者追われる者が入り乱れる空。
≪こちら作戦司令部。情報に変更はない。その領域に補充員と輸送部隊しかいない。落ち着いて対処しろ≫
<これがおちついていられるか!明らかに動きが違う!!見た目は周りのガキと同じ学院のローブ姿だってのに!!!>
逃げる者追われる者。
それが逆転したのはほんの少し前であった。
勝ち戦に乗る帝国軍の魔法制空軍は、必勝を期す為に敵王国魔法部隊へ補充される新規部隊を叩く作戦を決行した。
卑怯であると言われるも、それで被害は最小に抑えた方がいいという戦略的判断により、エースすら投入した今作戦は
今まさに帝国魔法制空軍の敗北で終わろうとしていたのだ。
<あいつだ。あいつが来てから全て変わりやがった!>
リゲル01と呼ばれる男は空中で、確かに恐怖と焦りに捕らわれながらそう通信魔法にそう伝えた。
≪リゲル01。対象の情報を可能な限り伝えろ≫
作戦司令部は冷静に情報を収集しようとする。
<わからん!連中の学院のローブを深く被っている位だ!>
≪性別は判断可能か?≫
<女だ!ええい!なんて機動だ!>
リゲル01の通信に、作戦司令部は全隊に通達を行う。
≪全隊に通達、アンノウンは学院の補充員の模様、女学生の模様、警戒を大にして各隊協力してこれを撃破せよ≫
そのような通達がなされるが、帝国側の部隊はそれどころではない様子であった。
<くそっなんて機動してやがる。シリウス隊ですらあんな動きはできないぞ>
≪リゲル01。そんな弱音を吐くな。個別通信でなければ懲罰ものだぞ≫
<くそくらえ!避けるだけで精一杯だ!くそっ見えてる範囲だけでさらに3人殺りやがった!>
リゲル01の通信に、ついに作戦司令部はしびれを切らした様子であった。
≪もういい。作戦は中止!全部隊に通達、作戦は中止!撤収だ!≫
<判断が遅い!> <もう半分以上殺られたんだぞ!> <助けてくr……>
作戦司令部の通達に帝国制空軍の隊員らは阿鼻叫喚の通信を思い思いに入れるが、それでもなお一方的な撃破は続く。
<くそっ、後ろに付かれた!!>
リゲル01の悲痛な叫びが作戦司令部に伝わる。
≪リゲル01、なんとしてでも無事に撤退しろ!今他部隊に支援を……≫
だが作戦司令部がそう言い終わる前に状況は動いてしまった。
<無理だ、振り切れな――――>
途絶える通信。
≪リゲル01? リゲル01、応答せよ!リゲル01!?≫
作戦司令部の問いかけに答える者はいない。
「無事な隊長はいるか!? この際副隊長でもなんでもいい!現場につなげろ!」
「あと諜報部に通達!至急今回補充される学院からの補充員の情報を集めろと言え!」
「その前に総司令部に連絡だ!徒歩で行け!帝国の脅威が出現したと言え!」
「損害は計り知れないぞ!全滅したんじゃないのか!?」
「滅多な事を言うな!」
まさに阿鼻叫喚に叩き込まれた状況に陥った作戦司令部。
<……こちらウングイス02。作戦司令部、繋がりますか? こちらウングイス02……>
その混乱を沈めるかのように現場に繋がった通信。どうやらウングイス02は女性のようであった。
≪こちら作戦司令部。状況を通達せよ≫
その様子にあくまで冷静に問いかける作戦司令部の通信士。
<ウングイス隊は隊長が死亡、02、03は無事ですが他部隊はパルマ隊、ストゥリディ隊が無事ですがどちらも欠員が複数います。
他の部隊は不明。恐らく撃墜されたかと。
こちらの戦果は引率の魔導士を2名、学院ローブを5名ほど撃破しましたが、こちらは被害甚大。作戦は失敗かと思われます……>
ウングイス02の報告に、作戦司令部は悲痛な空気に押しつぶされる。
≪こちら作戦司令部、了解した。作戦は終了。帰還せよ≫
<ウングイス02了解。帰還します>
かくして、帝国軍の魔法制空軍の、王国魔法隊の補充部隊を叩く作戦は、突如として現れた謎の魔導士……容姿からして恐らく学院からの補充員……による奮闘により歴史的な大失敗で幕を下ろした。
これが今大戦の変わり目になると、上層部は警戒を大にしたが、他軍団は『そもそも勝ち戦の上での今回の補充部隊襲撃作戦は我が帝国の汚点ともなる作戦である』として自業自得であると警戒を受け入れつつも不協和音な態度をとる事となる。
ともかく、今作戦で大変な戦果を挙げた謎の魔術師は、以後帝国軍にこう呼ばれる事となる。
デーストルークと。
つづく。