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報告98 生徒が行方不明になったときの対応

【1】


 私は、飛田と別れてからある人物に電話を掛けた。


「もしもし、兄さん?どうしたの?」


「クラスの生徒がいなくなってな。そっちに桜はいるか?」


「うん。いるよ。代ろうか?」


「ああ、頼む。」


私がそう言った直後、弟の歩く音が聞こえた。そして、まもなくして桜の声が聞こえてきた。


「もしもし、北沢先生ですか?一体どうしたんですか?」


「千歳さんが、見当たらないのですが、心当たりはありませんか?」


「え!?千歳が?まだ、そんなに暗い時間じゃないですし、どこかをふらついているのかもしれないです。私も探しましょうか?」


「いえ。とりあえず私のほうで探してみます。1時間たったら連絡します。そのときはご家庭の方に伝えてください。」


「はい。わかりました。」


さて・・・行くか・・・。私は、ある場所に向かって走った。



【2】


 私が向かった場所は、すべての始まりである例の神社だった。もちろん、この場所に水上がいる根拠は全くないし、あとで振り返ってみると、なぜこの場所に行こうと思ったのかもわからない。科学にたずさわる者として、あるまじきことではあるが、なぜかこの場所にいるのではないかと直感が働いたのだ。実際、神社の境内けいだいへと続く階段を駆け上がると、女子中学生らしき人影が、ポツンと一つ佇んでいた。私は、その人影に近づき声をかけた。


「・・・・・水上か?」


その人影は、ゆっくりと私のほうを振り向いた。そして、それは間違いなく水上本人だった。


「北沢?どうしてここに?」


「どうしてじゃねーよ。大塚から、お前がいなくなったって連絡が来たんだよ。ちゃんと連絡しとけよ。」


「そっか、そういえばそのまま自習室に行くって約束してたっけ。それより、どうして私がここにいると思ったの?」


「直感だ。」


「直感?」


「そうだ。」


水上は、少し微笑んで私に言った。


「え?なにそれ?らしくないじゃん。」


「そうか?」


「・・・・・・・・・・・・。」


しばらく、何も言わない時間が続いた。私が何も言わないでいると、水上が先に口を開いた。


「もう、帰るね。これ以上外をふらついていたら、心配されちゃうし。」


水上は、そう言ってその場を立ち去ろうとした。その時、私は思わず彼女の制服の袖をつかんで動きを止めた。


「水上・・・。その前に、少しだけいいか?」


「何?」


「水上は、俺がどうしたいのか聞いたよな。今更だけど聞いてくれないか?」


「え?」


「俺は、この学校に転校してきて、無難に過ごして、友達も作らず、クラスで特に仕事もせずに卒業するつもりだった。それは、勉強に集中したいだとか、友達なんていらないと思っていたとか、そんな理由じゃ断じてない。ただ、そんな資格は自分にないと思っているからだ。」


「でも、誰ともかかわらないってやりすぎじゃない?」


「中学校だって、立派な社会集団だ。俺が何かの仕事や役回りをすれば、その分ほかの生徒の活躍の場は奪われてしまう。そんなことしたくなかった。修学旅行あたりからだろ?水上が俺に好意を持ち始めたのは?」


「・・・え?気づいてたの!?」


「あのとき、とても焦った。自分には、恋愛なんてする資格はない。いや、やってはいけないことだとすら思っていたからだ。その気持ちは、今でもある。だから今までずっと、水上との距離を詰めずにいたんだ。」


「なにそれ?意味わかんない!」


「そうだよな。意味わかんないよな。自分でもよくわからなくなってしまったよ。それでも、その意味の分からないものをただひたすら守り続けてきた。お前ら全員と仲良くなりすぎることも怖かった。でも、一緒に過ごしていくうちに、それはやっぱり無理だって気づかされたよ。特に、不器用だけど一生懸命で本当は優しい水上の姿を見ているうちに、好意を持つようになった。それは、間違いない。でも・・・。」


「でも?」


「・・・・・・・俺には、みんなに言っていない秘密がある。それが、今まで人と距離を置いていたことと大きく関係がある。」


「秘密?どんな秘密なの?」


「それは言えない。自分だけの問題じゃないからだ。やっぱり図々しいか?本当は、誰にも打ち明けずに卒業するつもりだった。でも、水上やいろんな人に言われて、その気持ちは変わったよ。約束する!今すぐ話すことはできない。でも、卒業までには必ず水上に打ち明ける。もし、それを聞いても俺を好きでいてくれたなら・・・。」




「恋人になってくれないか!!」




 私は、ついに言ってしまった。今の私と水上の関係はクラスメイト、教師と生徒の関係ではない。それはわかっているが、どうしても禁忌を犯しているような気がしてならない。私の心中は、緊張というよりは、さまざまな感情が混ざり合い、まさしく混沌というべきものだった。一方で水上は、私から目線をそらすようにうつむきながら、一言つぶやいた。


「・・・そんなに待てないから、早く言ってね。待ってる・・・。」


「・・・うむ、努力しよう。」


「それから、一つお願いなんだけど・・・。」


「なんだ?」


 水上は、今度は目線を横にそらしながら、体をモジモジさせはじめた。それは、今まで見せたことのない姿だった。明らかに照れている。そんな姿を見せられてはこちらまで動揺してしまいそうだ。そんな、所作しょさをしばらく続けてから、水上は口を開く。


「・・・・・・下の名前で呼んで。」


その言葉を聞いて、自分も恥ずかしくなってしまった。大の大人のくせに何も考えられない。私は、ぎこちなく言った。


「わかったよ。それじゃ、帰るぞ・・・・・千歳・・・・・。」


「フフッ・・・北沢も照れてるじゃん。」


「そうだな。思ったより照れるな。こういうのは、というか千歳は俺を名前で呼ばないのか?」


「いやだ、恥ずかしいから。」



「なんだよそれ。」



そう言いながら、私は千歳を連れて神社を後にした。



いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

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