報告91 合唱祭における生徒が乗り越えなくてはならない課題
【1】
「それじゃ、これで帰りの会は、おしまいにして早速練習をしましょう。」
次の日の放課後から合唱祭練習が始まった。私は散々どうするべきか考えてみたが、結局答えは見つからなかった。仕方なくとりあえずは、彼らの様子を見る事にした。田端の指示のもと、クラスメイト達は机を後ろに下げ、グダグダしながら整列をする。その様子を見て、一部の生徒が苛立ちを見せている。合唱祭では、よくある光景だ。ひとまず、私たちは一度全体で歌ってみる事にした。その結果は、当然のように問題点がいくつも浮上した。
まず、指揮者を見て歌わない者が何人もいる。これでは、ホールで歌った時に音ズレが起こってしまう。次に、音量のバランスの問題だ。言わずもがな男子の声が小さい。いや、そもそも歌詞や音程を覚え切れていない。一番声を出しているのが、歌が下手な私なのだからなおさら大問題である。そして、まとめ役である田端も、指示をする事に慣れていない為、練習がグダグダである。そして、それに対して誰も助けない。目立った問題点としてはこんな所だろうか。
もちろん、これはよくある事だし、今後練習を続ければ改善することも容易だ。しかし、今まで北野や高田ありきでやって来たのだろう。周囲の焦りや戸惑いが尋常では無かった。そんなに焦ることでも無いというのに…。誰も文句は言わないものの、練習中の雰囲気は次第に険悪さを増すばかりだった。
【2】
練習が終わった後、何人かが残って今後の練習について打ち合わせをする事になった。しかし、そこにいる男子は、私だけだった。その事がより一層女子たちへの反感を買うことに一役買っていた。
「もう!みんなやる気ないじゃん!!」
水上が言った。その他の女子たちも皆、同じような意見だった。その様子を見かねた私は、教室の隅で様子を見ていた飛田にこっそり声をかけた。
「やっぱり、私がテコ入れをします。」
飛田は、女子たちに聞こえないように小声で私に言った。
「構いませんよ。それにしても、どうして?」
「この子たちは、担任ありきで今までやってきてしまった。このままでは、自分たちだけで練習する事は、無理だと思います。ならば、せめて自分たちだけでやってのけたと思わせてしまった方が、遥かに価値があると判断しました。」
「そうですか…ずいぶんと理由を探しましたね…。まあ、いいでしょう、何かあればフォロー入れますから、思い切りやってきて下さい。あの子達をお願いします。」
「はい…。」
私は、再び女子たちの元に戻り、横やりを入れた。
「とりあえず、問題を整理しないか?まず、何をどう改善したいんだ?」
「は!?何言ってんの!?まともに練習しないやつが多いから、改善とか言ってる場合じゃないでしょ!!」
水上が乱暴にそう言った。周囲の生徒も何も言ってはいないが、同じ意見のようだった。
「そうか、それじゃまずは、練習の空気をなんとかしないといけないわけだな。」
「でも、そんなのやる気の問題でしょ!?」
田端が言った。私は、水上の方を向きながら言った。
「水上、昨日、俺が男子が歌を歌わない理由を教えたよな。歌を歌うことが恥ずかしい事、もっとひどい事を言えば、女性に媚びる事は恥じた。そういう考えが昔から根付いてしまってるって。その事をどう思う?」
「それは、言い訳でしょ!間違った考えだよ!」
「そうか、田端さんもそう思う?」
「そりゃそうだよ。」
「大塚さんは?」
「うん。そう思う。」
「だよな。俺もそう思う。」
私がそう言うと、全員が戸惑った顔をした。私はそのまま話を続ける。
「確かに間違った考えだ。男女平等を全否定するような最低な考えだ。もちろん正さなくてはいけない。だが、その考えを持ってしまったのは、彼らの行いが悪かったからだろうか?違うよな?だがら、恨んだり愚痴を言うのは違うと思うぞ。さっきも言ったが、この間違った考えは、正すべきだ。その為に、男子だけがこの問題に向き合うのは筋違いだ。みんなだ、みんなでこの問題と向き合うんだ。」
「……。」
周囲の女子たちは、固まったまま私の話を聞いていた。すると、大塚が私に聞いた。
「北沢くんがそんな事を言うって事は…。もしかして、いい練習方法があるんじゃないの?」
私は、答える。
「考えがある。明日から試してみないか?」
【3】
「さて、練習の見通しもたったし、そろそろ帰ろう。」
今後の練習の計画を立て終え、私はリュックを背負いながらそう言った。
「そうだね。帰ろうか。」
大塚が言った。私は、水上の方を向いて彼女に言った。
「水上も帰るだろ?」
水上は、私とは反対の向きに居た大塚の方に体を向けて言った。
「塚ちゃん帰ろ?」
「え?…うん、わかった。」
大塚と水上は、そそくさと帰っていった。いつもは、水上と一緒に帰っている気もするが、まあ大塚と話したいことでもあるんだろう。さて、私も帰るとするか。私が、教室の扉に向かおうとしたその時だった。
「北沢くん。その…今日はありがとう。本当にどうなることかと思った。助かったよ。」
私が振り返ると、田端が笑顔でそう言っていた。
「ああ。明日から頑張ろうな。」
私は、笑顔でそう返したのだった。
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